第339話 終戦カラミティー連戦・前
▽第三百三十九話 終戦カラミティー連戦・前
お茶を飲むジークハルトを眺めるという虚無時間が過ぎていきます。
このような映像はジークハルト大好きな精霊アイリスしか喜ばないことでしょう。たっぷり五分も掛けてお茶を飲み干し、最強最優は演技臭く大仰に立ち上がりました。
ぱんぱん、と仕切り直しを強調する拍手。
「さて。諸君。中々に絶望的な連戦ももはや佳境をすぎた。もう一踏ん張りだ。精神を落ち着かせることはできただろう。無論、敵はカラミティーだ。ここからもう一波乱あるかもしれないが……私が消し飛ばす。あと少しだ。頑張ろうではないかっ!」
私とアトリはもう戦い終えています。
けれど、二時間以上も気を張り続けたイビル・フェニックス戦参加者は、思ったよりも息を抜くタイミングになっていそうです。
まさか「長期戦中にリラックスを挟む技」に昇華させてくるとは予想外でした。
まあ見世物としてはつまらないです。今度からはショートコントとかも挟んでほしいところ。とはいえ、実際のところ、参加者たちにとっては良い時間のようでした。
ジークハルトが神器を振るいます。
イビル・フェニックスは復活制を採用しております。超火力を叩き込んで疲労するくらいなら、ちょうど良い攻撃をしてちょうど殺すのが最適解でした。
攻撃の命中に伴い、ジークハルトの固有スキルが解除されました。
▽
イビル・フェニックスの最後の抵抗が始まりました。
周囲を火の海へと変え、それから温存していたもうひとつの【カラミティー・スキル】が起動されています。
「ん?」
とジークハルトたちが地面を見やれば、そこには赤い円が出現しています。すぐにシンズが叫びました。
「攻撃円よ!」
咄嗟に全員が飛び退きました。
その数瞬間後、その円から火柱が立ち上がります。おそらくは触れれば即死の大火力だったことでしょう。
『きいいいいいいい!』
円は終わりません。
推測ですけれど、もうイビル・フェニックスが終わるまで円は発生し続けます。絶えず移動しながらの戦闘が始まりました。
地面を見ながら、天から降り注ぐ炎岩を防ぎます。
また、イビル・フェニックス自身が時折降下してくるので、そちらも防がねばなりませんでした。
「い、急がすなや! うちはどっしり構えるタイプやの!」
メメなどは必死に地面から逃げるあまり、いくつか空からの攻撃が直撃しているようでした。メメがちゃんと被弾したのはゲヘナ戦くらい。
ここまでしっかりと大ダメージを受けているのは珍しいことですね。
『きいいいい!』
イビル・フェニックスの羽が大量に抜け落ちました。
その一枚一枚が大火力の爆弾として、ゆらゆらと風に乗りながら落下してきます。その不規則な弾道と弾幕量は回避がとても難しい。
爆発する寸前、シンズが【ハード・プロミネンス】ですべてを誘爆させました。
が、それを好機としてイビル・フェニックスが凝縮の【カラミティー・スキル】を起動しました。縮んでいるために発動も早そうですね。
こういうのは「発動したら強制敗北」もあり得ます。
メメの神器でも防げないかもしれません。
水魔法の達人でもあるステインが水を掛けて勢いを抑えますが、凝縮は完全には止まることなく――ギリギリのところでシンズの【コロナ・レイン】が間に合います。
炎で炎を奪い、どうにか「爆発」を止めます。
けれど、もうシンズの体力も底をついているらしく、空を飛ぶ力が落ちたところにイビル・フェニックスの翼による打撃が直撃しました。
「っ!?」
シンズが大地に墜落します。
しかも、ちょうどその位置には「円」がありました。偶然落ちたのではなく、イビル・フェニックスがあえてそこに叩き落としたのです。
『きいいいいいい!』
「甘いね、【
ジークハルトが神器を使い、シンズをお姫様抱っこして救出しました。火炎の柱を背景にジークハルトは余裕綽々に微笑んでいました。
ただ額からは夥しい量の汗が流れています。
誰もが限界ギリギリのところで戦っています。
レジナルド殿下がシンズをヒールします。
が、意識を失っているようで起き上がる気配はありません。死んではいないようですが……シンズが欠けてしまいました。
それを見たステインが武器をしまいました。
「ここまでだなです。あとで国には請求書を出すぞです。いつものところへお願いするぜです」
「ここで負ければ人類種は厳しくなるよ! 金の価値もなくなると思われるがっ!?」
「たしかに負けたら人類種終わりだぜですが、俺私一人なら生きていけるだろですしなです。金は集めるのが好きなだけだぜです。価値がなくなったらそこがリザルトだろです」
突如、汚濁のステインは言い捨てて逃げ出しました。
彼は凄腕の傭兵として知られる人物です。ただし、最上の領域の傭兵として彼は問題児でもあり、お金をもらっていても平然と逃げ出したり裏切ったりするのです。
普通ではあり得ません。
傭兵は信頼業と言われますからね。信頼を損なった傭兵に待つのは死と絶望のみ。ゆえに傭兵たちは死んでも戦い続けるわけですけれど。
ただし、その常識はステインには通用しません。
傭兵に信頼が必要なのは主に二点。
仕事をもらうため、そして仲間に裏切られて使い捨てにされぬため。
ですが、最上の領域の傭兵ともなれば話は異なります。雇うのを辞めて敵につかれれば負けが確定しますし、かといって使い捨てのような激戦区に追いやれば生き残って報復されますからね。
契約違反と主張して敵対するには強すぎる人物。
私の上位互換レベルのCC能力によって逃げることも得意で、下手に取り逃がせば魔教などに雇われかねないのも厄介さに拍車をかけております。
異例の傭兵。
常識破り。
信頼いらずの「汚濁」……それが《汚濁》のステインでした。
アトリ。
レメリア王女殿下。
シンズ。
ステイン。
この四名が戦線離脱。
七人いた最上の領域は三名にまで減ってしまいました。あまりにも絶望的な戦況。未だイビル・フェニックスは空にて煌々と輝いております。
火の粉が空を彩る中、負けじと輝く人物がいます。
「まあいいさ!」
ジークハルトは歯を輝かせて笑います。
「ステインくんとの契約は『なるべく一緒に戦ってもらう』だ! 突如の戦線離脱も想定内と言えるだろう! まだ戦場には私が居るからねっ! さっさと決めてしまおうか」
ジークハルトが覚悟を決めた雰囲気を出します。
おそらくは奥の手なり切り札なりを提示する気になったのでしょう。彼の戦闘を見ていて思うのが消費が激しいということです。
戦闘中、かなりの勢いで能力が落ちています。
あの大火力は人の身では負担が大きすぎるのでしょう。
失明しているらしいですけれど、それも「戦闘の負担が積み重なって」のようですしね。
それでもアトリよりも長期戦に対応できているのは、純粋な性能もありますけれど、プライドや使命感の要素が大きいでしょう。
敵を倒すことがアトリのプライドだとすれば。
ジークハルトのそれは「最後まで立っている」ことにあるようでした。そのジークハルトが切り札を切る。
ここはそういう場面のようでした。
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