第31章 王都奪還戦編

第327話 奪還遠征隊のアトリ

   ▽第三百二十七話 奪還遠征隊のアトリ


 レレレさんによって情報がもたらされました。

 ジークハルトたち第一フィールドの騎士団が本格的に動き出すようでした。現在、第一フィールドはアリスディーネが連れてきたカラミティーボスに悩まされております。


 第一フィールドが食い止めてくれているお陰で、どうにか他のフィールドは被害を受けていません。

 が、もしも第一フィールドが――いえこの際ハッキリと「ジークハルトが敗北したら」と言いましょう――他フィールドも壊滅してしまうことでしょう。


 つまり、今回の作戦はすべてのフィールドが協力せざるを得ません。


「ご協力感謝しよう! 見返りすら求めずに救助に現れてくれるっ! 国同士の友情とはなんと美しいことなのだろうねっ!! あははははははははは!」


 ジークハルトはよく通る声でそう演説しました。

 此度の遠征、カラミティーボス討伐には各国から精鋭が送り込まれております。


 エルフランドからはレメリア王女殿下とその配下たち。


 第三フィールドは飛び出した戦力こそ居ませんが数が多いです。一番マシなのはマリエラのギルドマスターたるアーネストでしょう。彼女は最上の領域一歩手前くらいの実力がありますからね。


 第四フィールドからは謎の炎使い(シンズ)と何故か賢羊族の人々がいらっしゃいます。


 当然ながらもっとも戦力を出しているのは第一フィールドです。

 最上の領域はジークハルト、レジナルド殿下、クルシュー・ズ・ラ・シーなどの面々に加え、《汚濁のステイン》などもやって来ているようでした。


 また、神器持ちのメメやコーバスも戦列に加わっております。

 あとどうでも良いでしょうけれど、新八壊衆改たちもやって来ていますね。今回は何名が入れ替わるのか。


 ずらりと並んだ戦力にアトリが頷きました。


「戦力がすごい。です」

「ですね。如何にカラミティといえど負けることはないでしょう……余程でない限り」

「ボクが一番、頑張る。です……!」


 ここにアトリさえも加わるのです。

 もはや戦力過多とさえ言えそうですけれど、カラミティーボスの実力は底知れません。私たちが倒したフィーエルはズルをして勝ち、精霊王は実質倒せておらず、ウロボロスについてもジークハルトとごり押しで強引に突破しました。


 勝てる、と考えて挑む敵ではありませんね。

 しかも、今回の場合はカラミティーが同時に二体もいるわけですし。私としてはアトリがロストしたら負けです。数が多いことは決して「安全」には繋がりません。


 今回、アトリは鈴の国から兵士を借りてきています。

 五百程度ですけれど、十分な戦力と言えるかもしれません。民はともかくとして兵士は納得してアトリに付いてきている人が大半です。


 まあ、何名かはアトリについて未だに反感を抱いているようですけれど……


 それについては仕方がないでしょう。

 仲間や友人、親子どもの仇に「自分たちに非があるから許そう」なんてよほどの大物の意見です。一般兵に望むことではないでしょう。


 それでも命を賭けて戦場にやって来たのは、愛国心の成す奇跡ですね。

 反感がある者にしても、アトリが「死ね」と命じれば躊躇なく死ぬ人物が選抜されています。


 強者の軍勢が進んでいきました。


       ▽

 集団に襲いかかってくる生物は思ったよりも多いです。

 ドラゴンや一部のキングと呼ばれる個体は、数が多い人類種を餌と勘違いして襲いかかってきますからね。


 上位者は力を温存するために、あえて気配を抑えております。


 その所為で襲っても良しと絶えず敵が現れます。その敵を弾くのが軍勢の役割でした。いざという時、カラミティ相手では数は役に立ちませんからね。

 ただしギミック対策に軍は必須のようですけれど。


「殺す。です」


 暴れ回る最上の領域はアトリのみ。

 私たちは【魂喰らい】がありますし、私も【霊気顕現】のための魂を必要としています。アトリの新スキルたる【強化・魂喰らい】の効果により、なんと私の【霊気顕現】も効率良くチャージされていきます。


