第337話 屍の王の最期
▽第三百三十七話 屍の王の最期
アーツを使うまでもなく、アトリはワープでもするような速度で動きます。リッチ・キング本体の真後ろを獲り、それと同時に斬撃を見舞いました。
掬い上げるような大鎌の一撃。
それに対してリッチ・キングは大鎌リッチを召喚して盾にします。
大鎌と大鎌が絡み合い、しかしながら技巧の高いアトリが勝ちました。
大鎌リッチの手から吹き飛んだ大鎌を、アトリは鎖でキャッチしました。手の中の邪神器で【殺生刃】【奪命刃】【吸命刃】を、鎖で掴んだ大鎌に【死導刃】【光爆刃】を付与します。
ぼう、と光った大鎌が加速する。
放つのは同時の【月天喰らい】です。
アーツ【アタック・ライトニング】も併用されたソレは、一撃の名の下に大鎌リッチを消し飛ばしました。力の調整は完璧です。
が、その後隙に本体が手を向けてきて「けたけた」と笑います。
死の魔法が放たれます。
魔法がアトリに炸裂しました。
その一撃はアトリに直撃するや否や【奉納・天身の舞】で無効化されました。消えたアトリに敵が動揺する間もなく、ジークハルトの超火力が本体を爆撃します。
『ぐっ、けっ』
「まだまだ行かせてもらおう!」
ジークハルトは純粋に剣で戦うよりも、剣から光りを放ち続けるムーブがもっとも強いと言われています。
タイマンであるなら剣技が必須ですけれど、これは二対一。
ダメージに仰け反った本体が、反射的に周囲を致死性の猛毒で満たします。
あれもジークハルトの情報にあった攻撃。近づくだけでHPを強制的に三分の一より下にされるという恐ろしい技でした。
ただし、今のアトリは【奉納・天身の舞】によって無敵です。
アトリは斬撃ではなく、あえて蹴りを放ちます。アーツの効果によって今では蹴りでさえも立派な攻撃となります。
大鎌を使わなかったのは、敵を毒から引き剥がすためです。
吹き飛んだ本体を五本の鎖が打撃していきます。今のアトリは鎖の一本一本を己が手指のように自在に行使することが可能です。
それは【鎖術】で最初に獲った【鎖操作向上】もありますが、何よりもアトリ本人の資質によるところが大きいでしょう。
私が【ダーク・ダーツ】を使ってアトリは再ワープ。
アトリの五本の鎖が絶えずリッチ・キングを打撃し、残りの五本がリッチ・キングを拘束していきます。
本体も必死にアトリを魔法で狙いますが、アトリは消え続けています。
一方的に鎖、それから【閃光魔法】で攻め立てます。
連想されるのはさながら風雲龍との戦闘。今回は真逆の展開ですがね。そうしてようやく鎖がリッチ・キングを捕らえました。とぐろを巻く蛇のように、一息に鎖が敵を浸食します。
『【――】』
リッチ・キング本体が黒い靄となって消え失せます。
直後、アトリの背後に大鎌リッチが現れますけれど、すでに私が【ダーク・ダーツ】を発動しています。
アトリの姿がバグ技【天衣無法】でワープします。
空ぶる敵の大鎌。
そこにジークハルトの斬撃が放たれ、またもや大鎌リッチが消失してしまいました。さて、本体は何処に消えたのか。その時です。
「で、伝令! レジナルド殿下が至急、お伝えすることがあるとのことですっ! リッチ・キングのギミックの本当の仕掛けが判明したとのこと!」
激しい戦闘の最中だというのに、一般兵士が駆け寄ってきました。
ですが、その一般兵士をアトリとジークハルトは一太刀で斬り伏せます。その兵士は一瞬でリッチ・キング本体に姿を回帰させました。
憎々しげにリッチ・キングが砕けた己が胸を押さえます。
ジークハルトはなんてことない、とでも主張するように余裕の笑みを浮かべます。どころか敵へ称賛の拍手さえ送り始めました。
「じつに多彩な戦闘だっ! 初見殺し大いに結構! さすがは私を一度は殺しきった敵だと喝采で以て讃えようか! だが……もう終わりだろう?」
リッチ・キングは凶悪なボスでした。
まず大鎌リッチの存在が悪辣ですし、本体の擬態もほとんど完璧と言って差し支えありません。病気や致死毒を周囲に撒き散らし、魔法だって命中していれば一撃で「詰む」魔法のようでした。
ジークハルトは前回の戦いでリッチ・キングの魔法について「正体不明」としました。が、今にして思えばあれは「疲労させる魔法」か「免疫力を落とす」魔法なのでしょう。
喰らえば一瞬で対策不可能の病魔に犯されて負け確定です。
カラミティー・スキルも「陽動」としては最高峰。
あれを抑えるためだけに最上の領域が二人もかかり切りにされ、一般兵士まで命懸けで戦闘に参戦せざるを得ません。
疲労することも許さぬ戦い。
それなのに素の身体能力が【零式・ヴァナルガンド】を使っている時のアトリクラス。おおよそ理不尽の権化と言えるでしょう。
ハッキリ言って「こいつ」に勝てる人類種は居ません。
ソロでは。
最強最優のジークハルトが剣に雷光を纏います。
