第335話 VSカラミティー二体
▽第三百二十八話 VSカラミティー二体
イビル・フェニックスとリッチ・キングが連携します。
遙か頭上。
不死鳥を盾にし、背後でリッチ・キングがライフドレインを行使します。ジークハルトやアトリの攻撃、あらゆる地上からの攻撃を不死鳥が肉体と炎の壁で防ぎます。
ぐんぐんとHPが吸われていきます。
ですが、そこでクルシュー・ズ・ラ・シーが動き出しました。その美しい相貌には不適な笑みが貼り付きます。なにやら指で印を結び。
と、同時、彼の目と鼻から大量の血液が垂れてきました。
「禁術【禁忌指定・鼓動】【禁忌指定・治癒】【禁忌指定・視力】【禁忌指定・活力】【禁忌指定・呼吸】【禁忌指定・反射】【禁忌指定・力】【禁忌指定・技術】」
ばたん、と血まみれで倒れる呪術師。
どばどばと血液が溢れ、水たまりが出来ていきます。
しかし、それは不死鳥のほうも同様でした。悠然と空に君臨していた不死鳥が、力を失い、雷に打たれた小鳥のように落下してきます。
そこに叩き込まれたのは、レメリア王女殿下の大爆撃でした。
肉体を木っ端微塵に吹き飛ばされる不死鳥。すぐに肉片が寄り集まり、復活しようと試みているようですけれど、そこに【命中】のルーの的確な射撃が挟み込まれます。
「捕まえなさい【炎魔】」
百もの炎の魔人が不死鳥の欠片を抱き締めます。
そうして稼げるのは一瞬ですけれど、その一瞬の時間にてジークハルトとアトリはリッチ・キングの元に辿り着いていました。
アトリは私の【クリエイト・ダーク】により。
ジークハルトは《汚濁》のステインが生み出した泥の階段を駆け抜けました。二人ともレジナルド殿下のバフ支援によって火力をあげています。
二つの斬撃が屍の王に叩き込まれます。
リッチ・キングは咄嗟にジークハルトの剣を大鎌で防ぎましたが、アトリの攻撃によって首を切断されてしまいます。
『……!』
どうやら敵はアトリを軽く見ていたようですね。闇の防壁で防いだつもりが首まで狩られ、極大ダメージを与えられたわけですから。
しかも、アトリの鎖がリッチ・キングを締め上げています。
「【グレイプニール】起動」
邪神器スキルのひとつ【グレイプニール】の効果が発動しました。神話では、あのフェンリルを完膚なきまでに封印していたとされる神器の拘束具。
その効果は強力無比。
対象のステータスに応じたバフを鎖が手に入れるのです。つまり、絶対に敵の破壊力を上回る鎖と変化します。
力を抑えるデバフならば対策手段がたくさんあるのが《スゴ》です。
けれど、バフを解除するのは難しい。敵を弱めて封ずるのではなく、敵を上回って封ずることこそが【グレイプニール】の真骨頂。
その上、【グレイプニール】の効果はもうひとつ。
一瞬だけですけれど、触れている敵のスキル・アーツを強制的にシャットダウンし、発動不能状態に陥らせます。リッチ・キングは何らかのスキルを用いて脱出しようとして、それが封じられて無防備を晒します。
「素晴らしい拘束だねっ! 感心感心!!」
ジークハルトの左手がリッチ・キングの頭を鷲掴みにします。それはジークハルトの固有スキルが発動する合図。
異空間にリッチ・キングがご招待されました。
『……!』
骸骨で変化のないはずの屍の王が、その表情を歪めたように感じられました。
▽
ジークハルトの全力攻撃が行使されました。
攻撃の命中により、ジークハルトの「空間」が消滅します。
リッチ・キングは跡形もなく消し飛ばされましたけれど、この程度で終わるようでは屍系のカラミティーではありませんでしょう。
虚空よりリッチ・キングが再出現しました。
どういうカラクリなのかは解りませんけれど、カラミティーならば「そうなるでしょう」という感想ですね、残念ですよ。
ジークハルトは絡め手よりも、大火力を押し付ける戦法を得意とします。
敵の正体不明攻撃には弱いです。
まあ、それを力でねじ伏せて勝ってしまうのですけれど、どうしても戦闘をすぐに決着させることはできません。
