第350話 鎖使い
▽第三百三十九話 鎖使い
四名間でのにらみ合いが続きます。
大鎌があるアトリであれば、さっさと攻めたほうが様子見よりも安全だったかもしれません。けれど、今のアトリには鎖しかございません。
カラミティー連戦の結果、アトリの鎖術のレベルは大きく跳ね上がっております。
正直、すでに実戦レベル。
ですけれど、敵は厄介なことで有名な魔教幹部……油断はできません。
「遠慮なく戦うべく、説明したほうがようございましょうか。我が右隣にいる老人ガストロの固有スキルは【死肉啜り】と言い、死んだ魔物の血肉を喰らえば、その対象の固有スキルをコピーできるのでございます」
視線を向けられた老人剣士がこくりと頷き、鞘から剣を引き抜きました。禍々しい紫色のオーラを纏った、見るからに呪われている剣でした。
呪い武器の性能は高いことで有名です。
たとえば、かつて戦闘したオーク帝国の呪剣使いなんて中々に強かったですからね。
オリバーがスターでも紹介するように、その手のひらをガストロに向けております。
「彼が今回喰らったのは《呪剣》のブーズーというもの。ご存じでございますかあ?」
「知らない」
「で、ございますか。勝者とは残酷でございますなあ。そしてふたつ目でございます。彼の固有スキルは二つまでコピーできるのでございます」
ガストロの頭上。
そこに出現したのは大鎌を肩に担いだリッチ・キング。
さすがのアトリも目を丸くしました。
どうやらガストロはリッチ・キングの死体を食べていたようですね。骨ばっかりだったのにご苦労なことです。
ちゃんと当時と同レベルの強さを感じさせられます。
「続いてティティリーでございます。彼女はシンプルな氷使い。またダメージを肩代わりする能力が高く、さらにそのダメージを使い捨ての指輪に移し替えます」
「……嘘はない。なんで説明するの?」
「それは当然ながら私たちの目的をよりよく達成するためでございます。さてアトリさん、これで貴女が初見殺しされることはなくなりました。しっかりと戦いましょう」
オリバーが両手のフラスコを投擲してきます。
それが開戦の合図でした。
▽
フラスコを回避したアトリは、即座に体術だけで敵の背後を取りました。
今のアトリに【ヴァナルガンド】はございません。ですけれど、それがなくともアトリの敏捷値はトップレベル。
オリバーの背中を幼女の抜き手が貫きました。
神偽体術――【奉納・轟穿の舞】
すべての打撃をアーツ化する技にて、オリバーに致命傷を与えました。
「ほう! さすがはアトリさんでございますなあ」
オリバーが爆発しました。
アトリが爆発に巻き込まれ、爆風にて吹き飛ばされます。腕が引きちぎれましたけれど、即座に【再生】で回復させました。
すでに【天使の因子】は発動し直しております。
鎖の神器化が解けているので戻したいですけれど、神器化のためには大量のアトリの血をかけねばなりません。
その隙はなく。
アトリの頭上で大鎌リッチが、正面からは老人剣士の呪剣が迫っております。
鎖を引き寄せる。
「【遮凡牢錠】」
鎖で自身を覆う牢獄を生み出しました。
それで敵の攻撃を防ごうとしましたが、あっさりと突破されてしまいます。バラバラになる鎖片――その向こう側にはすでにアトリは居ませんでした。
神偽体術【奉納・閃耀の舞】
距離を取るなりアトリは軽く舞いました。それによって【奉納・天身の舞】を発動します。また、私が転移先に投げていたフラスコが砕け、アトリの鎖にかかりました。
それは事前に用意しておいた、アトリの血液。
「邪神器発動――【
鎖が邪神器化しました。
禍々しい鎖が生物のようにとぐろを巻き、アトリの隣で侍りました。
指揮者のようにアトリが手を振れば、十又の鎖が一斉に蠢き始めます。
「【
螺旋を描き、ドリルのように鎖が敵を貫きに掛かります。
狙うのは大鎌リッチ。
