第5話

「どうでしたか? 何か得るものはありましたか」

 緑の揺れる温室に引き戻された私は、カナリアさんのいるほうを振り返った。

「父はなすすべなく死んだんじゃなかった。父が長く続く戦争を終わらせたのですね」

「そうです。貴方のお父上は英雄なのですよ」

「知らなかった……ばぁやの偏向教育で教えてもらえてなかったんだ……」

「ふふ、あなたの子守は潔癖な人のようですね」

 カナリアさんは私を家の中に導いた。

「じきに反乱騒動は収まります。これは甘えのようなもので、定期的に起こるのです」

「そうなんですね……」

「貴方のお父上や叔父上は、違う星に生まれ変わる予定なのです。私も寿命が来たら、その方たちと共にその星に向かいます」

「え、そうなんですか!? 私も行きたいな……」

「では、霊界の者にそうするように取り計らっておきましょう。残念ながら、貴方のお父上は子どもを産むことはありませんから、近くにいられるように話をつけておきます」

「嬉しいです……ありがとうございます。カナリアさんはなんでもできるんですね」

「そんなことはありません。私もまた、生命を繋ぐ一人の人間にすぎません」

 カナリアさんは左手をするりと、空気を撫でるように動かした。途端に、そこにシャボン玉のような球体が浮かんだ。何かその中で動いている。見たこともない服を着た人たちが笑ったり泣いたりして生きている。

「これもしかして……来世の様子ですか」

「そう。未来は明るいですわ。どうか焦らず、今生をめいいっぱい楽しんでからいらしてくださいね」

 カナリアさんは微笑んだ。私も微笑み返した。

「分かりました、カナリアさん」


 それからというもの、私は孤独ではなくなった。いつも父が近くで見守ってくれているような気がした。待っててね。私は私のこの人生を生きていく。再会を楽しみにしながら。

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カナリアの国から はる @mahunna

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