第2話 ビキニアーマーを装備してみたけれど

 ビキニアーマーを実際に身に着けてみると、実に頼りない。

 胸と下半身しか守られてないし、肌をたくさん露出するのも嫌だ。


 でも、素材はかなり丈夫なものでできているようで、力を入れて引っ張ってみても、伸びることもなければちぎれるようなこともなかった。


 ちぎれればよかったのに。


 そして無駄に高性能で、装備する人間の体のサイズに合わせて、自動的に大きさが変わるようになっているらしい。

 たぶん、相当に高度な魔法がかかっているのではないかと思うのだけど、こんな装備にどれだけ手をかけているのよ、と私はあきれる。

 よほどの変態が作ったものであるに違いない。


 そんなふうに考えながらも、私はビキニアーマーを装備していた。

 そして部屋においてある姿見に自分を映しているのだった。


 うん、痴女だね、これは。

 これで外に出て魔物と戦うのは頭おかしいね。


 それが私の感想だった。


 表面が赤いから胸がすごく強調されるし、それでいておなかも太ももも、ばーん、とむき出しになっている。

 腰回りの布地も小さいから、おしりも下の方がはみ出ちゃうし。


 夜のお店ならこういう服装をする人もいるかもしれないけど、断じて戦士がするような姿じゃない。

 知り合いに見られたら、頭がおかしくなったと思われるだろう。

 覆面とかつけて、正体がわからないようにしようかな…。


 私がそんなことを考えていると、こんこん、とドアがノックされる。


「アリシアさん、どうですか?」

 聞こえてきたのは僧侶クレアの声だった。

 着替えるために、いまは全員外に出てもらっているのだ。


「とりあえず着てはみたけどね」


「入っていいですか?」


「あなただけならいいよ」


 ドアがそっと開き、クレアが中に入ってくる。

 そして「まあ…」と言ったきり黙り込む。そして顔を赤くする。


「ど、どうかな?」

 私はクレアに意見を求める。


 やはりこんなハレンチな装備、いけないと思います! とか言ってロランのやつをとがめてくれないだろうか、と私は期待した。


「そうですね…。確かにこれを着て外に出るのは恥ずかしいでしょうけれども…。でも、似合っているのも事実だと思います!」


 ぜんぜん期待と違う反応がかえってきた!


「似合って…る?」


「はい! アリシアさんのたくましく、それでいて均整の取れたスタイルがはっきりと表に出て、とてもよいと思います! 赤もよく似合ってます!」


 そうだった。この子は基本的に、なんでもほめる子だった。

 相手を傷つけないようにと気をつかい、あらゆる物事から良い点を見つけ出して、ほめ称えようとするのだ。

 でもいまは目がきらきらしているから、けっこう本気でほめているのかもしれない。


 困った。


「なあ、そろそろ俺も入っていいか?」

 とロランの声が聞こえてくる。


「あの、どうしても嫌ならそう言えば、ロランさんは無理じいしないと思いますよ」

 とクレアが言う。


 まあそうなんだろうけどね。


 しかし私の側には盾がある。

 白く輝く美しい盾が。


 私もそれなりに経験を積んでいるから、ちょっと持ってみただけでも、ものすごい防具だということはわかる。

 これをもらえるのなら、お返しにビキニアーマーを装備するくらいのことは、してあげてもいいかな、と思ってしまうだけの価値がある。


 それに、ロランは子供のころからの夢だとか言ってたし。

 子供の夢は大事にしてあげないとね!

 などと私は自分の中で、自分に対する言い訳を積み上げるのだった。


「入りたければ入ればいいんじゃない?」

 と私は答えた。


「おお! 入るぞ!」

 と言ってロランが部屋に入ってくる。

 そして入り口の近くで立ち止まり、じっと私を見つめた。


 しばしみなが無言となり、沈黙の時が流れる。


 気まずくなってきたので、私の方から口を開くことにした。

「ちょっと、何か言いなさいよ。じっと見られてると怖いんだけど」


「いや、すまない。感動のあまりに言葉につまってしまったぜ」

 と言ってロランは目元をぬぐった。


 泣くほどなんかい!


「ありがとうアリシア。これで俺の夢はかなったぜ!」

 そう言いつつ、ロランはがっしりと私の手を握った。


 声には熱がこもっていて、その瞳には真摯な感謝の気持ちがあふれていた。


 かつてここまでこいつに感謝されたことがあっただろうか。たぶんない。

 命の危機を救ったときですらも、ここまでではなかったと思う。


「これでもう思い残すことは…ってそうだった、一緒に冒険に出るところまでが俺の夢だったぜ!」


 覚えていたか。忘れていいのに。


「騒がしいな」

 と言いつつ魔法使いも部屋に入ってくる。

 こちらは帽子やローブをきちんと身に着けていて、外出していたような様子だ。


「あれ、バートン出かけてたの?」

 私がたずねると、魔法使いバートンは紙切れを私たちの方に差し出した。


「待っていても暇なだけだからな。次の仕事によさそうなものを見つけてきた」

 バートンが持ってきたのは仕事の依頼書だった。


「お、いいタイミングだぜ、バートン!」

 ロランがその紙を受け取って読み始める。


「村の近くに強い魔物が居着いてしまって困っているって依頼か。なら早く行って退治しちまわないとな!」


 魔物退治か。

 それならそんなに時間がかからないし、この恥ずかしい装備を身に着けていないといけない期間が短くなって、助かりそう。


「いいんじゃないの。なるべく早く片づけちゃおう」

 と私が言う。


「みなさんの回復がんばります! そして早く村の人たちの不安を取り除いてあげましょう!」

 とクレアもやる気になっている。


「ここからそんなに遠くなさそうだし、今から行っても…」

 と言いかけて、そうするとまずいことに気がついて、私は途中でやめた。


「そうだな! それじゃ今から出発するか!」

 とロランが言うが、私は反対した。


「いや、ダメ! 準備があるから明日! 絶対明日ね!」

 と強く主張したので、出発は明日に決まった。

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