第16話 朝の車内放送。そして、鉄道唱歌のオルゴール。

・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・ ・


 皆様、おはようございます。

 本日は昭和49年9月*日*曜日です。

 現在、当列車は定刻で運転いたしております。列車は只今、玉島駅を定刻で通過いたしました。間もなく列車は、倉敷に停車いたします。・・・(以下略)。


・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・ ・


 ついに、この1日がスタートする。

 そんな気にさせられるのが、夜行列車の朝の放送。

 それに伴い、減光されていた車内の照明が一斉に通常に戻された。

 ここから先、もうトンネルはない。

 高梁川も、すでに先ほど渡り切った模様。

 車内放送が終わり、再び鉄道唱歌のオルゴールが流れた頃には、列車は西阿知を通過している。

 のぞき窓の向こうには、岡山県立水島工業高等学校がある。


 目覚めの珈琲といきたいものだが、博多発車時の案内放送で、この列車は、食堂車は連結されているが営業を休止しており、車内販売も全区間にわたり乗車しないと告げられている。

 だが、あと十数分もすれば終着の岡山である。

 珈琲を飲むなら、行きつけのあの店に行けば飲めるだろう。


 列車は程なく水島臨海鉄道と並走し始め、その始発駅である倉敷市駅を横目に見つつ、倉敷に到着。ここではさすがに、乗車客はいない。岡山までわずか15・9キロしかないから、わざわざ特急のそれもグリーン車に乗るほどのこともない。

 もっとも、降りる客もほとんどいない。

 倉敷を出発すると、次は終着の岡山である。


 倉敷到着を前に、堀田氏は浴衣の帯をほどき、昨晩着てきた服に着替えた。


 終着駅が近くなったこともあり、便所と洗面所の使用がやたらに増える。

 まして今は朝の寝起き。身だしなみを整えるべく車両の端の洗面所に客が押し寄せてはいるが、今日はそれほど混んでいないため、スムーズに人が入れ代わり立ち代わり、洗面所を利用している。

 これが昼間の特急列車の車両なら、洗面所はこれほど多くもないから、ごった返して落ち着いた身づくろいも出来まい。

 着替えを済ませてトイレで用を足し、ついでに洗面所で顔を洗った。

 歯を磨くほどのゆとりはない。それは到着後でもいいだろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る