その28

 ふと目を覚ますと、見慣れたあの天井と、心配そうに覗き込む小梅の顔が見えた。部屋には妙に甘いお香の匂いが漂っていた。

「小梅」

そう、呼びかけると彼女は嬉しそうに頷き、手を握ってくれた。小梅の隣には薬師寺先生がいて、具合の悪いところがないか尋ねてくる。酷く怖い夢を見たことを告げると、どんな夢だったかを尋ねられた。

「事故にあって、カレンが死んでしまう夢。」

そう答えると、薬師寺先生は諭すような優しそうな声で、

「そうだね。前半は合っているけど、後半はちがうな。君は今でも生きている。」

私をじっと見据えながら、ゆっくりとそう答えた。

「カレンは、生きている?」

驚いて薬師寺先生に尋ねると、ゆっくりと頷いて

「そう、君は...。 カレンは今でもここで生きているよ。」

と言って、手鏡を渡してきた。

鏡を覗き込むと確かにそこには、少し青白い顔をした香蓮が映っている。

「自分が...カレン?」

混乱しながらも、そう呟くと、確信を持たせるように、薬師寺先生は

「そう、君はカレンだ。」

と答え、横にいる小梅も涙目になりながら、必死に頷いていた。

そうか、自分は香蓮なのか。

そう、言い聞かせるように、鏡の自分を覗き込む。ふと鏡をもつ右手に目をやると、甲にできていた痣がより色濃くなり、はっきりと奇妙な模様が浮かんでいることに気づく。何の模様だろうと手の甲を自分に向けると、襖の向こうで

「もうすぐ会えるね。」

と鈴のような声が聞こえた気がした。

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睡蓮 兎原澄 @uharajune

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