第3話 変身2
濃縮された一秒の中で、槍は光の玉へと変わり、瑞月の周りに魔方陣を多重に展開していく。
魔方陣に触れた場所から、服は再構築され、魔法防御服へと変換されていく。
漆黒でありながら、同色の刺繍が施されたチャイナドレスタイプの防御服は、以前身に着けていた時より、今の好みに合わせて、より落ち着いたデザインになっている。白い帯が腰に巻かれ、ロンググローブと右上腕の籠手、ショートブーツが武器にして防御の要。スリットが以前より深い気がするが、気にしないことにする。
久々の変身に、感触を確かめ、若干恥ずかしくなったが、そんなことを悠長に感じている暇などなかった。
瑞月に気が付いたらしい触手は、色の悪い体液をポタリ、ポタリと垂らしながら、時雨の時と同様に瑞月に襲い掛かってくる。
とはいえ、時雨に絡まっている分、迫ってくる本数は少ない。
速度は速いが、体力満タンの瑞月には、容易い相手だ。
「捕まらなければ、どうということはない!」
髪の毛一本たりとも触れさせない動きで、触手の間をすり抜けていく。
ダンスのような軽快なステップで、触手を払っていく。
時にいなしつつ、触手に打撃を加えると、触手が
拉げても、そのまま襲ってくる触手に飛び乗り、更に、他の触手を躱す。
そしてすべてを躱し切り、踊るように空を舞い、上空から魔獣の中心部を見据える。
「不知火くんに、なんてことしてくれてるの!」
右腕に籠めた魔力を、魔獣の中心に向かって一気に叩き込んだ。
瑞月の魔力が叩き込まれた瞬間、ドパッと触手は液状化した。
噴水のように魔獣は弾け、溶けて、ドロドロと地面に吸い込まれるように、その実は空気中へと消えていった。
沼のように液状化し、そして消えていく魔獣の遺骸の中心に、瑞月はひらりと着地する。
――なんだか、踊り足りない気分。
そう思いつつ、魔法少女に再び変身したことに、今更ながら驚く。
一度、経験したこととはいえ、もう決してしないと自分にも、周囲にも誓った「魔法少女への変身」。
普通であること求められるようになって、それをどうやって証明し続ければよいのか、わからない中で、もがき苦しんでいた時に、こんな形で、また普通から逸脱していく。
後悔はない。けれど、不安はある。
妙な焦燥感に襲われていると、ドサリと音がした。
触手に絡めとられていた時雨も、触手が溶けていく中で落下し、地面に伏していた。
瑞月は慌てて時雨に駆け寄り、抱き起こす。チャイナドレスで膝枕という状況はなんとも心もとなく、落ち着かなかったが、時雨の無事の確認が優先された。
「不知火くん、大丈夫?」
意識朦朧としているようだったが、徐々に覚醒してきたらしい時雨は、頭を振って、驚きの表情で瑞月を見た。
「変身して……」
そして、どこか悲しそうに顔をしかめた。
「どうして……」
どうして、という言葉の悲痛な声音に、瑞月は心臓が跳ねるような心地だったが、臆せず答える。
「こうするしか、二人とも助かる方法はないと思ったから」
「俺のせいで、巻き込んだのか」
悔しそうに唸る時雨に、瑞月は首を横に振った。
「最善だと、判断した。それだけ。不知火くんがこの場で凌辱されているのを見たくなかった。
お仲間が助けに来てくれたかもしれないけど、待っていられなかった」
瑞月の言葉に、時雨は顔を手で覆った。
「ごめん」
謝罪の言葉は、どちらから出たものだったか。
元魔法少女ですが、恋をしてもいいですか? たもつ @sango_ofm
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