第298話 最強最優の参戦

     ▽第二百九十八話 最強最優の参戦


 大亀がロストしてしまいました。

 たったの一打でのロストに対し、まだ空中を飛ばされている田中さんが叫びます。


「ネロさん、ナイス!」

「いえいえ」と私は空中に文字を描きました。


 こんなこともあろうかと。

 私たちが対ウロボロス用に搭乗していたのは、検証班島にしておきました。本島はもっと後ろのほうでセックに守らせています。

 

 まあウロボロスが想定以上だったので、セックでは守り切れませんでしょうが。


 私が【クリエイト・ダーク】で全員を救出します。

 未だウロボロスは狙ってきており、こちらに毒の針を飛ばしてきています。それはウロボロスにとっては針なのでしょうけれど、我々からみれば塔か何かのようでした。


 シヲがモード・クラーケンを起動しました。

 空中で巨大なタコが生まれ、射出された塔を肉体で受け止めます。たった一撃でHPタンクたるシヲが瀕死にされ、しかも毒まで喰らいました。


 ですけれど、シヲもただ者では……ただミミックではなく。


 しっかり固有スキル【相の毒】を発動していました。自身の攻撃で大ダメージを受けるウロボロスですが、まったく堪えた様子がありませんでした。 

 敵の固有スキル【無痛】の効果のようですね。


 しかもダメージを受けたことにより【逆境強化】も発動しているようです。


 これ、同じことをアトリがやれるのですけれど、敵からすればめちゃくちゃ恐ろしいですね。頑張って大ダメージを与えても、むしろバフもらったとばかりにノータイムで襲いかかってきます。


「ロゥロ」


 アトリがロゥロを呼び出し、ウロボロスを打撃させました。

 痛みは受けずとも、物理的な干渉は受けます。ロゥロはウロボロスの巨大すぎる目玉を殴りつけました。


 ロゥロの物理火力でさえ、目玉を潰すことはできませんでした。


 硬い石でも殴ったかのような反発。

 しかし、ロゥロはまったく動揺することもなく、連打を続けております。僅かに生まれた隙を使い、私は今度は施設特化島に乗り込みました。


 そこではセックの配下たちがせっせと砲弾をぶっぱなしていました。


「今、どれくらい?」

 アトリが問えばヒルダが答えました。


「田中さまによれば七パーセント。しかも再生して……今六パーセントです」


 砲弾も撃ち込んで、ロゥロが目玉を殴りまくり、それでも【再生】速度が勝っているようでした。


「む」


 とアトリがややムカついたように呻きます。

 メメがむくれ幼女の背中をばんばん、と叩きました。


「気にしたらあかんでアトリ。むしろ、パーティ単位でHP特化カラミティーに7パーセントもダメージを与えてる。うちらは化けもんや。とくにあんたな」

「でも、倒せてない……」

「いいや。ちゃうやろ。これはカラミティーレイドや。それにアトリやったら解るんちゃうの?」

「……!」


 アトリが振り返りました。

 ゆっくりと水平線の彼方より、五十を超える島が現れました。おそらく、最前線の島が五十の島を従えているのでしょう。


 相当な実力者たちの島のようですが……


 アトリが忌々しげに呟きました。


「ジークハルトが来た」


       ▽

 ジークハルトたち騎士団クランが追いついてきました。

 この遅参については、彼らが【スピード】や【施設】振りではなかったが故でしょう。あとは島集めを楽しんでいたのも手伝っていそうです。


 けれど、最強最優の到着について思考する余裕はありませんでした。


『――』

「神様。シヲが下から来るって言ってる。……ですっ!」


 リジェネで回復したシヲが、おそらくは【音波】スキルを使ってウロボロスを探知しました。狙いは島の真下からの攻撃です。


 この島はもう駄目ですね。


「アトリ、全員を回収してください。セックのアンデッドはあれをお願いします」

「っ! です」


 アトリが全員を回収します。

 私が【クリエイト・ダーク】を使い、ワイヤーで全員を持ちやすいように絡め取ります。


 そして離脱。

 