かちかちかちかち、と骸骨が歯を鳴らしました。
ジークハルトの必殺技を受け、それから生存したことを誇示しているのです。それは挑発や侮りではなく、屍の王の立派な戦略でした。
それを理解していても、なお、敵の底が知れなくなりました。
うっかり必殺技を使って疲弊できなくなった、ということですね。アトリも【
「それでも、ようやく地上戦に持ち込めました」
リッチ・キングもさすがに空を維持できず、今は地上に降り立っています。
イビル・フェニックスは復帰したようですが、サイズがいくつか減少しているようでした。まだクルシュー・ズ・ラ・シーを警戒している様子が見て取れます。
それを気取り、美お爺ちゃんは妖艶にウインクを返しておりました。邪不死鳥が苛立ったように甲高い鳴き声を上げます。
レジナルド殿下が冷たい声で指示をくれます。
「気をつけろ。攻めが途切れた時が終わりだ。誰か一人でも欠ければ攻めは継続できぬ。はっ、そうなれば負けだ。誰も殺されるな。完封以外は負けだと理解して動け」
「ヒーラーが弱気なことを言うねっ!」
「はっ、黙れジーク。回復も許してもらえない次元の敵だ。一応、いくつか防げはするがな」
レジナルド殿下はあの大天使みゅうみゅさんを超えるヒーラーです。おそらくは死にそうになっても、仮に死んでも助けてくれるでしょうけれど、奇跡は何度も行使できません。
レジナルド殿下が動く時は、ほとんど負けに追い込まれているということです。
人類種の究極が七人集まって、どうにか押しとどめている状況でした。
構える私たちを尻目に、頭上の不死鳥が嘶きました。
『きいぃぃぃぃぃぃぃ!』
邪不死鳥が無数の炎岩を空に並べます。
それは【神威顕現】を切った私が、ヨヨ戦の時に足止めに使った技――【黒の星座】を想起させるような攻撃です。
参戦しているドワーフ少女、メメが憎々しげに呻きます。
「あいつ、うちの神器を対策しとるわ。時差無差別範囲即死性攻撃に弱いねん、うちの神器」
「それが得意な奴はいない」
アトリが当然のツッコミをして場を騒然とさせます。
それはそう。
イビル・フェニックスは先ほどまでメメとも戦闘していました。それを学習して対策攻撃を放ってくるようでした。
数秒間、絶対無敵にするスキルの数少ない弱点と言えるでしょう。
時差を交えながらの炎の雨が降り注ぎます。それを回避することは不可能。なぜならば、間断なく降り注ぐ雨と同じ密度だからです。
アトリが大鎌を使って炎岩を消し飛ばそうとする、寸前。
「俺私がやろうです。ただし、お高いがなです……金に固執するのは良くないなです。否」
天に手を伸ばす男性がいました。
それは頭部にヘルメットのようにして人の頭蓋骨を被る男性。病的な表情の猫背の、スーツ姿の強者――汚濁のステインでした。
夥しい魔が解き放たれます。
間欠泉から湯が噴き出すが如く、大地から泥が噴き出しました。
ステインの性能を簡単に説明するならば、
「【泥濘操作】だぜです」
水と土、両方の魔法を極限まで極めた彼は、固有スキルとして【泥濘魔法】を手にしました。アトリで言う【
掲示板では「二重人格が同時に表に出ている
すべての炎岩を泥が飲み込んでしまいます。
敵の攻撃をひとつ封じましたが、すでにリッチ・キングは動き出していました。何らかの貯めが必要なスキルを起動していたのです。
「……ぐっ、う」
そうして膝を折ったのがレメリア王女殿下でした。
咄嗟にレジナルド殿下が駆け寄り診察を始めます。瞬時に結論して王子が叫びました。
「病魔に犯されている。未知のな。はっ、これは私では治せないぞ。ヒーラーは医者ではない」
「そんな、わたくしは対策ポーションを、飲んで、いましたわ……」
「敵がそれを上回ってきたのだろうよ」
第一回イベント時、ジークハルトはリッチ・キングと交戦済みでした。その戦いで敵の情報はある程度は手に入っています。
何度殺しても生き返る。
放置しておくと病気を撒いてくる。
ライフドレインをしてくる。
