第1章 episode1 友達

人間という生物は、意外と適応力が高い。

朝目覚めて知らない人達に囲まれ、歓喜の声を聞いて驚いた日も、いずれは懐かしく感じるらしい。


少年がどうにか二桁の年齢に届いた年、暖かい春の陽気に人々が狂う頃、変わりのない普段の朝を迎えていた。


目を覚ますと既に畳まれている布団が2組。

どうやら女性は早起きらしい、とそんな事をぼんやりと思考しつつ、体はいつものルーティンを忘れてはいなかった様だ。

枕元に置かれた水を飲み干し、自分の布団を畳む。そして一定方角に向かって一礼。


その後はいつも通りだ。

はじめ、朝だよ」


一番最初に声をかけたのは、自分より少し年上の男の子だった。

彼か少年、どちらかが起床すると同じ様に声をかけるのが習慣になっている。


「ん・・・おはようございます」


一と呼ばれた少年は微笑みながら答える。そして葉月より覚醒速度が早かった。

天然と思われる茶色と黒の混ざった髪、嫌味がない程度に整った顔立ち、少し華奢な体型だが、テキパキ動くその動作は年相応とは程遠い。葉月がそれを見て思う感想はいつもと同じ。


『歳はそんなに離れてないのに・・・何が違う?夜な夜なカードで遊んでたのは同じなのに・・・』


そんな事を考えている間にも一はどんどん着替えを済ませ、意外と筋肉質な体を、今は茶色のロンティーの上から黒のパーカーを羽織り、下半身は少しゆとりのあるスウェットになっていた。


「葉月は着替えないの?」


その問に我に返った葉月は、着替えを見下ろしていた。

今日の服は少しタイトな青い半袖のティーシャツ、その上から白いセーター、下は黒いジャージ。


そういえば今日はこの服の日だったか・・・と思いながら体が勝手に着替えはじめる。


「で、どうする?」


葉月は尋ねる。


「荒療治しかありませんね・・・」


少しため息混じりに一が答える。


そう、布団は5組。約1名、スヤスヤと眠っている男性に2人は目をやる。


「「起きろ!高志たかし」」


2人で同時に毛布と敷布団を引っ張る。

葉月には布団を引っ張る力は無いので毛布係だ。一方の一はずるずると男性の体を布団から見事に畳へ追い出す事に成功していた。


「痛い!痛いからそれやめて!?特に布団引っ張るのやめて!?」


高志と呼ばれた男性は背中をさすりながら叫んでいた。


染めているのだろうか?赤色の髪にピアスが複数ついた耳、20代前半に見えるが、すれ違ったら絶対関わりたくない、悪い意味で整っている顔の男性はゆっくり起き上がって伸びをしている。


「もうみんな着替えてますよ、高志さん」


一に強引に促され、渋々身支度を整えはじめる。


「お前等が早起きすぎるんだよ・・・まだ痛い・・・」


着替え終わった高志は、まぁ想像通りのヤンキー?不良?みたいな服装にジョブチェンジしていた。


長い脚に映えるジーンズ、赤いロングティーシャツの上から更に赤いジャケットを被せ、どこからともなく灰皿を手繰り寄せ、タバコに火を付け白い息を吐いていた。


「ま~たそんなもの吸って・・・健康に悪いらしいですよ?」


「いいんだよ、俺はこれがあれば生きていける」


そんなやり取りをぼんやり眺めながら『前に副流煙とか聞いた様な・・・』

と思い少し距離を取ろうとする葉月。


「葉月、お前もどうだ?うまいぞぉ」


「前に吸ったら死ぬかと思った、いや死んだ。だから絶対やだ」


「年端も行かぬ少年を惑わせないで下さい!」


いつも通りに日常である。


男3人集まればくだらない話でも盛り上がる。何度同じ話をしても飽きない。


親友と呼べるだろう彼らは、どうやって女性陣の着替えを謁見するかについて議論をしていた。

正確には彼、が。


「やっぱ徹夜作戦はダメだな、着替えも別室でしてるし・・・ここは間違えた風を装って・・・」


「高志さん、それで3回くらい死にかけたの覚えてないんですか?」


「そんなに見たいのかなぁ?」


なんやかんや言いながら付き合う2人も、同罪扱いされるだろう。それでも語り合うのは、やはり楽しいからに他ならない。


襖が少し開いてるとも知らずに・・・

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ニアリーイコール 一条 九条 @Methylphenidate

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