10年後

☆彡


 卒業から、10年もたった。一度翠夢と瑠璃は進む道が違うのだと別れることとなったが、それは正しかったのか?

 それは、誰にもわからない。好きな人が居なければ、その時にまた……という話だったが、その話はまだなかった。


 別れる前の約束。それは…付き合い始めた時、その場所で会う約束だった。10年後に。


 学園祭。10年後にも行われていた。もう行く理由は特にない。せっかくだからということで参加者として翠夢は楽しんでいた。かつて抱えていた問題も解消され、完全に落ち着いたと言えるだろう。

 10年後の時。それはいろいろな状況を変えてしまう。人々の関係、住んでいた場所の風景、どこにいるのか、働いているのか…


 そんなこともあり、連絡手段こそ残っているが、きっと戻ってこないだろう。そう思いつつも、窓の外を見つつ、部屋で待つ。すると、とある人が部屋に入ってくる。振り向くことはない。入ってきた人に、後ろを向いて話し始める。


「やはりいた。ここにいると思ったよ」

「待っていた。この部屋は、俺と君の2人の関係が始まった場所だ」

「ここから、ですよね。10年前はいろいろあった。翠夢さんのおかげで、いろいろな問題を解決できた」

「そうだな。俺の問題も解決できた。ありがとう」


 2人に訪れてしまう静寂。

「(ここにいるのは、間違いないはずだ)」

 入ってきた人に対して、少しずつ向いていく…そこには…


 想像通り、かつて、少女だった女性が、そこにいた。眼鏡は少し違うが、雰囲気は変わっていない。

「お疲れ様です。翠夢さん。そして、これから、よろしくお願いしま…あれ…」


 2人は、10年後に会う話をずっと覚えていた。10年会えなかった分の感情はここで爆発した。

「ああ…うっ…あの、本当に10年、待っていて…」

「…すまんな。10年待たせてしまって。問題なく暮らせる状態を作って、さらに瑠璃を受け入れられる状態を作った。それくらい時間がかかると思った」

「本当に、いいんですか?もう一度、付き合っていいんですか?」

「ああ。もう一度、付き合おう。そして、その後のことも考えよう」

「…好き…大好き…」


 2人は、確かめた。お互い、相手の後ろに腕を回し、お互いの気持ちを確認するための、舌を絡めて唾液を啜りあう、情熱的で激しいキス。

「んっ、ああんっ…すぅっ…」

「(…好き…大好き…か。瑠璃の唇と舌、柔らかくてすごく…)すぅっ…」


 2人の長いキスが終わったころ、花火が上がり始めた。祭りの最後に行われるものだ。街中だと危ないように思えるのだが、その部分は新技術で対応しているようだった。

 その技術は、かつて瑠璃が利用していた、マインド・トランスミッションの技術が応用されているようだった。

「花火、こんなに綺麗に飛ばせるんですね…」

「今では、実際に形を自分たちで作ることもできるから、気持ちを花火で伝える、というのも出来るようだな」

「ええ、それなら、私もやってみたい。翠夢さんに伝えたいことがあるので」

「俺にか?口ですぐ伝えてもいいが、準備が必要だと思うし、それまで待つ。予想できないわけではないが」


 10年間の間、一度もやめなかった。生きることを諦めることを1人でも。そして、10年の月日が経っていた。

 きっとこれからも、この2人は立ち向かうだろう。過去を背負いつつも、ひたすらに前へ。絶望に負けずに。




 花火が終わる。

 この花火は、2人の新しい出発のお祝いのようなものであった。

「帰ろうか」

「はい。私たちも今日で再出発。良かったんですよね?」

「ああ。本当の幸せをつかむのは、これからだ」






☆彡The End☆彡

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翡翠と瑠璃~心を闇に閉ざした青年と男性を怖がっていた少女~ アフロもどき @ahuromodoki

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