第19話 システマティックの方向性

 ひとしきり感想を聞き及んだ山藤氏が、残っていた水を飲み干し、一言。

「長旅、随分ご苦労様でした。まあでも、新幹線ができてさらに早くなったら、そんな旅も出来なくなろうね」

「そうですね。特に、仕事で走り回っている人には、今のような旅を強いられるのは苦行ですよ。私なんてたまの話だから気楽に移動できるからいいようなものですけど、基本的に、遊びや遠足で列車に乗っているのではありませんから」


「そうなのよ。堀田君、あなた、軍事教練で習ったでしょ、汽車の乗り方」

 堀田氏の話に呼応して、元職業軍人の山藤氏は、戦前の軍事教練の話を引合いに出してきた。堀田氏は、戦前から戦時中にかけて学生生活を送っている。旧制姫路中学の生徒時代並びに第三高等学校及び京都帝国大学の学生時代、正課として軍事教練を受けていた。

「覚えていますよ。とにかく整然と行進して、整然と割り当てられた椅子に座るという訓練でした。山藤さんは軍事教練の教官もされていましたよね」

「ああ、しとった。懐かしいのう。陸軍士官学校でもやっておったな。そりゃそうじゃ。職業として軍人になるわけだからな。出来ねば、示しがつかんでしょうが」

「でしょうね。ああいう世界は、システマティックに動かされますからね、人が」

 ここで山藤氏は、珈琲のおかわりを2杯頼んだ。今度は、ホットである。

 そして、いささか年少の教授に、思うところを述べた。


 確かに堀田君の御指摘は、あたっておるよ。

 でもなんじゃ、君が京都大学で出会った先輩方の中には、システマティックにただ動くのではなく、システマティックに粋なことをする人が多かったでしょう。

 以前あなたが述べておられた方々の話を思い出すたびに、思うのよね。


 ほら、S電鉄の渡辺さんもそうだが・・・。

 京都大学工学部で教授をされている岡原先生だっけ、ほら、食堂車で朝食を食べて大学入りしたとか、奮発して灘中出身の仲間と特急「富士」の洋食堂車に行って洋朝食を食べたとか。

 その先生のお話、色々聞かされたけど、君の周りの人らのほうが、わしに言わせれば、既存のシステムを上手く活用して粋なことをされているから、すごいわ。


・・・ ・・・ ・・・・・・・

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