第18話 寝台電車を物理学者が総括するの巻

「石村さんは、お元気にされていたか?」

「ええ。お母様も、お年を召されましたが、お元気だそうです」

「それは結構なことじゃ。ところで堀田君、寝台電車のほうは、どうだった?」


 堀田教授が乗ったのは、行きも帰りも、581・583系電車の特急列車。

 行きは岡山発熊本行の「つばめ1号」で、帰りは先ほどまで乗っていた「月光1号」。まったく同じ車両かどうかはともあれ、同系列の電車である。

 同じ電車に行きは昼間の特急、帰りは夜行の寝台特急という乗り方をしたのは、彼にとってはもちろん初めてのことである。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 あの電車、悪くないですね。空いている時期でしたから、行きはほぼ全区間自分一人で4人掛けのボックスに座っておれましたし、帰りはあの藤木龍二君に教わったパンタグラフ下の中段寝台で、圧迫感もなく、実によく眠れましたよ。

 あれなら、家族連れなんかでも便利でしょう。

 私のようなビジネスマンとしては仕事にならん気もせんではありませんが、まあ移動中くらいゆっくりといった気分の時には、むしろいいかもしれません。

 私は職業柄、移動中に資料を読み倒して仕事を仕上げてなんてことをする必要はあまりないですから、ちょうど、いい気分転換になりました。


 そうそう、私が山藤さんとあの「かもめ」で再会したときの、あのロマンスシートっていうのですか、特急の普通車のあの椅子とほぼ同じもの。

 あれのほうが、そりゃあ、仕事ははかどるでしょう。

 目の前にテーブルがあるじゃないですか。あれさえあれば、書類や本を読むだけでなく、ある程度書き物も出来ますからね。とはいえ、あちらの普通車は、ゆったりできるかと言うと、必ずしもそうではないかなって気もします。

 何て言いましょうか、仕事と観光の最大公約数を求めた先が、あの椅子ってことになろうかな、と。


 しかし、岡山駅を朝の7時35分に出て、博多到着が昼の1時30分過ぎですからね。6時間もあれば、そりゃあ腹も減りますわ。

 まあその、どうせ時間もあるからっていうので、朝食がてらにビールも飲みました。和定食なら、ちょうどいいですよ。今回は食べませんでしたけど。

 それで、あとはあの向い合わせのソファーのような椅子でゆったり過ごして、ついでに、山藤さんから頂いたバーボンを持参のプラスチックのコップに入れて、ついでに水タンクからの水をチェイサーにして、ちびちびやっておりました。

 大体、広島を出る頃には出来上がっておりましたな(苦笑)。


 あとは、ウトウトしながら、海を見て、またウイスキーをすすって、またうとうとしてしばらくしてまた目覚めたら、海を見ながらウイスキーをすすって、途中また食堂車に行ってカレーを食べて、あとは座席に帰って珈琲を飲んで。

 少しうとうとしたら、やっと昼過ぎに博多着ですよ。


 博多に着いたら、早目にホテルに入って、あとは石村君や知合いの先生方とお会いして、夕方からはまた、前夜祭よろしく飲み会でした。

 いやあ、博多の街は楽しかったですよ。

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