第24話:新たな祝福

翌朝、侍女が部屋に運んできた朝食を食べ終えた静音は、身支度を整えると客の訪問を受けた。


「静音王女、白水軍将軍、忠海にございます。首長についてご報告にあがりました」

「どうぞ、お入りください」


およそくたびれた様子ではあるが、忠海の顔色は明るく、首長の容態が悪くない事を静音は感じ取った。そしてその予測は正しく、彼は静音と、その横に控える‪狗々裡‬をしっかりと見据えつつ、つとめて明るい声色で報告をした。


「昨晩遅くに首長の意識が戻り、現在は容態も安定され、今朝は食事も摂られております。まだ予断を許せぬ状況にはございますが」

「それでも、首長がご無事で安心致しました。ご連絡ありがとうございます」


 無事とはいえ未だに弱ってはいる、との事であるが、意識も戻り体が急に年老いる、といった事もなかったらしい。その知らせにほっと胸を撫で下ろしていると、続いて部屋に入ってきた人物がいた。


「王女よ、昨日の双白とやらの話、改めてよく聞かせてはいただけないだろうか」


 聞き覚えのあるよく通る声に、静音は息を飲んだ。


「首長、もう動かれて大丈夫なのですか」


 部屋の入口に立っていたのは、まだ顔色も悪く覇気の戻っていない、けれど目元にその威厳だけは損なわず光らせた白水の首長であった。その姿を目にして大きく口を開けた忠海は、咄嗟に星影の元へ駆け寄ってふらつく体を支えた。


「首長、まだ寝ていて下さいと医者に言われたでしょう」


 強い口調でたしなめられ、一瞬悪びれたような顔を見せた星影であったが、彼は忠海の支えを除けて静音に歩み寄った。

 そして静音、狗々裡の顔を見比べると、その正面に座り直し言った。


「私は、そなた達の言葉をもっと早くに聞き入れるべきであった。王宮からの使いより後に来たそなたらの事は、都合のいい嘘をついてこの里に亡命しにきたものとばかり思っていた」


 そして、星影はそのまま床に手をつき、頭を下げる。静音は思わず駆け寄って「頭をお上げ下さい」とその袖を掴んだが、狗々裡は顔色を変えずにその姿を見つめていた。


「あの化物を打ち砕くよう、白水の里も協力しよう。白水軍、並びに白水宮はこれより王宮ではなく静音王女につく」


 星影がそう宣言すると、狗々裡はにやりと笑って懐から小さな宝珠のついた首飾りを取出す。宝珠の色は白く、柔らかく脈打つ光に、星影はそれが“精霊の祝福”であることを悟った。


「ならばこれを使え。今のままでは数日と持たずにお前は寿命を迎えてしまう。まあ、今回の祝福では肉体の時までは止まらんが、人並みには生きられるようになるはずだ」


 精霊の祝福を目の前に、星影は手を伸ばすのを躊躇した。もし、また双白がしたように、この石が原因で命を削るようなことがあれば──そう目を伏せ、彼は不安げに狗々裡を見上げた。


「これは、お前からの祝福か」


 訊くと、狗々裡は宮殿の外を視線で示し答えた。


「いや。白水の里には、双白とは別に里との繋がりが深い精霊が存在している。それがお前に力を貸そうというだけの話──まぁ、目には見えんだろうがな」


 その言葉に、星影は恐る恐る宝珠を受け取った。柔らかく、温かい光。彼が愛おしげにその石を手の中に包み込むと、狗々裡は腕を組んでため息をついた。


「お前がちゃんと俺を信じ話を聞いていれば、初めからこうしていたんだがな」


 言われて星影は苦笑しつつ、宝珠を首に掛けると改めて顔を上げて言った。


「それでは精霊よ、まずは教えてくれ。何故王宮が襲われたのか、そして我々がこれから何をすべきなのかを」


 そして、星影は決意を新たにしたように、瞳に力強い輝きを宿していたのであった。



 狗々裡が一通りの説明を終えると、星影は直ちに白水軍の準備を整えるという事で軍の詰所へと向かっていった。

 この日、彩瀬は別行動である。彼女は父親からの伝令を忠海に伝え、かねてからの目的であった白水軍入隊の手続きのため動いていた。

 幸い、一行の身柄は白水宮で預かってもらう事となり、宿泊させてもらった部屋を今後は自室として使ってもよいとの達しが出た。てっきり宿を借りて暮らすものだと思っていた静音にとってはこれ以上ない知らせである。

 そうして、静音自身も力を付けなければならないと狗々裡に諭され、彼女は白水軍に稽古をつけてもらうこととなった。戦闘経験はおろか、体力も無い彼女が戦えるようになるのは至難の業だと忠海には一度断られたが、必死に懇願してなんとか実現したのである。


「しかし、貴方が王女とはいえ武芸において加減はいたしませんが、それでもよろしいですか」


 忠海の言葉に、静音はしっかりと頷く。すると忠海も覚悟を決めたように、腰元の刀を引き抜いて彼女の手に握らせた。


「では、今日から王女──いや、静音。貴方を正式に、私の弟子としよう」


 こうして、静音一行の、白水での新たな暮らしが幕を開けた。

一日でも早く、双白に対抗しうる力を身に付けなければ──静音はそんな決意のさなか、握った刀を空高く突きあげるのだった。

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