第19話 元のデブインと小さな幸せ

学園の中庭にあるベンチに無言で座り続けること数分…。


耐えきれず私は怒っているヘクター君に謝った。


「あ、あの…ごめんなさい…。色々とその…ご迷惑を…」


「なんで謝るのですか?悪くないことに謝らないでください!それに僕が怒っているのは自分自身にです!いつもミキャエラ様を助けてあげられない不甲斐ない自分に!」


「そんなことないよ。さっきだって格好良かったよ?」

と言うとヘクター君はいつものように真っ赤になるけど首を振る。


「ミキャエラ様…もう検証は終わりましたね…」


「うん…そうだね。やっぱり皆おかしくなっちゃってたし」

するとヘクター君は私の手を握り瞳を見つめたのでドキドキしてきた。


「…ミキャエラ様」


「ひゃい!?」

と心臓が跳ねる。


「そ、その…僕はこれ以上我慢できないんです!」

え、ええ!?我慢出来ないってなにが!?

まさかやっぱりこのヒロイン強制力でヘクター君までヒロインの魅了に!?そ、そんな!!


と思っていたら小瓶を渡された。


「これは?」


「…魔法の太り薬です!侯爵家の給金前払い3ヶ月分の値段でした!魔法薬やで見つけて買いました!……これで直ぐにでも元の体型に戻ります!」


「えっ!!?」

も、元の体型に…!?これを飲んだら??

私の中でしばらく葛藤があった。

《折角痩せたのに飲むの?折角モテたのに??》


「元に戻ってください!ミキャエラ様!もうこれ以上貴方に迫る男達を見たくない僕の我儘ですけど!」

と瓶ごと更に強く手を握るヘクター君。


「で、でもこれ…飲んだらヘクター君に…嫌われない?わ、私がこの姿だからヘクター君も皆みたいに魅了されているかもしれないよ?元に戻ったら…」


「僕は外見より中身が好きです!他の人は皆ミキャエラ様の外見しか見ずに告白したり迫ったりしていましたよね?


僕は元のミキャエラ様も好きです!というか今のミキャエラ様のままだと男達が寄ってくるし!!だから僕は我慢ができないのです!」

我慢てそっちだったのか。


「元に戻ったらまた私は嫌われるよ?皆から…それに不幸なこともたくさん起こるかもしれないよ?今までいい事なんて無かったよ?太ってて」


「それでも!!太ってたって僕がミキャエラ様のことを好きな気持ちは変わらない!飲んで見せたら証明します!」

と真剣に言うので私はもう覚悟を決めた。

蓋を開けクイっと中身を飲み干すと数分後に元の太った私に戻った…。


あーあ、モテ期終了のお知らせだわ。

しかしヘクター君は顔をにこにこさせて嬉しそうだ。


「良かった!!これでもう大丈夫ですね!!」

と言う。


「そうかな?」

と腹も出てるし二の腕パンパンだし大根足だし顔も大福なのに…。と少し悲しんで下を向くとヘクター君は顔を上に上げさせた。


「ミキャエラ様?僕は証明すると言いましたよね?」


「え?」

と言うとさっとヘクター君は顔を寄せて私のぷくりとした唇にさっとキスをして真っ赤になる。


ええええ!?

しょ、証明って!!?これ?


「ミキャエラ様……とても可愛いですよ?…愛してます!!これからも僕と一緒にいましょう!どんな困難も二人で乗り越えましょう!!」

と言い、ヘクター君はもう一度キスをしてきた。


流石に私も心臓がバクバクだ。


「ヘクター君…太ってるのが好きなんて変わってるよ」


「外見より中身ですから!!」

とヘクター君はニコリと笑いいつもと同じように照れながら手を握る。



それから私は学園を辞めたし、会長も私が太ったのを見て急に態度もまた元に戻り侯爵家を追い出されたし…ルイス君や他の攻略対象達も元に戻った。


私はヘクター君が学園を何とか卒業するのを待ちルイス君などの嫌がらせとかに耐えて家を出てヘクター君のおばさん家に厄介になることにした。


まだヘクター君のお店は取り戻せてないけど街でぬいぐるみを売り少しずつお金を貯めている最中だ。

まだ小さな事しかできないけどヘクター君はいつも私を好きでいてくれたし太ってても気にしない。


いつか頑張ってお店を取り戻せたら結婚して幸せになろうと今も約束を守ってくれている。

デブインになって嫌な事だらけだったけど私は幸せだ。


だって隣に普通の人がいるから。

私は普通の幸せを選ぶ。

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デブイン転生!!攻略対象から相手にされずモブキャラ男と婚約しました 黒月白華 @shirofukuneko

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