マリーちゃんとさゆり先生

天城らん

マリーちゃんとさゆり先生

 元気いっぱいのいずみ小学校。

 その図書室の先生は、さゆりさんです。

 さゆり先生は、いつも図書室にいます。

 毎日、本の整理や学校のお友だちのために本の紹介などを書くのです。

 でも、学校のお友だちはあまり図書室に来てくれません。

 図書室にはこわーい怪談ばなしがあったからです。

 

 *

 

 それはこんな話。

 いずみ小学校の図書室には、戦争よりも昔にアメリカから送られた「青い目のお友だち」がいます。

「青い目のお友だち」というのは、金髪に青い目でピンクのドレスを着たお人形さんのことです。

 名前は、「マリーちゃん」といい図書室の本棚の上にかざられています。

 けれど、マリーちゃんはいずみ小学校のお友だちからあまり好かれてはいませんでした。

 なぜかというと、もうボロボロでお世辞にもあまりキレイとかカワイイとか言えなかったからです。

 だって、想像してみてください。

 いくら大切にしていたお人形でも、80年近くたったら?

 きっと、あなたよりうんと年上になんじゃないかしら?

 おばあちゃんよりも、おばあちゃんかも?

 マリーちゃんは目は今も昔も変わらずに真っ青で大きいのに、お洋服は色あせてピンクから白っぽいような黄色っぽいような色になっています。

 お顔も日に焼けて黄色くなって、少しホコリでくすんでしまっています。

 かわいそうなマリーちゃん人形。

 そして、それが誰もいない図書室で歌ったり踊ったりしているというのです。

 みんなが怖がるのはしかたないことかも知れません。

 

 だれか見た人がいるのかって? 

 保健室のけいこ先生や新聞部のみゆきちゃんや卒業した読書クラブのまことくんも見たそうです。

 けれど、いずみ小学校に来てまだ3か月のさゆり先生は、そんなのは見たことがありません。

 だからといって、その話を信じていないわけでもありませんでした。


 だって、さゆり先生が一人でいると触っていないのに本がパタンとたおれたり、あるはずの本がいくら探しても見つからなかったりするからです。

 さゆり先生も、これはいけないと思いはじめました。

 誰もいないところで歌ったり踊ったりするだけならともかく、人を恐がらせたりお仕事の邪魔をされたら困るからです。

 それで、さゆり先生はみんなが帰った放課後、夕日のさす図書室で思い切ってマリーちゃんに声をかけました。


 *


「マリーちゃん、みんなが怖がるようなことや、先生のお仕事の邪魔をしないで欲しいの」

 本のことなら何でもわかる先生も、恐い話は苦手でした。

 でも、みんなが図書室にたくさん来てくれるためにも、なんとかマリーちゃんと話をしなければいけません。

「マリーちゃん。返事してよ……」

 すると、本棚のガラスの人形ケースの中から声がしました。

「わたし、悪くないわよ。動き出すのは誰もいなくなってからだし、ここは図書室なんだから本を借りたり、読んだりするの当たり前でしょ? 

 先生に怒られるすじあいはないわぁ」

 マリーちゃんは、よいしょと言いながら箱から出てきました。

 さゆり先生はマリーちゃんの声をはじめて聞きました。

 鳥がさえずるような可愛らしい声です。

 先生は、びっくりして二回瞬きをしました。

 そして、考えました。

 マリーちゃんの言うことももっともです。

 歌ったり踊ったりするのは人がいなくなってからだし、みんなの図書室なんだからマリーちゃんにだって、本を読む権利があるような気がしたからです。

「さゆり先生、聞こえてる?」

 マリーちゃんに名前を呼ばれて先生はハッとしました。

 そういえば、この学校に始めてきた時、校長先生が『マリーちゃんが、昔みたいにみんなのお友達になれるようにお手伝いしてくださいね』といったのを思い出したからです。

 言われた時は、不思議に思っていましたが校長先生は、マリーちゃんが寂しがっていたことを知っていたのでしょう。

「マリーちゃんと学校のお友だちが仲良なるためには、どうしたらいいのかしら?」

 つぶやくようにさゆり先生が言うと、マリーちゃんは一冊の手芸の本を持ってきました。

「あのね、マリーもドレスよりみんなと同じ制服が着たいな~」

「それは、素敵な考えね!」

 さゆり先生は指を針で刺しながら、慣れない手つきで、マリーちゃんにみんなと同じ青い制服を作りました。

 そして、ホコリで少しくすんでいた頬をふいてキレイにして、もっていたお化粧道具でマリーちゃんのほっぺと口を可愛らしくピンクにしました。

「これで、今日からマリーちゃんもいずみ小学校のみんなとおそろいの制服ね☆」

 見違えるようにかわいくなったマリーちゃんに先生は、『マリーちゃん』と名前が入った本の貸し出しカードを手渡してくれました。

「これからは、マリーちゃんも本を借りるとき先生にいってね」

「はーい!」

 マリーちゃんは、よろこんで貸し出しカードを抱えると、いつもいる本棚の上へもどりにっこりと笑い動かなくなりました。


 *


 それからいずみ小学校のみんなは毎日、マリーちゃんにあいさつをしに図書室に来るようになりました。


 あれから動くところを見ませんが、マリーちゃんの貸し出しカードに確実に本の名前が増えているのをさゆり先生はちゃんと知っていました。



  ☆おわり☆



******

 本作は、掌編・短編集の『短編の宝石箱』に収録していたのですが、今回カクヨムコンに参加して、短編私小説の「図書室とマリーちゃんと私」をずいぶん読んでいただけたので、その関連小説として別枠でUPしてみました。

 私が、図書室で働いていたことの証というか、子供たちに向けてのメッセージと言うか何か残したくて書いたものなので、「図書室とマリーちゃんと私」と合わせて読んでいただけたらうれしいです。


★図書室とマリーちゃんと私 - (私小説、短編、カクヨムコン令和の私小説にエントリ中)

https://kakuyomu.jp/works/16817330650821917551


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マリーちゃんとさゆり先生 天城らん @amagi_ran

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