第6話 県境を越え、福山到着。

 玉島を通過すると、列車はさらに田園地帯のまっただ中へ。

 山側の向うには、新幹線の高架が見える。

 どうやら、トンネルだらけになりそうだ。

 しかしこちらは、笠岡を過ぎるまでトンネルはない。

 晴れの国と言われるだけあって、温暖少雨の肥沃の地である。


 金光を過ぎたあたりで、堀田教授は食堂車に向った。

 後ろに進むこと2両目。食堂側から入り、海側の中ほどの席に着いた。

 相席者もいない。先客は他のテーブルに数人。

 朝定食を食べているか、珈琲を軽く一杯、もしくは朝から一杯ひっかけている。

 どうせ車内は空いているから、珈琲一杯でこの地で粘ることもない。

 この食堂車の座席は、プラスチック製の良く言えば機能的な、悪く言えばいささか無機質な感じさえ抱かせる黄色の椅子。

 居住性なら、座席のほうが数段良いに決まっている。

 特に、空いている列車であればなおのこと。

 ウエイトレスがやってきた。

 教授は、ビールを1本注文した。

 特につまみを頼むでもなく、黙って一人でグラスにビールを注ぐ。

 グラスを口につけ、一口二口飲む。

 和定食でも食べようと思ったが、朝のモーニングのパンとゆで卵程度でも十分昼くらいまで持つだろうということで、もう、つまみもなしにビールだけを飲む。


 ふと天井を眺める。寝台に使われる列車だけあって、屋根が異様に高い。


 ビール大瓶1本を10分程度かけて飲み、堀田教授はそそくさと座席に戻った。

 この度の座席はデッキに比較的近いところ。少しだけ周囲より屋根が低い。


 列車は岡山県西部の駅を次々と通過し、やがて、岡山県最後の駅、笠岡を通過。

 数年前廃止された井笠鉄道は、この駅から出ていた。

 確かにここに小さな列車が出入していたことがわかる「遺構」はまだある。


 ここからしばらく駅がない。県境ともなれば、さすがにトンネルもある。

 やがて列車は国道2号線と並走し始める。

 兵庫県との県境と異なり、こちらの県境は開けた道路の途上。

 その標識で、列車は広島県に入ったことがわかる。

 列車は岡山と広島の県境を突破し、広島県へと入る。大きなカーブの途上、広島県に入って最初の駅、大門を通過する。

 しばらく進んで貨物駅を通過して間もなく、福山到着。

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