十の鎖が大鎌リッチを襲いますが、敵はカラミティーレベル。あっさりとアトリの鎖を大鎌で切り払い、そして盛大に爆発を喰らっておりました。
アトリが【ボム・ライトニング】を発動し、それを私がノータイムで【シャドウ・ベール】で隠しました。
その爆弾を鎖に乗せて、敵に迅速にご提供したわけですね。
爆風を喰らう大鎌リッチ。
が、何かをしてくるよりも早く、アトリは【フラッシュ】を使いました。強者相手に多用しては慣れられますけれど、初回に限って必殺技レベルの妨害能力があります。
鎖が暴れます。
「【
それは鎖を暴れさせて、鞭のように敵を攻撃するアーツでした。それにしても【鎖術】アーツの名前ってダサいというか、変な暴走族みたいですよね。
大鎌のセンスは悪くないのですけれど、武器毎にネームコンセプトが異なるのがこのゲームです。
鎖がうねります。
鎖が大鎌リッチを、オリバーを、ティティリーを、それからガストロをはね飛ばしました。
敵は揃って仰け反ったり、弾き飛ばされましたがダメージはないようですね。けれど、彼らが閃光と衝撃から復帰し、目を開けた先に広がっていたのは。
「闇」
と。
老人剣士のガストロが小さく零しました。
光に目が慣れたかと思えば、次の瞬間には私の繰り出した闇が世界を覆っています。真っ暗な中、動けるのは闇に慣れたアトリだけ。
アトリが片足を軽くあげます。
その動きに連動して鎖がじゃらり、と音を立てて動き出しました。
「【
鎖のアーツのひとつ。
スキル名【瀑架羅】の効果は「鎖が幾重にも分離し、さらには拳のように敵を殴りつける」というラッシュ系のアーツとなっております。
地味にラッシュ系の攻撃は持っていませんでしたからね。
ただでさえ分離する鎖が、アーツの効果によってさらに増えます。
一時的にではありますけれど、百を超える鎖と分銅が出現。それらが流星雨の如く、敵の肉体を連続で打撃していきます。
闇の中、どうにか動けているのは大鎌リッチだけでした。
奴はオリバーたちに向かう鎖を大鎌で叩き落としています。分銅と大鎌の切り結び。
先に攻撃が止まったのはアトリのほうでした。
その時点ではすでにオリバーが何かをして、私の闇をぬぐい去ってきました。もちろん、暗闇中、私は【シャドウ・ベール】と【ダーク・ボール】のいつものコンボをたくさん設置しました。
敵が下手に動けば、強制ノックバックの憂き目に遭わせることが可能です。
「そろそろよろしいでしょう、アトリ。対策をやってみましょうか」
「はい。です、神様……【イェソドの一翼】【ケセドの一翼】解放」
未来視とクリティカル通常変換を発動しました。
オウジンの完全未来予知に対し、こちらも未来視で対抗しようという作戦でした。どのていど有用なのかは不明ですけれど、多少の対策くらいにはなることでしょう。
また【ケセドの一翼】によって、たとえば「首を斬られる」未来があったとしても生きていけるようにもしました。
これも焼け石に水感はありますが、ないよりはあったほうが良いでしょうね。
未来視によって目を変化させたアトリ。
彼女はすぐに動き出しました。後方に手をかざしながら召喚します。
「シヲ、ロゥロ」
シヲとロゥロが背後に出現します。
その瞬間、同時に出現したのが大鎌リッチでした。カラミティーというだけあり、何もしていない状態のアトリの反応速度を上回っています。
大鎌の一閃。
それをロゥロとシヲが肉体で以て防ぎました。攻撃の衝撃によってロゥロが消え、シヲについても諸に斬撃を受けて瀕死状態。
それでもシヲは【相の毒】を撃ち込みながら、触手で敵を拘束してしまいます。
カラミティーからすればシヲの拘束なんてほとんど無意味。
一瞬で解除されそうになりますが、その一瞬こそが致命的でした。アトリの鎖がシヲごと敵をぐるぐる巻きにしてしまいます。
同じく、目をぐるぐると回す幼女。
「【グレイプニール】」