こういった情報がいくつか共有されていました。
ゆえに病魔対策は全員がしてきているはずでした。無論、レメリア王女殿下だってわざわざ安いポーションで対策していたはずがありません。
「おそらく」
レジナルド殿下が全員にヒールしながら言います。
「神器使用によって弱っていたところをピンポイントの病魔が抜けてきたのだろう。この戦い疲労することさえも許されぬらしいな。はっ、趣味の良い戦だこと【レスト・ヒール】」
疲れれば如何に最上の領域とはいえ、免疫能力が落ち込んでしまいます。
リッチ・キングはそれにつけ込むようでした。
レメリア王女殿下は絶えず咳き込みながらも、ふらふらと立ち上がって魔法を放ちます。青ざめた表情。片目の色が変色しているのは、視力を失っているからでしょう。
ついアトリが進言します。
「あとはボクに任せると良い。敵はボクが――」
「――駄目ですわ、アトリさま!」
言葉を途中で打ち消されたアトリは目を丸くします。
なんやかんやレメリア王女殿下はアトリへの好感度が高いです。よもや気を遣った言葉を否定されるとは思わなかったのでしょう。
レメリア王女殿下は片目を閉じながら、もう片方の目でカラミティーどもを睨め付けます。
「これは人類種の存亡を賭した戦い。わたくしは逃げません。この戦いで逃げた先には後悔しかありません。エルフ族に撤退の二文字はございませんわ」
「……そう」
「ですの。かつてのお兄様の苦しみに比べれば、このくらい――!」
アトリが私のほうを見やってきます。
その瞳の揺れ方から、付き合いの長く親密な私には、彼女の気持ちが痛いほど伝わってきます。
「どうやら勘違いしていましたね、私たちは」
「……です。でも」
私たちにとって今回のカラミティー連戦は「勝てそうだから」参加したイベントでした。そこには「レベル上げをしよう」や「強くなろう」「良いアイテムが落ちないかな」「もしかしたら固有スキルや固有称号がもらえるかも」そういう打算とメリットで参加しています。
けれど。
人類種たちにとっては「世界を背負った戦」でした。
第一フィールドがこのまま取られたままでは、いつか絶対にどこかのタイミングで第一フィールドは押し切られて潰されます。
そうなれば、地続きの第二フィールドもただでは済みません。
どころか第一フィールドに防衛力を依存している現状の世界は、もう滅びを待つしかできなくなってしまうのです。
第一フィールドが今まで敵を抑えてくれていたのだから。
これは「なんとなく行われたイベント」などではなく、「全人類種の希望を絶やさぬための聖戦」だったのです。
その事実に今まで気づきませんでした。
消えることを選択したコーバス、死にそうなのに戦う意志を見せるレメリア王女殿下。
二人を見てようやく気づかされました。
アトリが俯きます。
放たれる雰囲気は「羞恥」でした。けれど、白い髪をあげ、天を見つめたアトリの赤い瞳はぐるぐると回っています。
「神様」
「ええ、もうよろしいでしょう。さっさと片付けましょう、本気でね」
「頑張る。です」
アトリはレメリア王女殿下を一瞥しました。
「お前たちの理由が解った。ボクは神様に命じられ、強くなるために戦っていた。理由が負けているとは思わない。神様は絶対だから。でも……お前たちの理由も加わったから」
だから、
「任せれば良い。神は言っている」
アトリが片腕を大地に付け、もう片手で大鎌を構えます。クラウチングスタートの亜種のような構え。白い前髪から除く禍々しい赤瞳。
神器を解放します。
光炎が身に灯り、周囲の温度を一気に上昇させました。
「――ここからは本気」
発動したのは【ヴァナルガンド】と【狂化】それから――【奉納・絶花の舞】
アトリが消えた――とほとんど全員が見間違えたことでしょう。鎖から解き放たれた狼は、時として神さえも食い殺す。
それをご覧に入れましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます