第9話

一美ちゃんは処女だ。と同時に、童貞でもある。

一美ちゃんはいつも仲の良い2人と辛い幻覚と妄想の話を食堂で静かに語っていた。互いの部屋に勝手に遊びに行ってはいけない規則なので、複数人で語る場合、ホール兼食堂に集合するしかないのだ。一美はちゃんと他の2人は四字熟語であだ名を作り呼び合っていた。ある日、わたしは一美ちゃんは天真爛漫だと思う、と伝えた。一美ちゃんは目を見張り、かみしめて、心で泣くように、


ありがとう、と言ってきた。


ねえ、わたしの四字熟語は?あだ名は?欲しい。


うまく呂律の回らない口調で喋るわたしに、3人は楽しそうに相談しながら。


天衣無縫。


と名付けてもらった。

漢字も教えてもらう。


どうかわたしが邪魔な糸に絡まらず、天の羽衣を美しく縫ってもらう天女のようになることを、祈ってる。意味は違うけれど、ほんとにそう思ってるから。以心伝心。明鏡止水。そして明鏡止水は、わたしに純情を表すあだ名をくれた。


明鏡止水とはさまざまな話をし、わたしは、この人と双子のような、家族のような、兄のような、姉のような、年下のきょうだいの様な親しみを抱いていた。


わたし達はきっと、お互いのはだかを見てもなんともおもわない、貯金額も提示できる。


親友よりも上、でも恋人にはならない。


なんでも話すわけではないけれど、わたしたちは退院後病院の待合室でLINEのQRコードを読み込んで、友達追加し。明鏡止水、小笹一美のアルバイト代と。2人分の障害年金で、1Rで生活することになる。同棲ではない。わたしにはもう婚約者がいる。

これは、結婚するまで、したとしてもちょっと続く、同居だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る