 あと数百ほど狩れば発動可能まで持って行けるでしょう。


 ……発動しても一秒も効果が保てませんけれどね。

 今回、よほど追い詰められぬ限り、私がカラミティー相手に【霊気顕現】は放てそうにありませんでした。


 それからも一般兵士と並び、アトリが縦横無尽に殺戮を続けました。全員が幼女の活躍に圧倒されております。鬼神の如き幼女の活躍に喝采があがります。

 これほど頼もしい援軍もいないでしょう。

 ジークハルトと異なり無尽蔵のスタミナを持ち、敵をバッタバッタと切り刻んでいきます。ジークハルトならば剣を一振りして、あらかた殲滅してはい終わりですけれど、アトリは一体ずつを高速で仕留めていきます。


 その分、純粋に実力差を理解し易いようでした。

 英雄性○のようです。


 群衆が湧き立ちます。


「アトリがいる! ジークハルトもいる! 勝てるぞ!」

「王都を奪還するんだああああ!」

「幼女ばんざーい!」

「かわいい♡」

「素敵! 死神幼女ばんざーい!」


 様々な声援と喝采を浴びながら、アトリも調子良さげに敵を屠っていきます。

 そのまま数時間ほどが経過したところ、ジークハルトが宣言しました。


「今日はこの辺りで宿泊とするよっ! 夜は危険だからね! アトリくんが頑張ってくれているお陰で進みも素晴らしい! これは私たちでは中々に難しいところだねっ!」


 アトリは謎に体力が底なしとなっております。

 朝昼夜、と殺し回っていても元気を維持します。風の子とはアトリのこと。ジークハルトですら連戦を一日も続ければスペックが落ちてきます。


「アトリもお休みしましょう」

「休む! です。神様とお話。です」

「食事もありますよ」

「すごい……です」


 ぽてん、とアトリが私の隣に座りました。

 第一フィールドは元王都を中心として、数多の魔物が出現するようになっています。今や一メートル進むために数百の魔物を狩らねば前にいけません。


 某30分生き残る吸血鬼テーマ的なサバイバルゲームのラスト一分くらい、敵が犇めいております。普通にレイドボス級がやって来ますし、手間取っていればカラミティーに奇襲されます。


 いくらジークハルトでも攻略を諦めるレベル。

 ゆえに王都の奪還は未だ成されていないのです。

 引き連れてきた兵士たちが戦闘を開始します。上位者が休む間、敵を入れ替わりで相手をすることがお仕事でした。


「カラミティー・ボスが攻めてくることを考えれば、戦力としてはギリギリかもしれませんね。前回のウロボロスも耐久力特化だったわけですしね」

「火力はなかった。です」

「なかったはずなのに一撃喰らえば終わる状況でしたね。危険な敵ですよ」


 今のアトリはかなり強くなりました。

 それでもカラミティー・ボスの強さは特筆するべきでしょう。しかも、今回のカラミティーについては「とある情報」が足されたことによって脅威度が桁違いです。


 その情報とは。

 ジークハルトの敗北です。


 第一回イベントにてジークハルトも死亡によるロストを経験していました。その相手こそが今回のお相手の一画――邪死霊王・リッチキングです。

 通常のリッチとは異なり、悪辣な固有スキルを有しているとのこと。


 もちろん、あのレイドイベントは最上クラスたった一人での参加でした。


 それでもジークハルトが曲がりなりにも敗北を喫した相手。

 カラミティーボスにも強弱があるのだとしたら、間違いなく、今までのボスよりも強力なことは疑いないでしょう。


 正直なところ、ちょっと怖いくらいです。

 

 ですが、ジークハルトたちが負けてしまった場合、カラミティーボスが他のフィールドにも攻め立ててくることでしょう。そうなった場合、いずれ「ジークハルトなし」でカラミティー連中と戦わねばなりません。

 本当ならば、他のフィールドも全戦力を投入したいくらいでしょう。


 防衛を考えるならばあり得ない選択肢なので実行できなかったようですけれど。


「少し寒くなってきましたね」


 私は毛布をアトリにかけてやり、そっと暗くなった空を見上げます。煌びやかな星々は都会では決して見られぬ豊かさ。砂糖のような甘くて白い輝き。丸い月が私たちを見下ろしていました。

 そのような眩い光景の横では、兵士と魔物たちの命懸けが行われています。

 血と肉と争いの臭い。


 カラミティー戦は近い。

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