第2話国境
雪の日の乗馬ほどこたえるものはない。
雪はそこまで強くは無いが、吐いた息の水蒸気が
まつ毛で凍る。防寒用のコートを着てはいるが
芯まで冷える。このペースで行くと夜明けには国境に着けそうだ。この馬は見かけによらず相当タフなようだった。
このウィルの馬はタグという。
このやや細身の黒馬はとても利口だ。倒れたウォルを乗せたまま宿場まで来たという。タグが居なかったらウォルはとっくに野垂れ死んでいただろう。この荷馬車も立派だ。すぐに店にもなる優れものだ。長年使い込まれているが大きな傷や痛みは無い。ウォルはどうやら綺麗好きらしく汚れもなかった。
兎にも角にも国境を越えなければ...
朝日が昇ると同時に検問所に到着した。
まだ朝早いからか、兵士が一人立っているだけだった。
「おはようございます、16歳になって行商を始めることになったトキです。」
何とか震えずに言うことが出来た。
「おお、タグじゃないか、ということはウォルの
後釜か。ウォルのことは残念だった。」
「はい...本当に...」
「積荷は何かな?」
来た、この質問だ。
「実はまだウォルが亡くなってから開けてなくて、ウォルの面影を残しておきたくて...」
「そっか...本当は中しっかり確認しなきゃいけないんだけど...まあいいや、行きな、がんばれよ!」
「はい、ありがとうございます」
なんとかなったようだ。来るまでの間に考えた通りになった。
国境が遠ざかる。そして果てしなく続く草原の道をタグは軽快に進んでいく。
国境が見えなくなったところで果物箱に声をかける。
「もういいよ、大丈夫だ。」
ガタゴトと音がして果物...ではなくアオが出てくる。彼女の目には涙が浮かんでいる。無理もない。ここ数日ずっと緊張状態にあったのだから。
だが彼女はずくに泣き止むと尋ねてきた。
「トキ、どこへ向かうの?」
「巨木の国へ行こうと思ってる」
「巨木...楽しみね、何日くらいかかるの?」
「5日くらいかな」
涙声だったが少し明るさが戻ったようだ。
朝日が僕たちを照らす。僕たちを祝福するかのように。馬と2人は草原の道を行く...
異世界行商記 @hiroo0606
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