第297話 海との戦闘
▽第二百九十七話 海との戦闘
身じろぎしただけのウロボロスによって、大半のクラン島が転覆させられてしまいました。本体の大亀は生きており、どうにか水中で姿勢を戻します。
ですが、上に乗っていた人々は波に揉まれ、ロストしてしまったようですね……
メメが盾を応援団のぽんぽんのように愛らしく振り回して苦言を吐きます。
「せめて陸で戦わせろや! こーぎこーぎ!」
「言っている場合かな。来てしまうよ!」
ウロボロスは私たちを視認しています。
他の島々など眼中になく、ただひとつ私たちの島こそが脅威だと認定しているのでした。奈落のように広大な口内に、深海色の光りが込められていきます。
あれはドラゴン特有の技。
ドラゴン代表のゼロテープさんが喝采をあげます。
「ドラゴンブレス!」
「【
竜撃が迸りました。
海水が蒸発。衝撃だけで近くの島が吹き飛び、爆音で鼓膜がイカれそうになります。現にゼロテープさんは気絶してしまったようですね。
ですが。
攻撃自体はメメの神器が防御してくれたようです。息吹は盾に触れた瞬間、綺麗さっぱり消え失せました。
「っ、腕痺れるわあ! もうあかん! 攻めるしかないで」
「ボクが行く」
アトリが私を見やります。
もうそれしかないようですね。【クリエイト・ダーク】でたくさんの踏み台を用意したその時でした。
私たちの島。
その四方から大津波が迫ってきていました。これは【大海魔法】の【タイダルウェイブ】でしょう。ただし、同時に四つも発動されるとは。
威力も桁違い。
某宇宙を旅する、時間と戦う映画で登場した波の如く。
波ではなく、壁が迫ってきているかのような錯覚。
「っ! ふたつ消す――開け【死に至る闇】」
アトリが詠唱を始めれば、すでに他の面々も動き出しておりました。シヲ、ミャー、田中さんたちが南側を。
東側はメメが。
そして北と西はアトリが打ち消すつもりのようでした。
「万死を讃えよ! 【魔断・
刃を【魔断刃】状態で放つ【
水しぶき。
壁そのものといった波がかき消えた向こうで、ウロボロスが噛みつきの姿勢で向かってきていました。
怪物の目と死神幼女の目が合います。
天高くから斜め下の我々の島へ、上から齧り付くつもりのようです。
「アトリ!」
「【ヴァナルガンド】」
狼耳を生やしたアトリが島を飛び立ちます。
もちろん、初手にて奥の手【奉納・絶花の舞】も発現させております。【狂化】さえも併用したソレで大口を開けたウロボロスと対峙します。
もはや牙の並びが森にさえ見えます。
大蛇に比べれば豆粒のような幼女が――その大口に飛び込んでいきました。
『ずおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
「だまれ」
ウロボロスの下顎を突き上げるように、アトリの大鎌が全力で振るわれました。
敵は巨大ではありますしカラミティーですが、その敏捷値はまったく高くありません。反応すら許さず、アトリがウロボロスの顎をかち上げました。
『――!』
ウロボロスの長い肉体が空に打ち上げられました。
それでもなお、肉体の大半は海に沈んでいますけれど――関係なく。
神偽体術【奉納・閃耀の舞】
一瞬でウロボロスの額上に立ったアトリは、その刃を黄金に輝かせました。付与しているのは【閃光魔法】の【アタック・ライトニング】です。
次の一撃の攻撃速度に対するバフ。
速度系バフの効果を二倍化する【奉納・絶花の舞】でさらに速くなっております。さらに発動するのは【
縦回転を行うアーツです。
加速化されたことにより、アトリは一瞬で数十の斬撃を頭部に叩き込みました。
攻撃の余波で生み出された風の刃により、海が細切れにされていきます。
さすがのウロボロスも鱗を割られ、頭部から滝のように出血していますね。これはかなり効いたのではないでしょうか。
そう思う私にチャットが飛んできます。
田中‥三パーセント
「そんなに低いのですか!?」
どうやら今の一連の攻撃によってウロボロスは3パーセントのダメージを受けたようです。たった3パーセント。
アトリの【ヴァナルガンド】も【奉納・絶花の舞】も長期戦は不可能です。
だというのに3パーセント。
さすがはカラミティー・レイド・ボスと言ったところでしょう。攻撃面も恐ろしいですけれど、もっとも恐ろしいのはその耐久度。
「全員! 攻撃! 敵には【再生】もあるよっ!」
叫んだヒルダが魔法を放っていきます。
続くようにミャーも特殊な矢を放ち、羅刹○さんも狙う時間が惜しいとでも言うように魔法を連射していきました。
ゼロテープさんがブレスを放ちます。
田中さんは【鑑定】を使いつつ、複雑な魔法を練り上げていました。
「っ! 相手の【再生】速度のほうが早いわっ!? 周囲の島も手伝いなさいよ!」
まだゴールへの道は塞がれたままです。
どれだけウロボロスが長いのかは計りきれません。私たちが倒した、あるいは動かした隙に進もうという島がたくさんあります。
そういう勝利に拘るプレイスタイルも嫌いではありませんけれど。
一番好きなのは、やはり一緒に戦ってくれる野良島の面々ですね。
いくつかの島は攻撃に参加してくれています。
砲撃が撃ち込まれていますが……それでもまだ足りません。
「毒は効きますけれど、HP残量に対して雀の涙ですね……」
アトリはウロボロスの顔に何度も攻撃を叩き込んでいます。モアイへの攻撃のように、止まることのない凄まじい連撃。
どうやらウロボロスは痛みを覚えないようです。
ですが、無防備に攻撃を食らってくれるわけではないようでした。
ウロボロスが動き出します。
その顔面が目指す場所は海の底。顔面に降り立ったアトリを水に沈めるつもりのようでした。
すぐにシヲが動き出します。
シヲの触手がアトリを鷲掴みにして、私たちの島まで帰還させました。その一瞬後、ウロボロスが巨大な飛沫をあげて水底に顔面を沈めました。
魔法の【タイダルウェイブ】を使ったのではなく、ただ潜水しただけで津波が起きます。
「こんなん、どないせえちゅう――」
メメが言おうとした瞬間、私たちの島がぶっ飛ばされていました。
ウロボロスが横腹を鞭のように使い、大亀にぶつかってきたようでした。大空を舞う大亀――甲羅が砕け、足がグチャグチャにねじれています。
すでに目は虚ろ。
大亀のHPが一撃で消滅してしまったようでした。
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