前編 ~「つばめ」での半日仕事
第2話 年を取ると、朝が早くなる。
時は、1974(昭和49)年9月中旬の岡山市内。
新幹線がこの岡山の地まで来て、早2年半が経過している。
しかも来年の春には、ここからさらに博多まで延伸することも決定していて、工事は最終段階に入っている頃のお話である。
ここは、岡山駅構内のある喫茶店。朝からモーニング目当ての地元客や、時間のある乗換客などが利用している。時間はまだ6時30分を回った頃合い。
9月中旬であるから、岡山の街はもう夜が明け、明るくなっている。
「今日から福岡か。帰りは3日後の朝の「月光1号」か。行きは朝一番の「つばめ1号」な。それ、行きも帰りもあの寝台電車ってことになるようじゃが、堀田君、それはまた、藤木酒店の龍二のアドバイスに従ったものか?」
「ええ、そうです。行きも帰りもゆったりと移動できればということで、藤木君が列車を選んでくれました」
当年とって50代の年齢にさしかかっているO大学理学部物理学科教授で理学部長も務める堀田繁太郎氏は、これから3泊3日、福岡市内で開かれる学会に出席するべく、岡山駅に早朝からやってきた。この数年来、年を取ってきたせいか、朝が早い。
目の前にいる山藤豊作氏はというと、こちらはすでに60歳を超えていて、年金等も出る年齢になっている。こちらも朝は早い。
若い頃は陸軍士官学校などで鍛えられて朝は苦手では決してないのだが、なんだかんだで、朝寝ていられる生活にあこがれていた時期もあった。
しかし、この年にもなれば、例にもれず彼もまた、朝は早い。
起床ラッパなどなくても、目が覚めてしまうのである。
堀田氏は、言う。
「この年になると朝が早くなりまして。朝から仕事すると、殊の外はかどりますよ。京都大学のゼミでお世話になった工学部の岡原教授に至っては、嫌なことは早朝にやるに限ると仰せですが、いかんせんあの方、酒も好きでうまいものを食べるのも生き甲斐という方ですからねぇ。若い頃は、朝寝坊はいつものことだったそうですが、そんな方でも年には勝てないようでして、おっさんの若いころはなんやってンって言いたくもなりますが、朝は8時を超えて横になっていられん、なんて仰せですよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます