第296話 ウロボロス

    ▽第二百九十六話 ウロボロス


 私たちが辿り着いたのは、巨大な壁の前でした。

 巨大、と言ってもサイズ感は正確に伝わらないことでしょう。まず高さについては小山ほど。近づく前から「なんだあれ」と困惑しておりました。


 その長さについては果てが見えません。

 海を横断し、大きく二つに割っているかのようでした。


 そして最後に形について。

 海底から半分だけ覗くトンネルのようなモノでした。が、それの素材は見るからに鱗……すなわちドラゴンか、蛇か、です。


「海のど、どらご、ん」


 ミニドラゴンのゼロテープさんが唖然と呟きました。


「バハ、ムー、ト?」

「皆様。田中さまからの【鑑定】結果が出ましたよ。考え得る限り最悪だと思うが……敵の名はウロボロス。レベルは――120、カラミティーだ」


 どうやらバハムートではなく、ウロボロスだったようですね。バハムートはクジラか蛇らしいので惜しかったです。

 ウロボロス。

 私たちが知るモノと同様でしたら、巨大な蛇でした。


 長すぎて頭部が尾を咥えているという蛇です。長いあまり尾を咥える理由がいまいち見えてきませんけれど、もしかしたら自分の身体を口に入れてサイズを誤魔化しているとか?

 ともかく、カラミティーであることは確定のようでした。


 田中さんが敵のステータスを貼り付けてきます。


名前【ウロボロス】 性別【無】

 レベル【120】 種族【魔海蛇】 ジョブ【ワールドイーター】

 魔法【大海魔法100】

 生産【養殖100】

 スキル【蛇術100】【噛術100】

    【海龍の因子100】【再生100】

    【鱗強化】【海強化】

    【逆境強化】

    【カラミティー・スキルLV1】

    【カラミティー・スキルLV2】

 ステータス 攻撃【800】 魔法攻撃【500】

       耐久【800】 敏捷【300】

       幸運【450】

称号【循環する蛇】

固有スキル【不死の理】【無痛】

     【大海の加護】


 これがカラミティー・ボスウロボロスのステータスでした。注目すべきステータスはHPについてでしょう。

 シヲさえも小物に感じられるほどの、馬鹿げたHPでした。


 これまでの敵とは単位が一桁も二桁も変わっています。


 これに【再生】までついているのはチートでしょう。

 肉体が大きいので部位再生のMP負担は多いでしょうけれど、MPだってかなり底なしに見えます。


 目の前の壁を見やり、ヒルダが肩を優雅に竦めました。


「逃げないかい? 続々と島が集まってきている。ここでカラミティー・フィールドを生み出されてはかなわないよ」


 そう言うヒルダに向け、隣の田中さんが精霊体で何かを告げました。

 それを聞いたヒルダは顔色をさぁーと青くして背筋を正しました。

 正すまでもなく、いつもヒルダの姿勢は綺麗ですがね。優雅な彼女にしては珍しく引き攣った顔。


「田中さまの推測なのだがね、どうやら我々が進んできたこの海自体が……カラミティー・フィールドだと見るべきだそうだ」

「う、嘘やん……」

「事実だと思う。女神ザ・ワールドは人類に優しいが、無条件に甘やかしてくれるわけではないからね。あれはフェアなんだ。逃げようと思えば逃げられる敵……そんな問題をこのようなイベントで据えるとは思わないよ」

「まあ死んでもええっていう大盤振る舞いしてくれてるしな……」


 だとすれば逃走は不可能。

 あるいは今まで辿ってきたルートを真逆まで進むべきでしょう。カラミティー・フィールドやレイド・フィールドなどは使用者の資質によって変化します。


 カラミティー・フィールドはたしか脱出できますしね。

 狙われなければ。


「とりあえず、だ」

 ヒルダが苦笑と共に言います。

「戦利品を【アイテム・ボックス】に収納していこう。この島が無事にイベントを終えられるとは思えないからね」


 大慌てで私たちはアイテムを詰め込んでいきました。


       ▽

 それは唐突に開始されました。

 ある程度、私たちはウロボロスから距離を取っていましたけれど、それでもその開始にいては目の当たりにしてしまいます。


 ゴールを遮るように存在するウロボロス。


 それに焦れたクラン連合が一斉に砲撃を開始したのです。その島の数は百を超えました。そのどれもが大砲を設置していたり、何らかの長距離攻撃の手段があるようでした。

 大砲の火力はわりと高めです。

 その大連撃が開始され、ウロボロスの鱗がいくつも剥がれ落ちていきます。


 島々は誰もが喝采をあげています。

 たぶん「行ける!」だとか「勝てる!」だとか叫んでいるのでしょう。


 直後。


 ウロボロスが身じろぎをしました。ただゆっくり動くだけで大波が島を飲み込み、多くの無力なNPCたちをロストさせていきます。

 山が動くどころの話ではないかもしれません。

 島が動く、さえも異なり。もはや海自体が稼働するかの如く。


「ま、拙いんじゃないのかい! 距離を取るかい!?」


 ヒルダがダメ元で魔法防壁を張ります。

 凄まじい豪雨。黒に塗られた雲からは無数の雷鳴。たっぷり時間をかけてウロボロスが私たちを見ました。


 それは蛇。


 恐ろしいことにただの蛇にしか見えません。ただし、注釈として……その頭は巨大。島たる大亀をぺろりと一飲みしてしまえるほどの。


『!!!!』

「うわあああああ! うるさいわ、旦那はん!? なに、メガロフォビア? ってなに!? 耳元で悲鳴あげんといてくれる!?」


 カラミティー・レイドが始まるようでした。



――――――――

 作者からの注釈です

 私はこのお話のステータスにHPとMPの数値を書いてきませんでした。

 理由は小説として演出し辛くなるからですね。HPの残量やMP残量が書いてあったら、それに正確に従う必要が出てきて、小説よりもゲームでやったほうが良いものになってしまうので。


 ケレン味優先でした。

 ただ今回、お話的にHPに触れたのに書いてないのは不自然だと思い注釈でした。

 鑑定などでHPやMPは見えている設定ですが、小説としては表記していない、ということですね。

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