第11話 1日がかりも今年まで。新幹線サマサマや。

 駅前に知人の大学教授がいた。

 聞くと彼は別の列車で博多入りし、これからホテルに行くという。

 そのホテルは、堀田氏と同じところ。彼の案内に従って駅前のホテルにチェックインした。

 今日はこの後前夜祭よろしく飲み会があるにはあるが、まだ時間がある。

 彼はホテルの自室に入り、一仕事済ませた。

 それは今回の学会とは直接関係ない、O大学理学部長としての仕事で用いる文書の作成であった。


「ほな、学内行政もこれで切上げや。今日は一杯、飲んで来よう」


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 堀田教授は、ホテルのロビーに出た。

 丁度、京都からやってきた石村修教授が博多入りし、このホテルに入ってきたところだった。学生時代丸形の眼鏡をかけていた彼だが、今は上が黒のセルロイド製の眼鏡をかけている。数年前引退した南海ホークスの杉浦忠投手を思わせるような眼鏡であるが、彼がかけると、知的な雰囲気が高まって見える。


「おお! シュウ先生、お久しぶりですな」

「堀田教授、御無沙汰しております。うちの母が、よろしく、言うてましたよ」

 彼もまた、このホテルに宿泊の予定であるとのこと。


「いくらグリーン車とったカテ、1日中列車乗るのは、勘弁ですわなぁ」

 聞くと、京都からはるばる博多まで、特急「かもめ」でやって来たという。

 京都を朝7時23分発のこの気動車特急、食堂車の連結された後7両の基本編成が博多経由の長崎行、食堂車のない前6両の付属編成は、折尾から筑豊本線経由の佐世保行である。7両の長崎行が博多に到着するのは、定刻で16時42分。

 石村氏は、この列車の長崎行のグリーン車に乗って、ほぼ1日かけて、博多入りしたのである。


「一日がかりで移動かな。ご苦労様ですな」

「ま、リフレッシュできましたから、良かったです。このところ休みが取れていませんでしたからね。ええ気分転換には、なりましたよ。しかし、藤圭子の歌でもあるまいし、京都から博多まで、こんなして一日がかりの旅も、今年までですね」

 石村氏は、来る新幹線の博多延伸を心待ちにしているようである。


「一日がかりが、半日になるってことですな。新幹線サマサマやナ」


 堀田氏の弁に、石村氏は軽く頷いてみせた。

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