第32章 王都舞踏会編

第343話 王都奪還舞踏会

  ▽第三百三十五話 王都奪還舞踏会


 私たちは存外簡単に……王都の奪還に成功いたしました。

 まあ、その簡単の下地にはカラミティーが四体以上存在していたことを思えば、表面上の簡易さなんて見せかけだと断言できますけれど。


 ただし、カラミティーを破ってからは順調でした。


 まず、カラミティー連戦の後に出現した悪魔ルルティア……アレについてはクルシュー・ズ・ラ・シーが即座に呪い殺していました。

 HP を共有する呪いか何かを掛け、呪術師本人が自害して終了。


 自殺の後、クルシュー・ズ・ラ・シー本人は平然と起き上がりましたが。


 あの人って本当になんなのでしょうね?

 ある意味、ジークハルト以上に勝てる未来が見えてきません。殺しても次の瞬間には起き上がっているイメージが消えませんね。


 その後、雑魚に襲われました。

 四方八方敵だらけ。

 地獄のような状況でしたけれど、ジークハルトが単騎でほとんどを壊滅させました。生き残った兵士たちも戦い、カラミティーでは活躍できなかった《剣聖の弟子》も大暴れ。


 本来ならば撤退予定でした。

 が、ジークハルトたちはあえて進軍していき、最後には王都前まで辿り着いたのです。正直、現し身相手ならば最上が一人でも生き残っていれば勝ち目は高い。


 ヘルムートだけが異質で、他の現し身は最上からみれば勝てる相手です。

 そのヘルムートにしてもジークハルトは勝てたでしょう。あくまでも国が「ジークハルトを万が一にも失いたくない」から派遣しなかっただけですね。


 第一フィールド側からすれば、知らない国を救うために切り札を危険に晒すなんてあり得ませんから。


 その判断は正常で正しく思います。

 何かひとつ間違うだけで殺されかねませんから。アトリだって実力的には圧勝だったステリア戦に関して、彼女の「何か」を止めたので勝てたところがあります。


 もしも「何か」が発動していれば、アトリとて危険だったかもしれません。


 それでもジークハルトはあえて進軍しました。

 それは負傷者が思ったよりも多かったからですね。戦えなくなった最上の領域も多く、戻ることのほうに危険を覚えたようでした。


 戻っている最中に攻撃されるよりも、攻撃している最中に反撃されるほうが「勝ち目が高い」と判断したようでした。


 その判断が下せることがジークハルトが最強と呼ばれる理由です。


 私ならば戻っていたでしょう。

 帰り道に襲われていればかなりキツかったでしょうが、「そうならないことを祈って帰還する」しか選択肢が許されていませんから。


 そうやって辿り着いた王都。


 そこはもぬけの殻でした。

 厳密に言えば魔物が大量に残されていましたけれど、肝心のフィールド・ボス《深淵美姫のアリスディーネ》が居ませんでした。


 敵前逃亡です。

 ジークハルトに襲撃されてロストするくらいならば逃げとこ作戦ですね。賢い。


「さて封印処置と行こう!」


 アイリスさんから受け取った謎のアイテム。

 それをジークハルトが大地に突き立てていきます。すると、透明の膜のようなモノが王都を覆い囲みました。


「これが王都の結界だ。そして、あとで設置するのだが転移防止のアイテムも置くよっ! 学者の村の人たちに作ってもらってねっ! かなり代償は大きかったが仕方があるまい! ……そのアイテムの設置で以て……」


