村でいちばんの美少女

@kuronekoya

ブコウスキーとは関係ないっス

 クラス一の優等生に告白された。


 え? イヤだよ


 脊髄反射で断ったら泣かれた。


 いや、お前のことが嫌いって訳じゃなくて、この村の女の子と付き合うのが無理って言いたかったんだよ。


 父と義母、義姉と俺、ナントカ基金で家族で移住した村には小学校と中学校がひとつずつ、そしてバスが出ている隣の町にはかろうじて高校があった。

 まあ、どれもひとクラスずつしかなかったし、高校の偏差値は県内最低クラスで統廃合の対象になっていたし、だからこそ移住者を呼んででも存続させたかったのだろうけど、通わされる身としてはいい迷惑だ。

 訛りがキツいのは仕方ないとして、普通に教科書広げてるだけで勉強好きとからかわれるし、何より俺以外の人間関係がしっかりと固定されていて居場所がなかった。


 義姉は元々は自宅から通える都内の私大を受験するつもりだったけれど、妥協の結果ここの県庁所在地の国立大学に進学した。

 そのかわり、家を出てひとり暮らしを勝ち取った。

 正直、距離だけなら八王子と新宿くらいだろうけれど、バスと電車を乗り継いでも一コマ目には間に合わないし、五コマまである日は帰りのバスがなくなるのだから。


 だが俺はまだ高二。

 それでもまだ話が通じそうな村のやつは、やっぱり県庁所在地の高校に下宿して通っていて、ソシャゲとエロ動画くらいしか話題がない、その残りの連中に囲まれてあと2年近くここで暮らさないといけない。


 クラス一の優等生と言っても、村会議員もやっている土木工事会社の社長の娘で、その会社は役場とズブズブな関係で、っていうか村中がそんな持ちつ持たれつの関係にがんじがらめになっている。


 そもそも彼女とまともに口をきいたのだって、美容院はどこに行ってるか訊いた時くらいだ。


 他の女子とは明らかにカットの感じが違っていたから。


 まあ、月に一度母親と連れ立って、県庁所在地の美容院に行っている、という意外性のない答えだったけれど。


 考えてみろ?

 まだ泣いているその子に話しかける。


 俺たちが付き合ったら、村中、それこそお互いの親にまでバレバレだ。

 その日の夜には、どこにデートに行って何を食べたのかも、な。


 こんな村じゃ何も出来ねぇじゃん。


 人目につかない場所はない。

 もしもあってもコンドームが買えねえ。

 コンビニの店員もバイパス沿いのドラッグストアの店員もみんな顔見知りだからな。

 下手すりゃ、高校の向こうのイオンのドラッグストアの店員だってこっちが知らないだけで向こうは俺たちのことを知っているかもしれねえ。

 お前は議員さんの娘だし、俺は珍しい移住者の息子だからな。

 それでもなんとか手に入れたとして、万一避妊に失敗したらどうする?

 この辺じゃ医者や看護師までみんな知り合いばっかりだ。


 お前は美人で性格もいいし、ここで知り合ったんじゃなかったら、きっとOKしてたよ。


 でも、ダメだ。

 ここじゃ、この村に住んでる限り、手を繋いでイオンに行く以上のことは出来ねえ。

 親父はともかく、俺はここに定住して骨を埋めるつもりはねえし、定住したい親父の邪魔もしたくねえ。

 まあ、義母は好きでついてきたんだろうからいいけど、義姉だってどう思ってるか知らねえし。


 そんなわけで、お前とは付き合えない。

 この先もいいお友だちでいましょうってことだ。


 はあ? それだけじゃだめなの って?

 デートに行ったり、夜にはメッセージ送ったり電話したり、そんな関係じゃだめなの? って。


 お前は何を言っているんだ?

 それならそれこそ友だちのままでも出来るじゃん。


 だって、手を繋いだり、ふたりだけで出かけたりって。


 いや、だから、それくらい「友だち」とだってするだろ?


 違うのか、ここじゃ人前で手を繋ぐくらいの仲なら、既にシッポリやってるって表明してるってことなのか?


 じゃあ、せめて特別なお友だちでいさせてって?


 特別ってのが、わりと仲がいいくらいならいいけど、束縛するのは勘弁な。


 言っておくけど、駆け落ちとかしねーよ。

 あと思いつめて自殺未遂とかもやめてくれよな。


 あ、ひとつ忠告しておくけど、お前は東京の大学に行こうなんて考えない方がいい。

 この高校からじゃ親父さんの金でFラン大学に行くのが精一杯だし、それで田舎から出て来たての純朴な上に可愛い子なんてあっという間に食い物にされてポイだ。


 ここで——せいぜい県内で、親父さんのつながりが役に立つか、せめて枷にならない相手と付き合いなよ。


 俺だってあっちじゃ普通の男だったんだ。

 ここでは移住者の息子、東京モンってレッテルがついて珍しがられてるだけで、育った環境が違うだけだ。

 本当なら俺の方がお前に釣り合わないくらいなんだ。


 な、落ち着いて考えろ。

 ここで生まれ育ったけど県庁所在地の高校に行ったヤツ、そういうのがお前には合うと思うんだよ。


 じゃあな。



 そして、1年と少し——2年には少し短い時が流れ……



fin.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

村でいちばんの美少女 @kuronekoya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