シヲの拘束を突破し、迫る鎖を大鎌リッチが切り裂きます。が、対象のステータスに比例したバフを得る【グレイプニール】は、むしろ大鎌リッチの大鎌をはね飛ばしました。
鎖が大鎌リッチを拘束、あらゆるバフやアーツを無効化します。
そもそも存在が「スキル」であるとアトリが認識しているからでしょうか。大鎌リッチは拘束された瞬間、その姿が消え失せてしまいました。
「カラミティーも人が使えば、ただの道具でございますか」
オリバーが銃弾を放ってきています。
それを【狂化】の加速で回避し、再出現させられた大鎌リッチの攻撃も紙一重で回避しました。が、続くガストロの斬撃を躱しきれませんでした。
が、すでに【天身の舞】は発動中。
無敵と転移が発動しました。
すかさずアトリは後方で待機していた遠距離タンク――ティティリーの元に転移。腕に鎖をぐるぐると巻き付けた状態で腕を振りかぶります。
ティティリーは妖艶にほくそ笑みます。
「防御用の指輪がたくさんあるので、単発攻撃は無駄ですよお」
「知ってる。だから【ビナーの一翼】」
敵のスキルやアーツを一瞬だけオフにするアーツでした。
オフにする対象はもちろん指輪ども。
アトリの鎖付の抜き手がティティリーの顔面を貫きました。脳髄と骨が吹き飛び、ティティリーが力なく大地に倒れ伏します。
ティティリーはロストしました。
が、即座に私は【劣化蘇生ポーション】を使用してHP1で強制蘇生。復活した瞬間、【ダーク・ダーツ】でトドメを刺しました。
敵にオリバーがいますからね。
蘇生ポーションを使われては手間です。念入りに殺しておきましょう。
アトリの首が吹き飛びます。
大鎌リッチが背後から首を飛ばしてきました。
カラミティーの【首狩り】が入ってはクリティカルとか関係なく、HPを全損させられてしまいます。
それを【致命回避】で受けます。
吹き飛ぶ頭部も関係なく、アトリは【ボム・ライトニング】で敵を吹き飛ばそうとします。が、大鎌リッチは斬撃で光の爆弾を斬り裂いてしまいました。
次の一撃。
アトリの【再生】も間に合わず、大鎌リッチの攻撃が炸裂する寸前。
突如として大鎌リッチが消え失せました。
地面の中を掘り進んだ【交差する罪過への罰】が、魔教主任司祭・ガストロの足を掴んで【グレイプニール】を発動したからです。
オリバーが素早くガストロの足をポーションで溶かして鎖から逃がします。すぐに回復用のポーションを使おうとしましたが、【奉納・閃耀の舞】でアトリは移動していました。
移動先はオリバーが投擲した回復ポーションがぶつかる位置。
未来視によって安全を確かめていたのでしょう。
一気にアトリのHPが全回復しました。
幼女の小さな掌がガストロの顔面に向けられます。
「【スナイプ・ライトニング】」
「っ!」
ガストロは反射的に掌から身を捩ります。
ですけれど、アトリの手からは何も出ません。この至近距離で技後硬直のあるアーツを使うわけがありません。
前に目線を誘導されたガストロは、その足をまたもや鎖に囚われます。
老人を宙づりにします。
後ろから銃を乱射するオリバーですが、そのすべてがアトリの手刀によって叩き落とされていきます。
「かみさま」
「任せてください」
「【牙螺口手】」
ガストロを拘束する二本の鎖。
残った八本の鎖がドリルのように回転し、ガストロの心臓を抉りました。ロストを確認し、蘇生してから【ダーク・ダーツ】でトドメを刺しました。
技後硬直をオリバーが狙ってきますが、私の闇がそれを防ぎます。攻撃力の低い銃なので、闇の壁を何枚も使えば防げてしまいます。
残る魔教はこれにて一人きり。
くすくす、と魔教のオリバーはおかしそうに笑っていました。けれど、彼が纏うオーラは諦念に塗り潰されていました。
「素晴らしい完成度でございますなあ」
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