第332話 風雲龍と音楽家の最期

    ▽第三百三十二話 風雲龍と音楽家の最期


 びくり、とアトリが震えました。

 私が新技【クリエイト・ダーク】モード・オーケストラをお披露目している最中のことでした。コーバスの演奏が最高潮を迎えた瞬間、ボソリとアトリが零しました。


「最上の領域」

「ほう」


 どうやらコーバスが最上の領域に到達したようでした。

 しかしながら、己が才能を捧げきったコーバスが最上の領域でいられるのは、おそらくはこの戦い限りのことでしょう。


 コーバスほどの音楽家が「強さ」を願うはずもなく。

 彼は音楽の才能だけで、最強の戦士の一画に辿り着いたのでしょう。この私が花丸をあげても良いと思える結果でした。


 楽園のコーバス。

 じつに気に入りましたよ。


 少なくとも、もうこの曲で私がコーバスに勝てることはありませんね。


 良い曲です。

 音楽は技術ではありません。技術を超越したところにこそ到達点は聳え立っているのです。彼はそれに辿り着き、破壊し、超えていきました。

 オーケストラ演奏を持続しながら、私は風雲龍を睨み付けます。


 先程の殺意や憎悪は失せました。

 ですけれど、だからといって許すわけではありません。ほら、私って邪神なので根に持つタイプなのです。


「片付けましょう、アトリ」

「はい。です」


 アトリ、そしてレメリア王女殿下が並んで歩き始めます。

 風雲龍は激しく抵抗しているようですけれど、頭上を片付けたシンズとシヲや兵士たち、そしてコーバスの音による攻撃で自由に動けません。

 アトリの深紅眼が怪しく輝き、レメリア王女殿下の美しい黄金の頭髪がぶわりと舞い上がります。


「開け【死に至る闇】」

「神器解放。謳え【世界女神の慈愛ザ・ワールド・オブ・カインドネス】」


 風雲龍がブレスを吐こうとして、音で封じ込められました。

 幼女の携える大鎌が莫大な闇、そして光を纏います。世界を喰らうかのような、大口を開けた狼を思わせる死の刃。


 並ぶ王女殿下の足元から数キロにも及ぶ巨大な魔方陣が生み出されていきます。濃密な魔力を纏い、王女殿下がゆっくりと杖を持ち上げていきます。


「風雲龍アルマゲドーン。神器を解放したわたくしは貴方よりも格上です。レベル130、それが今のわたくし。よもや生き残れるだなんて思わないことです」

『!?』

「エルフは自然を愛しますけれど、負けたことはありません」


 レメリア王女殿下の詠唱が完遂されました。


 アトリが叫び、それと同期してレメリア王女殿下も吠えます。


「万死を讃えよ――【死神の鎌ネロ・ラグナロク】!!」

「我は君臨する――【女帝の冷笑エンプレス・バン】!」


 死と破壊が奔流しました。

 目を剥いた風雲龍はそれらに飲み込まれながら、小さく笑いました。


       ▽

 そして。

 ボロボロの中、まだ風雲龍は立っていました。全身から雲形の鱗が剥離し、臓物を零しながら、龍としての威厳を損ないながらも、まだ立っていました。


「大自然を語ったのだ。……そう。簡単には。倒れ、られぬ。【カラミティー・スキルⅡ】」


 ゆっくりと龍が人型に変化していきます。

 これは第二形態という奴でしょう。ごくり、とレメリア王女殿下が生唾を飲み込んで、新たに魔方陣を生み出します。


 敵は瀕死。

 ですけれど、敵のスキルには【逆鱗】がありました。これはHPが下がれば下がるほど、そして特定部位が欠損することを条件に莫大なバフを得るドラゴン特有のスキルです。


 さすがに安易に近づけません。


 これは連戦も無視して【ヴァナルガンド】も【奉納・絶花の舞】も使わねば――とまで考えていた時でした。

 覚束ない足取りでコーバスが前に出ました。

 戦闘の余波によるものでしょう。片腕はほとんどが引き千切れ、足も折れているようでした。それでもコーバスは優雅にさえ見える足取りで……アトリたちの前に立ちます。


 神器を構え、そして。


「いいや、終わりだ」


 コーバスがヴァイオリンを柔らかく、撫でるように一音を奏でます。


「作詞作曲コーバス・ノノ・ロア。最期の曲だ。とくと聴け……【至音しおん】」


 それはなんてことのない一音でした。

 ですけれど、不思議と耳に残る、とても良い――曲でした。


 風雲龍の肉体に亀裂が迸ります。巨大なドラゴンは己が死を悟り、それでもやはり快活に笑い出しました。


「……ふ、ふはははは! 自然は争いが好き。なのだ。だから、人のことは。嫌いに。なれぬ……見事! 面白い! よくぞ壊した! 俺を! 自然を!」

「ああ、そうだな。僕もだよ。僕も――満足だ」


 そう言って風雲龍とコーバスはふっと姿を消しました。まるでこの世には最初から二人の存在なんてなかったかのように。



【ネロがレベルアップしました】

【ネロの闇魔法がレベルアップしました】

【ネロのクリエイト・ダークがレベルアップしました】

【ネロのダーク・オーラがレベルアップしました】

【ネロの再生がレベルアップしました】

【ネロの敏捷強化がレベルアップしました】

【ネロの罠術がレベルアップしました】

【アトリがレベルアップしました】

【アトリの鎌術がレベルアップしました】

【アトリの月光鎌術がレベルアップしました】

【アトリの造園スキルがレベルアップしました】

【アトリの光魔法がレベルアップしました】

【アトリの閃光魔法がレベルアップしました】

【アトリの口寄せがレベルアップしました】

【アトリの詠唱延長がレベルアップしました】

【アトリの天使の因子がレベルアップしました】

【アトリの光属性超強化がレベルアップしました】

【アトリの神偽体術がレベルアップしました】

【シヲがレベルアップしました】

【シヲの擬態がレベルアップしました】

【シヲの奇襲がレベルアップしました】

【シヲの拘束がレベルアップしました】

【シヲの音波がレベルアップしました】

【シヲの鉄壁がレベルアップしました】

【シヲの触手強化がレベルアップしました】

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