〇〇に襲われかける二見さん


 学校が終わり、帰路につく私。

 今日も二見さんをさまざまな危機から守れた……と、満足げな顔を浮かべつつ、前方十メートル付近にある見知った背中を追いかける。

 もちろん、二見さんだ。友達の前田さん、後呂さんと一緒に楽しそうに話している。彼女たちの視線の先にあったのは、桜だ。

 そういえば花見をするとか言ってたな。通学路に点々と並んでいる桜並木、どれも満開でとても綺麗ですもんね。


 「…………」


 とびきりの美人と、桜か。

 花より団子派の私だけど、このツーショットはずっと見てられそうだ。

 

 木の陰からこっそり眺めさせてもらってると、私の目があるものを捉えた。

 二見さんの真上にある木の枝、そこに毛虫がいたのだ。うにょうにょしてるそれは、いまにも落っこちそう。

 彼女はまったく気づいてない。あのままだとどうなるか、容易に想像がつく。


 毛虫が落ちる

   ↓

 二見さんの顔に乗っかる

   ↓

 青ざめる

   ↓

 大声を上げながら縦横無尽に暴れまわる

   ↓

 その様子をネットの海に上げられ、バズる

   ↓

 二見さんがどこを歩いても、指をさされ笑われ、恥ずかしい思いをしながら生きていかなきゃいけなくなる


 ――と、このような図になるに違いない! そんなふざけたバズり方させるか!

 

 とはいえ、敵は枝の上。手で届く距離じゃない。

 こういうときは……テッテレー(脳内音声)サポートアイテムその3、ダーツの矢~!(磁石で的にくっつくタイプ←安全に配慮してます)


 私はダーツの矢を持ちながら、気配を消しちょっとずつ近づいていく。刺激して落下されたら目も当てられないもの。

 十分仕留められそうな距離に近づいたところで、やつめがけ投擲してやる。とりゃっ!


 ブンッと空を切るような音が遅れて聞こえ、毛虫は身じろぎひとつできぬまま、遠くへと吹き飛んでいく。

 よしっ、うまくいったぞ。

 何枚か花びらも犠牲にしたせいか、そのうちの一枚が二見さんの頭に乗っかった。

 前田さんと後呂さんがすぐさまスマホを取り出す。なんかニヤニヤしてる。


 「動くなよ、そのままだぞー」

 「いいねいいね! 綺麗だよ! あ、もうちょい笑って」

 「映えますなぁ、これは」

 「そうですなぁ」


 スマホを向けられ、パシャパシャと写真を撮られる二見さん。

 ほんのりと頬を赤らめながらも、まんざらでもなさそう。軽くピースしてくれちゃってるもの。

 私も撮りたかったけどバレたらいけない。ここはぐっと堪える。


 でも眺めるのはいいよね? タダだもんね?

 自分にそう言い聞かせて、しばし二見さんを視界に収めることにした。

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