〇〇されてる二見さん
あたしの名前は
この名前にふさわしいと思えるほどの満たされ恵まれた日々を送ってきていた。生まれた瞬間から、高校に入学するまで順風満帆だったといってもいい。
みんな、可愛いあたしに目が釘づけだったし、いつだって目立つポジションに君臨してた。
告白されるのなんかしょっちゅうだし、正直めんどくさかったけど、優越感に満たされてた。ま、あたしは生まれながらの勝ち組だったってわけ。
なのに……高校に入学したあたしは、前ほど見向きもされなくなった。
それもこれもあの女のせい。二見環とかいう、ちょっとあたしより顔が良くて、ちょっとあたしより頭が良くて、その他もろもろあたしよりちょっとだけ秀でてるとかいう、邪魔者のせいだ。
許せない。高校でもあたしがナンバーワンでいるはずだったのに、あの女がいるせいでナンバーツー呼ばわりされてる。
男たちが勝手に作った、校内付き合いたいランキングで初めて一位を譲った。なんて、屈辱っ。
この胸に渦巻く思いを、あたしは力に変えることにした。
あの女を恥ずかしい目に遭わせて、一位の座を奪ってやる。ついでに日頃の鬱憤をも晴らしてやるんだ。
ふんっ、見てなさいよ……!
◇
またか。あの高飛車女め。
私は呆れたようにひとつ息をついた。視線の先にはクラスメイトの満井さんが、意地の悪そうな笑みを浮かべている。
そんな顔も男子たちの心をくすぐるらしく、彼女はおだてられていた。
まぁそんなことはどうでもいい。問題はアレだ。
教室のドアの間に、黒板消しが挟んである。それは上の方に挟んであるせいで、よく目を凝らさなきゃ気づけないようなものだ。
で、あれはドアを開けたら落ちてくるという仕組み。彼女が先ほどドアの外を確認してから設置してたので、ぶつける相手は予想がつく。
そう、二見さんだ。
なぜか満井さんは二見さんを目の敵にしてるらしい。中学校は一緒じゃなかったはずなんだけど、なんの恨みがあってあんなことをするのか。
私は正直、二見さん以外のことはどうでもいいので、思考を巡らせる気はない。とはいえ、あんな蛮行は許してはおけない。
二見さんの笑顔を守ること、それが私の使命なのだから。
さっそく邪魔してやろうと私は席を立ち、教室を出た。
廊下をチラ見するとドアの近くまで来てた二見さんを発見。前田さん、後呂さんと一緒だ。
すぐさま気配を消し、柱の陰に隠れる。
三人がドアの方へと身体を向けたのを見計らって、私はあるものを取り出す。チョークの欠片だ。
さっき教室を出るときに、後ろにある黒板からくすねていたのだ。これを黒板消しにぶち当てて、吹き飛ばしてやろうという考えだった。
二見さんがいつものようにドアを開ける。黒板消しが落下を始めた瞬間、私は持っていたチョークの欠片を弾き飛ばす。
それは猛スピードで黒板消しに当たり、ともども放物線を描きながら、
「うぷっ」
満井さんの顔に乗っかった。高笑いしようとしてたのだろう、背中をのけぞらせていたのが悪かったな。
辺りがシーンとなる。まさかの展開に満井さんがフリーズしている。恥ずかしいのかもしれない。耳元が真っ赤だ。
状況が呑み込めないとばかりに、二見さんも小首をかしげてる。先に復帰したらしい友達たちが、満井さんに声をかけた。
「おーい、だいじょぶか? 粉だらけだぞ」
「遊ぶなら汚れないもんで遊んだ方が良いぞー」
「……お」
「「お?」」
「――覚えてなさいよー!!」
前田さん後呂さんの問いかけに耐えられなくなったのか、満井さんは顔を紅白色に染めながら教室を出て行ってしまった。
チラと視線が合った気がするんだけど、私がやったってバレてないよね……?
とまぁ、今日も満井さんの企みは失敗に終わり、二見さんの笑顔は守られた。
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