第360話 完璧であるために
▽第三百六十話 完璧であるために
セックは生まれつき完璧だった。
否、言語能力も稚拙であったし、当初は知識も乏しく、己が能力の使い方さえも把握していなかった。
それでも……生まれたと同時、ふと鏡に映った自分を見て確信した。
自分は完璧なのだ。と。
セックは生産を目的として製造され、スキル構成もそれに殉じている。ゆえにこそ芸術を審美する能力も生まれついて得ていて、自分の価値がどれほどのモノなのかを理解していた。
誇らしかった。
それと同時に恐ろしくもあった。と今でならば理解できる。あの時、自分は感情も理解できておらず、ただただ竦むような何かを感じていたのだから。
自分は完璧である。
それがセックが「最初」に理解、学習したことだった。
だが、その完璧な「容姿」に吊り合うだけの能力がないことも承知していたのだ、本当は。最初は理解していたはずだった。
……。
最上級ゴーレムの称号は知識、感情、そういったモノをセックに与えた。
人類種という存在は「感情」を過度に評価している。
信仰していると言っても過言ではない。
感情の有無こそが生物の価値なのだと本気で思い込んでいる。
本当はセックにとって「
いつの間にかセックは「本当は完璧ではない能力」について、目をそらし、逃げ出し、誤魔化すという感情を手に入れていた。
それが最上級ゴーレムの特性であるからだ。
目をそらし、自分を完璧だと自負した結果が――迫ってきている。
眼前。
すでに眼球の寸前のところに矢が迫っている。避けることのできそうにない破壊を前に、セックは――
神器化したセックは、おそらくすべてのゴーレムの中で最強である。
だが、最強のゴーレムというのは「最強」ではない。ミャーのような人類種の強者にも勝つことはできない。
たかがレベル100なだけの召喚特化能力者。
それがセックのすべての性能である。
生産という一面に於いては世界の上位50番に入るという自負がある。だが、きっと……セックは
それを。
最上級ゴーレムは
そして反射的に感情的に思った。
それは――嫌だ!
「っ! まだっ!」
セックが行ったことは頭突きだった。
ただ矢を受けるのではなく、こちらから「矢に攻撃」することによってダメージを減少させる目的がある。
ネロ曰く、「ゲームの仕様」を利用した延命作戦。
ミャーの攻撃はあくまでも「暗殺」なのだ。
無防備な状態にこそ致命的であり、そうでない敵には大幅に火力が落ち込む。そもそもゴーレムたるセックにとって、頭部を失うことはロストではない。
大ダメージは負うだろうけれど、これで生き残ることができる。
HPの九割と頭部が吹き飛ぶ。
だが、まだセックは生きている。箒を一振りし、【ブラック・ボール】をミャーの頭上に展開した。
これで足を止め、さらなるアンデッドを……そう考えた時、【音波】スキルに反応があった。
振り向けば、そこには弓を構えているミャーがいた。
今、【ブラック・ボール】で足止めしているミャーは何らかのスキル・アーツによる偽物だったということだ。
完全に騙された。
セックが慌てて魔法を展開するよりも早く、ミャーの弓がセックを撃ち抜いていた。
地面に倒れ伏すセック。
それにもう三発ほど「死亡確認の矢」を撃ち込んだミャーは冷たく囁く。
「雑魚は終わりっす。あとはヒルダたちのみだな。もう遅いですかね」
『――』
「いや、獣人は格下に敬意なんて払わないですよ。事実は事実っすからね。アトリ隊長の手札としてならばともかく、個人として参戦している時はただの雑魚っすよ」
『――――』
「はいはい。そっちの文化・本能は尊重するんで、あたしの文化・本能には手を出さないでくださいっす。……それにしてもこんなの相手にするために止まっちゃうのがあたしが最上になれない理由ですね」
弓を仕舞い、ローブを被り直しながら、愚痴るように獣人の少女が言う。
「アトリ隊長だったらすぐにガン無視してヒルダを追うでしょうけど……運良く合流される可能性も考慮するとここで一枚落とさずには居られない……リスクを取れない狩人の弱みですね」
その言葉をセックは壊れていく中、呆然と聞いていた。
吹き飛ばされた頭部は雨に濡れ、まるで泣いているかのようだった。弱者の頭上、雨は容赦なく降り続けた。
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