 ジークハルトが清々しく断言しました。


「我ら人類種の勝利とするっ! 凱旋の時間だっ!」

「おおおおおおおおおおおおおおおお!」


 大地が割れるような喝采を浴び、ジークハルトは穏やかに微笑みました。そっちの表情のほうが素なのでしょうね。

 こうして私たちは完膚なきまでに勝利したのです。


       ▽

 いつものことながら【理想のアトリエ】内。

 真白で絢爛豪華な室内、そこにはやはり豪奢なベッドが横たわっております。開け放たれた窓からは風が流れず、ただその代わりに穏やかな時間が流れております。


 私は生産スキル上げに薬剤を作り、アトリはベッドで眠っていました。

 愛らしい白髪の幼女は、眠っているとまさに天使のように。清潔な純白のシーツが穏やかな呼吸に合わせて上下しております。


 その時。

 ぱちり、とアトリが目を見開きました。音もなく、けれども勢いよく上体が起こされます。その赤い瞳は一瞬で私を捉えます。

 とくに探す動作もなく、一撃で見つかってしまいました。隠れていませんが。


「かみさま……」

「おやアトリ。もうよろしいのですか?」

「起きれる。です」


 かなり壮絶な戦闘でした。

 アトリは常時「零式」のほうの【ヴァナルガンド】を使っていましたし、その先である「真式」のほうまで切りましたからね。


 いつもならば数週間は寝込んでいるところです。


 アトリの頭上には狼耳がだらりと垂れ下がっています。おそらく【零式・ヴァナルガンド】を使い、体力を上昇させて強引に起きている状態でした。

 迎え酒みたいなモノですね。

 私は感心と呆れを混ぜた声でアトリを寝かせました。


「べつに休んでいて良いですよ。アリスディーネの討伐はナシになりましたから」

「……何処に行った。です?」

「第四フィールドの何処からしいですね。まあすぐに見つかるでしょうけれど、敵には転移がありますからね。正直、ゲヘナよりも捕らえることは難しいでしょう」


 敵よりも強くなるヘルムート。

 逃げ足最強のゲヘナ。

 正体不明だったステリア。

 そして転移でフィールドレベルで瞬間移動可能なアリスディーネ。


 なんて倒しづらい敵たちでしょう。

 それを三体、最初に倒した私たちって相当凄くないです? もちろん、凄さに見合う報酬は得ていますけれど、リスクがあまりにも高いですね、振り返れば。


 ベッドに叩き戻した(べつに本当に叩いていませんよ)アトリの頭上を浮かびます。


「アトリ、起きたのでお知らせしておきましょう。貴女に王都からお呼びが掛かっていますよ」

「王族……お招きは危険っ! ですっ!」

「今回はさすがに大丈夫でしょう。功労者ですしね、アトリは」

「神様も! ですっ!」

「ですねー」


 今回、私はあまり活躍していませんがね。

 まあ闇精霊ってそもそも大活躍するような役職ではありません。やることはデバフを撒き、CCを行うくらいでしょう。


 今回はステインという上位互換が居たので尚更です。


 いざという時、【神威顕現】と【霊気顕現】で戦況をひっくり返せるのが私のビルドの真髄です。つまりは「いつでもお前は倒せるんだからなっ!」と吠えている役割です。

 小物感が凄い。

 けれど、私が小物なのは事実なので認めてしまいましょう。


 邪神はあらゆる悪を赦し、己が小物ささえも肯定するのです。


 アトリのなんちゃって聖典にも書き足しておきましょう。


「王族のパーティー……舞踏会に招待されましたが、こういうのは人生経験です。一回くらいは行ってみましょうか、アトリ?」

「行くっ! ですっ! 邪神の使徒は逃げない……です」

「必要な時は逃げましょうね」

「邪神の使徒は逃げる。です」


 私たちの基本スタンスが「ヤバくなったら逃げる」ですから。

 その点、私たちってステインを悪く言えないんですよね。なるべく逃げる選択肢を用意してから戦いに挑むのが私です。


 こくこく、と頷く私の下。

 アトリも覚悟を決めたように拳を握っています。


「武闘会、勝つ。です! 拳で!」

「……武闘大会ではなく、舞踏会ですよ?」

「拳は使わない。です、か?」


 アトリが赤い瞳をぱちくりします。


「そんなまさか、みたいな顔をしないでください。女の子はみんな憧れると思っていましたけれどね、舞踏会。施設ではみんなそうでしたが……陽村以外」

「?」

「安心しなさい、アトリ。私がついています。一週間もあるので……私がダンスの真髄を叩き込んであげましょう」

「! 神様に叩き込まれるっ、ですっ!」


 アトリも興奮してきたようですね。

 無表情なのに鼻血が流れています。……それって楽しみだからじゃなくて技の反動なのでは? 私は慌ててセックを呼びつけました。


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