第30章 Sランク冒険者の日常編

第315話 崩技・天衣無法

    ▽第三百十一話 崩技・天衣無法


 さて。

 前回の鈴の国との戦いで私たちはいくつかの「得」を手にしました。


 ひとつが「軍との交戦経験」

 ひとつが「軍」

 そして最後、もっとも重要なのが「崩技」の欠片でした。


「それでは検証の時間です」

「頑張る! です! かみさま……」


 ここは【理想のアトリエ】の中。

 城から外れた真白の大地の上、アトリは一人でやる気を漲らせています。


 戦争中、アトリは【奉納・天身の舞】の効果で被弾後に転移しました。その後、彼女の転移先に「物体」が重なり、妙な共同が発生したのですよね。

 アレです。

 この《スゴ》の仕様上、転移先に物体があった時は特殊な計算が始まります。


 物体と転移行使側との耐久度勝負が始まり、負ければ容赦なく重なって部位が破損するのですよね。まあ、アトリは基本的にステータスが高く、耐久度で上回る可能性が高いのですが。


 敵にあえて重なって殺すことも可能でしょう。

 しかし、大鎌で首を吹っ飛ばしたほうが確実です。敵が「耐久力を上昇させる手段」を持っていたら死ぬのはアトリですからね。


 ゆえに「重なる」ことは考えていませんでした。


 だというのに……重なった時、もう一度転移が発動したのです。


「覚悟は良いですね?」

「はい! です」

「【致命回避】もありますし行けますか。蘇生薬も準備しています。では」


 私はアトリに付与していた【闇魔法】アーツ【ダーク・ダーツ】を解放しました。

 このアーツの効果は「ターゲットした相手に強制付着。任意のタイミングで1ダメージを与えられる」というものです。なおノックバックやその他バフは乗りません。


 一見、「なんでそんなアーツ取っちゃったの!?」と正気を疑われることでしょう。

 しかし、このアーツって私的には超強いです。

 というのも、アトリは即殺キャラです。HPを削って殺すのではなく、一撃必殺することが多い。


 つまり、敵の【致命回避】が発動する機会が多いのです。

 HPが1の状態で残るスキル。

 その1を好きなタイミングで問答無用に与えられる【ダーク・ダーツ】は、トドメを刺すアーツとして優秀なのです。


 まあアトリがいるからこそ、私が攻撃能力を捨てているからこその選択肢ですがね。


「【ダーク・ダーツ】」


 アトリに1ダメージを与えます。

 すると、アトリが【天身の舞】の効果で転移します。転移先には石が用意してあり、それに重なった瞬間――ノイズが発生して再度、転移が発動しました。


「ほう」


 再転移した先にも石があります。

 重なった瞬間、またノイズを残して転移しました。その転移先にも石があり……


 結果。


       ▽

「これは無限転移アーツですね」

「ですっ! でも、転移の度にMPを使う……です」

「有限でしたね。とはいえ、これはけっこう狡い性能の崩技になるかもしれません」


 検証の結果、転移先で「アクシデント」があれば、MPを消費してもう一回転移することが可能なようでした。しかも、そのワンモアは何度でも有効です。 

 何よりも強いのは、一瞬だけ動けることでした。

 無敵中に少しだけ行動でき、攻撃することだって可能だったのです。


 つまり、敵の後ろに転移し、斬撃、敵の攻撃を無効化しながら転移。


 というヤバいムーブが可能になった……かもしれません。

 しかも、アトリはMP回復手段が豊富にあります。【再生】もそうですし、【吸魔刃】もありますし、一瞬の猶予でMPポーションを飲んでも良いわけです。

 あと【魂喰らい】でもMP回復が可能でした。


 MP消費を軽減するアーツもありますしね。


 一方的にクソゲーを展開できます。


「もう一度、クールタイムが上がれば検証しましょう」

「です!」


 さらなる検証の末、転移先の物体は【クリエイト・ダーク】の闇でも良いようでした。また、ダメージを完璧なタイミングで与えても発動するらしく、ここでも【ダーク・ダーツ】が役に立つようでした。

 他の攻撃アーツでは間に合いません。

 

「では、この応用のことを【天衣無法】と呼称することにしましょう」

「かっこ良い……ですっ!」

「ギャグですがね……」


 天衣無縫ではなく、あくまでも天衣「無法」です。これはアトリの「天女」っぽい動作である「天衣無縫」と「転移」それから「バグ技であることから無法」を掛けたギャグでした。

 面白くない?

 笑いなさい。


 まあズル技です。

 せめて名前くらい変じゃないと無駄なヘイトを買いますからね。多少の防衛策+思いついた面白なので実戦してみた形です。馬鹿にされても良いですし、気に入られたらそれも良し。


 そもそも崩技自体は「運営が推奨しているプレイ」ですけれど、プレイヤー受けは非常に悪いですからね。これを推奨している運営の頭のおかしさには頭が下がります。


 ジャンルとしては【神偽体術】と同じです。

 あれも「心技体」から来ているっぽいですしね。ルビで誤魔化されませんよ、私は。


 アトリがびゅんびゅん、と連続で転移を繰り返しています。

 その様子を見ながら、私はこほんと咳払い。


「無敵に見える崩技ですけれど、なにか欠点もあるかもしれません。過信せずにいきましょう」

「です! ボクはギースにはならない。です」

「無敵スキルに頼るって負けフラグですものね」


 とはいえ、かなり強力な手札が手に入りました。

 おそらくは転移先で「無敵化した状態で重なる」ことがバグの発生条件なのでしょう。無敵化するのって「メメの神器」級の奇跡ですからね。


 ゲーム側も連発されることを想定していなかったのでしょう。


 私たちは「崩技ずる」を手に入れました。

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