第340話 終結カラミティー連戦・後

    ▽第三百四十話 終結カラミティー連戦・後


 かなり縮んだイビル・フェニックス。

 もはや手乗り文鳥サイズだというのに、奴が解き放つ「威圧」は未だに健在。どころか力が凝縮され、攻撃の頻度も、火力もここに来て上昇し続けております。


 対するこちらは四名。

 呪いの専門家《呪獣》のクルシュー・ズ・ラ・シー。

 世界最高のヒーラー《弔御殿とむらいごてん》のレジナルド・フォース。

 最強の人類種《最強最優》のジークハルト・ファンズム。


 この三名のみとなりました。

 レイピアを構えながら、レジナルド殿下が呟きます。


「おそらくイビル・フェニックスの凝縮攻撃。あれは発動されたら終わる。発動すれば無効化スキルも無効化してくることだろう。はっ、理不尽な性能だよ、カラミティーとは」

「仕方ないわ、殿下。カラミティーは国を滅ぼせる領域の敵だもの。普通ならば人類種は逃げ惑う相手だわ」

「なるほどっ!? 殺すしかないようだねっ!」


 ジークハルトの神器が形を変化させていきます。

 近未来的なビームサーベルが錆びだらけのみすぼらしい剣に変わります。おそらく、あの姿形こそが神器本来の姿なのでしょう。

 

 ジークハルトはその刀剣で自分の心臓を刺し貫きました。


 盛大に吐血しながらも、ジークハルトはぐんぐんと剣を肉体にねじ込んでいきます。やがて剣が消え失せて、ジークハルトの肉体に――神秘が満ちあふれます。

 何かが変化したようには見えません。

 けれど、何かが致命的に変化しています。


「ぐっ、う、あ……なんてねっ! さあ攻めていこうかっ!」


 一瞬、頭を抑えて暴れそうになりましたけれど、それをおふざけだと嘘を吐き、ジークハルトは予備の剣をアイリスさんからもらっています。

 神器を肉体に取り込んで……ジークハルトが消えます。

 高速で動いたのではなく、神器能力を行使したのでしょう。


「今の私はすべての行動が【勤勉】化するぞっ! あははははははは! これぞ神器一体! ちゃんとした真解だよ!」


 イビル・フェニックスが炎を放ちます。

 その業火はカラミティーの攻撃というだけあり、ジークハルトでも直撃すれば危険なはずでした。ですが、その炎をジークハルトは蹴り抜き、反撃に剣を叩き込みました。


 途中動作はありません。

 ただ【勤勉】によって「火に打ち勝ち」「攻撃を命中させた」という結果だけが出現します。


 イビル・フェニックスが爆散しました。

 慌てたようにカラミティー・スキルが発動されます。すでに肉体は縮みきっており、肉体が凝縮するのではなく、敵が纏っている炎だけが縮むようでした。


 不死鳥が纏うは業火。

 接近するだけで生物は死に絶えます。ジークハルトも凄まじい勢いでHPが減少しているようですけれど、レジナルド殿下が付きっきりで癒やし続けております。


 ジークハルトが咆哮しました。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ジークハルト自身はただ叫んでいるだけです。

 それでも不死鳥が何度も何度も何度も何度も殺され続けました。おそらく敵の反撃に対する迎撃も、自分の攻撃もすべて【勤勉】でスキップしているのでしょう。


 みるみるイビル・フェニックスが縮んでいきます。

 そしてやがて……イビル・フェニックスが卵に変化しました。と同時、ジークハルトが血まみれとなって吹き飛ばされました。


「……か、硬いねっ!? あれは一秒では破壊できない! うっかり力を行使してデメリットを受けてしまった!」

「まずいな」とレジナルド殿下が呟きます。

「凝縮が止まっていない。我らでは炎は消せぬ。卵を割って殺すしかない」


 目を見開き、ジークハルトがまたもやワープします。

 しかし、ジークハルトの剣でも卵に罅が入るのみでした。大技を使えば破壊できるのでしょうけれど、ジークハルトにはもうそのリソースが残っていないのでしょう。


「っ! 総員っ!」


 ジークハルトが何かを指示する寸前。

 イビル・フェニックスの卵を業火が飲み込んでしまいます。それはレメリア王女殿下、そして上体だけ起こしたシンズの巻き起こした炎です。


「っ! キミたち! よくやった! あとは任せたまえ!」


 しかし、すぐにイビル・フェニックスはカラミティー・スキルを連打してきます。卵化したことにより、サイズは最小。

 凝縮もすぐに終わってしまいます。

 さすがのジークハルトも時間との勝負となるでしょう。


 そこに。

 大鎌を咥えた鎖が伸びていきました。

 ほとんど意識を失っていたアトリによる支援です。隣にいた私でさえも予想外の支援に、思わず目を剥いていますと、アトリが呟きました。


「神の使徒は……こんなものではない」


 大鎌が撫でるように卵を切りつけます。

 そこに付与されていたアーツは【脆壊刃ぜいかいば】でした。アトリが取得した【鎌術】アーツのひとつでした。


 その効果は「切りつけた箇所を弱点に変化させる」ことでした。

 ジークハルトが大きく笑って剣を振り上げました。


「【世界女神の勤勉ザ・ワールド・オブ・デリジェンス】!! これぞ人類の刃が最高峰! 受けるが良いっ、邪悪なる不死鳥! 今日がキミの死ぬ日である!」


 そうして剣が――


「我らは全員!! ――英雄だよ」


 大地が砕け、もはや戦争後のようになった大自然のただ中。

 吹き抜ける風だけが妙に穏やかでした。


【ネロがレベルアップしました】

【ネロの闇魔法がレベルアップしました】

【ネロのクリエイト・ダークがレベルアップしました】

【ネロのダーク・オーラがレベルアップしました】

【ネロの再生がレベルアップしました】

【ネロの鑑定がレベルアップしました】

【ネロの敏捷強化がレベルアップしました】

【ネロの罠術がレベルアップしました】

【アトリの月光鎌術がレベルアップしました】

【アトリの造園スキルがレベルアップしました】

【アトリの閃光魔法がレベルアップしました】

【アトリの口寄せがレベルアップしました】

【アトリの詠唱延長がレベルアップしました】

【アトリの天使の因子がレベルアップしました】

【アトリの光属性超強化がレベルアップしました】

【アトリの鎖術がレベルアップしました】

【シヲがレベルアップしました】

【シヲの擬態がレベルアップしました】

【シヲの奇襲がレベルアップしました】

【シヲの拘束がレベルアップしました】

【シヲの音波がレベルアップしました】

【シヲの鉄壁がレベルアップしました】

【シヲの触手強化がレベルアップしました】


 勝利を告げるファンファーレじみてアナウンスが響きました。どうやら私たちは勝利して、そして生き残ったようですね。

 いやあ大変でした。

 最後の戦いはそんなに何もしていませんがね。


 まあ限界を超えて動いたアトリは花丸でしょう。

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