 本島に戻ります。

 残ったセックのアンデッドが【施設特化】島にある、赤いスイッチを押下しました。


「喰らえや、蛇! 自爆や!」


 わーきゃー叫ぶメメに合わせて、【施設】のひとつである自爆スイッチが押されました。大亀が号泣しながら爆発しました。

 かわいそ。

 ウロボロスもさすがに吹き飛び、海上に肉体を打ち上げました。


 しかし、ほとんどノータイムで顔を持ち上げます。


「やはり痛み無効は厄介ですね」


 ウロボロスは大ダメージが直撃したというのに、無反応で顔面を私たちに向かわせています。未だに私たちは空中の上。

 仮に本島に着地できたとして、このままでは島が丸呑みにされます。


 それぞれが迎撃に動こうとする、寸前でした。

 耳を劈くような爆音。ソレに続き、聞こえてくるのは、


『ぐおおおおおおおおおおおおおお!』


 ――ウロボロスの巨体が後方にぶっ飛ばされていました。

 まるで海中から鎖でも引きずり出すかのように、ウロボロスの果てのない巨体が海中から引き出されていきます。

 空中に残ったのはウロボロスの顔面ではなく、一人の瓶底眼鏡の青年です。


 イベントを随分と謳歌しているらしく、ハーフパンツ型の水着とアロハを纏ったその男は。


「アトリくんですだか。カラミティーと遊ぶとは最近のお子様は……昔と変わらないですだな。恐ろしいことですだよ」


 ゆっくり。

 空中で瓶底眼鏡の青年が眼鏡を外します。

 黄金の美しき頭髪が、一気に鮮血色に染め上げられました。白い歯を輝かせて、最強最優――ジークハルト・ファンズムが笑います。


「王命であるっ! アルビュートはラッセル・アルティマの謀反を事前に暴き、始末したアトリ殿に深く感謝をしているよっ! ゆえに我が王――ゼスタ・キール・フォース・アルビュートより仰せつかった」


 刀剣型の神器が輝き、黒い雲をなぎ払い、天気を晴天にねじ変えました。

 光り輝く太陽光の元。

 最強たるジークハルトが断言する。


「『このイベントの勝ちをアトリにくれてやれ』――と! 最強たる私が約束しようか、アトリくん! このイベントはキミたちの勝利に終わる」

『ずおおおおおおおおおおおおん!!』

「おいおいっ! この私に頭を差し出すとは面白い水ミミズ……えっ、竜なのかい、キミ!? それはすまなかったっ!」


 ウロボロスがダメージを感じさせない様子で、ジークハルトへ噛みつこうとしていました。いえ、厳密には丸呑みにしようとしています。

 それに対し、ジークハルトは己が左腕を差し出し、巨竜の牙に触れました。


「其方の武勇、まこと我が英雄譚に相応しいっ! ゆえに綴ろう! 書を! 剣を! 我が名に相応しき喝采の舞台を! ――固有スキル【綴られる傲慢の英雄譚ヒロイック・エピック・アーカイブス】」


 ジークハルトの固有スキルが起動しました。

 掲示板によれば、その固有スキルの発動条件はジークハルトの左手で頭に触れながら、一連の詠唱を唱えられることです。


 転移しました。


 転移させられた場所は巨大な教会でした。

 室内中には無数の書が舞い、剣が踊り、小鳥たちが美しい音色を歌いあげています。さながら天国じみた教会のただ中。

 

 海がいきなり教会に塗り替えられました。


 地面に横たわるウロボロスは身じろぎひとつしません。

 いえ、私たち観客も動くことができませんでした。この固有スキルの効果は「技を命中させるまで敵と味方を完全に拘束する」ことです。


 格闘ゲームやソーシャルゲームで、必殺技中、敵が動かないアレを生み出す力です。


 何よりもメリットとして挙げられるのが、この場でジークハルトは味方にダメージを与えられません。すなわち、彼が全力を出せるということ。

 赤髪の美青年が爽やかな咆哮をあげます。


「神器真解。我が声に応えよ! 【世界女神の勤勉ザ・ワールド・オブ・デリジェンス】」


 近未来的なデザインの剣がノイズを迸らせます。

 やがて装甲が剥がれ落ち、その下からは錆びだらけの黒剣が現れました。みすぼらしいはずの刀剣が神々しき雰囲気をまといます。


 爆発するような美しさ。


「我が覇道の前に倒れよ――【究極竜滅覇断真剣改メの斬スラッシュ】」


 光が振り下ろされました。

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