第304話 戦争について

    ▽第三百話 戦争について


 なんと私たちは第三フィールドの王族から宣戦布告を受けたようでした。


 無論、宣戦布告には理由というモノが必要でした。

 その理由についてですけれど、これは冒険者ギルド内でも「え、第三フィールドってこんな怖いお国なの!?」と評判の理由でした。


 曰く「神器を生産できるアトリは、全フィールドに神器を配る責任がある。人類種自体の実力底上げに貢献せぬ戦犯である」とのことでした。

 ちょっとだけ解らなくもありませんが。


 たとえば。

 私たちはジークハルトを知っています。


 ジークハルトVS国家ならば、ジークハルトが勝つ確率が高い、と実感で体験しております。しかしながら、そうでない者ならば「ジークハルトは強いけれど、もっと歩み寄って他国とも連携しないと」という意見が出るでしょう。


 実際のところは、ジークハルトを一国が好き勝手するほうが強いわけですね。


 そうすれば他国はアルビュートに合わせるしかなくなるので。

 

 それと同様。

 アトリ一人に神器を持たせるよりも、国が使ったほうが良いというのは国サイドの正論です。


 しかし、個人こそを尊重するギルドでは「国が個人の武力に集る!?」という意見になるわけですね。

 第三フィールドの王族の意見について、理解もできますし納得もできましょう。


 かといって、渡してあげる! とはなりませんけれど。

 私たちは自分勝手なので。


 神器会談の時のジークハルトを参考にせねばなりません。強者の政治とは、弱者を捻り潰して奪う政治です。

 後の関係とかどうでもよろしい。

 何故ならば、連携よりも簒奪のほうが強い場面ですから。


 奪い尽くせば相手は従うしかなくなります。

 関係がどうしても気になるならば、奪ってから優しくすれば良いわけですね。


 有利を捨て、弱者の顔色を窺うなど……不利になる一方でしょう。

 

 謙遜や優しさが相手に伝わるとは限りませんし、伝わった上で利用されて踏みにじられることもよくあるお話。甘い顔をしても感謝されることも褒められることもなく、つけ込まれるだけです。


 実際、海外の政治ニュースなんかを見ていれば、こういう外交はよく見受けられます。相手側が可愛そうに見えますけれど、今回の私たちは強者側のポジションを維持しましょう。


 ただし、日本人としては「イケイケ政治」怖いですけど。

 海外がやっている=正しいとは思いませんしね。日本には日本の風土や文化、価値観がありますから。


 とはいえ。

 今回は参考にしたほうが「都合がよろしい」のでぐいぐいといきましょう。


「神様。こいつらは敵。ですっ!」

「そうですね、アトリの力を不当に奪おうとしています。……正論ではありますが」

「ボクは神器なんか持っていない。です! 言いがかりしてくる、敵……神様の敵。です! 皆殺し。です! 邪神器は神様に選ばれた、ボクだけのもの……」

「大変そうですねー」


 私たちは方針を定めました。

 それにしても神器会談についてアトリはどう思っているのでしょう。神器を持っていないと選ばれない会議なのですけれど……いえ、まあ、偉大な邪神器持ちだから理を超越して呼ばれたとか思っていそうですね。


 理を超越しました。


       ▽

 方針をさっさと確定させた我々は、一目散に第三フィールドへ向かいました。他の場所で隠れ住んでいても、チマチマと敵を送り込まれるだけです。


 ならば、さっさと本丸を片を付けましょう。


 最悪は王族の暗殺。

 最低でも武力での王城鎮圧でしょうか。


 幸いながら鈴の王の配下はそこまで強くありません。というのも――


「待つが良い、アトリ」


 第三フィールドに入りかけた私たちは、とある軍勢に引き留められました。それはかつて共闘した男。

 モノクルのよく似合う男性。


 アレックス・ルル・エデン……その人でした。


 私たちが魔血龍テスタメントというクソボスに勝利できた要因でもあり、こと軍勢を指揮する者として《スゴ》最強の男性が――軍を率いて私たちの前に立ち塞がります。


 ごくり、とアトリが生唾を飲み込んで、大鎌をそっと構えました。


       ▽

 私たちはアレックス王子に連れられ、鏡の王のもとまで連れられてきました。

 待遇はすこぶるよく、豪奢な椅子に座らされ、アトリは大きな扇でぱたぱたと扇がれていました。


 第三フィールド・混沌都市群メテオアースが、どうして「混沌」と呼ばれるのか。


 その理由については多々ございますけれど、もっとも大きなところは支配国家が三つもあるということでしょう。

 解りやすくリアルで言えば、ひとつの大陸に国家がたくさんあるようなもの。


 第三フィールドは他のフィールドよりも広大。

 そのためにひとつの国では支配が及ばず、三国が三すくみになることによって秩序を維持しているようでした。


 今回、私たちに宣戦布告してきたのは鈴の王。

 そしてアレックス王子が所属しているのは鏡の王のもとです。


 モノクルをはめ直し、アレックスが鼻で笑いました。


「まさか攻撃してこようとするとは思わなかったな」

「ボクの前に立った」

「戦闘狂か? ならば気が合う。余もである」


 スキル構成が補助や指揮に特化しているために解りづらいですけれど、アレックス王子は重度の戦闘狂です。

 知的に見えて暴力大好きキャラでした。


 テスタメントと戦った時も楽しそうに笑っていましたからね。


「先代の鈴の王は偉大で強い王だった。だが、今代の王は駄目だ。仕方がないのだがな」


 先代の鈴の王は勇敢で強かったようです。

 ゆえに優秀で強い臣下をすべて率い、人類種存亡のために魔王へ挑み……全滅したわけですね。優秀で強かったから死んだのです。


 残ったのは弱者たる今代の王のみでした。


 前王は優秀な家臣と親族すべてとともに全滅したのでは無能に聞こえるでしょう。ですけれど、時空凍結が解除される保証がない以上、あそこで全戦力で攻めぬほうこそが愚手と考えたのでしょうね。

 黙って死ぬよりも、勝利に手を伸ばしたわけです。


 負けた以上、そんなに優秀な王だったのならば無能の名さえも受け入れるでしょう。


「前鈴の王は出発の前に、今の王を屠ろうとなされたらしいのだがな。弱者でも逃げ足は速かったらしい。ふっ、だがお陰で楽しい戦の始まりだ」


 ふふ、ふふふふ、とアレックス王子は怪しい笑み浮かべました。

 少なくとも、今回の「宣戦布告」に於いて鏡の王は私たちの味方のようでした。単独で国にかち込みに行く気満々だったので、ちょっとだけ残念な気がしてきます。


 私たちは謁見待ちとなっております。


 あんなに「城、来ちゃいな」という通達をガン無視してきた私たち。

 もしかしたら鏡の王からめっちゃ恨まれているのでは……という気がしてきます。私は敵対されたらガンガンいけますが、下手に味方だと顔色を窺ってしまいます。


 どうやら鏡の王はやり手のようです。

 こんなにもこのゲームで私を追い詰めるだなんて……


 謁見が始まります。

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