死神幼女のアトリが大鎌に莫大な光と闇とを纏います。空間が軋むような威圧を放ち合いながら、二人は見せつけるかのようにリッチ・キングに迫っていきます。
数歩。屍の王が畏れるように下がりました。
『解った。貴方たちは強い。私は命を失いたくない。降伏しよう。魔王が隠している情報がある。貴方たちはご存じかな? 魔王の目的を。あるいは魔教の目的を。私はそれを白状しよう。貴方たちは魔王同様、アレについて備えなければならないはずだ』
「なるほどっ! 魔王と魔教の目的が何なのかは興味があるが、その時になったら打ち砕くだけさっ! 降伏も投降もアルビュートは受け入れないっ!」
ジークハルトが【
砕けた骨の破片がばらばらと舞い散ります。白桜の散りゆくが如き光景に、よく似合う美青年。
そして、その斬撃はCC能力つきです。
動きを鈍らせたリッチ・キングが死毒をばらまき、ジークハルトのHPを減少させました。そして【アビス・ジェノサイド】という【常闇魔法】における範囲攻撃を放ちました。
「アトリくん」
ジークハルトが神器効果で下がると同時、今度はアトリが【奉納・閃耀の舞】で敵の背後を奪います。
あくまでも【天衣無法】は「決め技」ではありません。
敵の体力を削り取る技です。大技でさっさと決めたい時、あの崩技はあまり最適とは言えませんからね。
死毒を喰らいながら攻撃を行います。
今のアトリはギリギリ【致命回避】も発動できないHP帯に抑え込まれております。つまり、一撃でも喰らえばロスト……ですが、今のアトリが喰らうわけもなく。
怯えたようにリッチキングが魔法をばらまきます。
ですが、アトリには当たらない。
『私を殺せば広域に呪いと病が降り注ぎ、キミたちの仲間は皆殺しになる。力を使い果たした貴方も死ぬ。本当に私を殺しても良いのか? せめて仲間を撤退させてからでなくて良いのか? 後悔することになるぞ。私は死を、病を、苦しみを司るカラミティーなのだから!』
「あとでどうにかするだけ」
『まだイビル・フェニックスが残っている。呪いと病で苦しみながら、貴方を欠いた状態で果たして勝てるかな? 今ならば私はこの場から大人しく消えよう。いずれ再び襲いかかるが、その時にはイビル・フェニックスはいないだろう?』
「それでも勝つ」
言いながらもリッチ・キングは高速の拳を放ってきます。蹴りも交えた見事な武闘術を見せつけられ、この敵が近接戦闘も得意であると判明します。
魔法を纏った拳と蹴りは、すべてが致死性。
さらにはアトリの背後に大鎌リッチまでもが現れます。元々が一体の存在なので、二体の連携は完璧とも言えました。
間断なき死の嵐。
乱舞の武闘。稲妻のような大鎌の致命狙いの一撃。
二体の屍の王による、死の波状攻撃。
いつ殺されてもおかしくない中、アトリは表情ひとつ変えず淡々と舞い続けます。
『ば、化け物……なのか!』とリッチ・キングは思わず声を荒らげました。
「ボクは……邪神の使徒アトリ。化け物では、ない。でも――」
『当たれえええええ!』
「ボクはお前の死だ」
加速していく死の連携。
それをアトリはすべて技術で回避していきます。これぞ人類種の【敏捷値】の究極にして、身体操作系固有スキル【
はっと息を呑むほどの舞い。
それを行使しながら、アトリはそっと口ずさみます。
「狂い開け【死に至る闇】」
『っ!』
リッチ・キングが逃げようとします。けれど、それはジークハルトが【勤勉】を連続行使することにより、すべての行動前にダメージを与え続けてキャンセルします。
リッチ・キングは……己が詰みを理解して棒立ちとなります。
けれど、「かたかたかたかた」と顎を噛み合わせて嗤い続けました。
『私は本当に貴方たちを皆殺しにできる。死をばらまこう! さあ、終わりを貴方の手で引くが――』
アトリの大鎌に込められた殺意が不意に綺麗さっぱりに消え失せました。
その代わりとでも言うように、アトリの鎖がリッチ・キングを雁字搦めにしてしまいます。発動しているのは【グレイプニール】でした。
敵のあらゆる「スキル・アーツ」の発動を制限するスキル。
自爆も死後の攻撃も……許しません。
「狂い開け【死に至る闇】」
『!?』
じつのところ、【グレイプニール】には発動回数上限があります。
おそらくリッチ・キングもそれを把握した上で脅してきていたのでしょう。使えるタイミングで使いませんでしたからね。尽きたと勘定したのでしょう。
ですけれど、残念なことにアトリには【テテの贄指】があります。
完全に敵を拘束した状態。
慌てたように大鎌リッチが動き出すも、それさえもジークハルトが斬り飛ばします。白い歯が輝きました。
「決めるんだ、アトリくん」
私の使徒が咆吼します。
「万死を崇め、喝采せよっ!」
――【
死が奔流しました。
大量の経験値が入ってきます。どうやら戦場がひとつ決着したようですね。
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