第3話

しばらく、ぼんやりと座り込んでいた私は徐に立ち上がった。


掌を陽の光の中に掲げる。

もうすでにところどころ影に溶けて、欠けてしまっていた。

顔だって、もう半分も残っていないのだ。

こんな顔を、あんなに愛おしそうに撫でるのは、彼しかいない。

もう、私の光になってしまった彼しか。


どこかでまた会うことがあったら、彼は私を責めるだろうか。

結局、彼とともに消えていくという歪んだ理想を貫く私を。

彼がくれた光を自ら影に溶かす私を。


そんなことを考えながら、私はゆっくりとカーテンを閉める。

完全に真っ暗になった部屋で、私はソファに腰掛けた。


私にとって必要なのは光ではなく、彼だった。

たとえ彼が私にとって影だったとしても、隣にいてほしかった。


「私だって、愛してたのに。」


つぶやくと、鼻の奥がツンと痛む。

こぼれた涙は落ちる前に黒く影に溶けた。


全身が少しずつ溶けていくのを感じながら、私は目を閉じる。


何の光も届かない部屋で、確かに私は、彼の光を感じていた。



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あなたの影に溶ける ヒロ @komugi0929

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