第295話 レイドボス相当

   ▽第二百九十五話 レイドボス相当


 我々は合計で三つの島を持ちます。

 鹵獲したひとつは戦闘で突撃させたため、大破――大亀が号泣しながら海に沈んでいきました――してしまいました。


 追いついてきた検証班島とも合流します。

 三島の中では私たちの島が一番速いです。が、じつのところ、そこまでの差は現れないようでした。


 検証班島は、食料施設で増産される食料のすべてが大亀への経験値に回されており、今や速度も私たちに追いつきつつあります。


 施設特化島については【スピード】0振りながら、適宜、ブースト施設を使うことによって追いついてきます。島の住民が絶滅しているからこそ許されるムーブですね。

 私たちは食料調達に止まる必要があり、結局、進める距離は同程度のようです。


 三つの島を持った私たちは、より快適な海の旅を行えています。

 とくに重要なのはレーダー機能でして、これがあることにより他島への襲撃が簡単になりました。


「新しい獲物が見つかったみたいっすよー」


 ミャーが早速、弓を担いで現れました。接着させた施設特化島に乗り込んでいきます。あとはステルスで接近。

 秘密裏に乗り込んで、一人ずつを狩ってくるようでした。


 セックが作ったフルーツジュースを片手にメメが言います。


「うちも行こうかな。暇やし。アトリはどうするん?」

「ボクはスキルレベルを上げる」

「熱心やねー。まあそれがメインのイベントやけど」


 このイベントはかなり美味しいイベントとなっております。じっくりたっぷりスキルレベル上げに集中することができますからね。

 その他、戦利品も悪くありませんし。

 本当は私も【闇魔法】や【罠術】などを上げたいところ。


 けれど、私はアトリとは違って単純作業を続けられる根気がございません。

 ログアウトしたならば、アトリが使ってくれて捗るのですけれど。放置による育成は知り合いだと陽村のプレイスタイルです。彼女は基本的にはログインせずにニーネラバに自分の育成を任せているようでした。


 たまーにログインした時はニーネラバに稽古を付け、スキル振りなどをしてから帰っていくとのこと。

 プレイ時間にして数分。

 それも《スゴ》のひとつのプレイスタイルですね。

 さて今日も島がひとつ沈むようでした……大海原の戦闘は静かに終焉します。ステルスとミャーのコンボによって砲撃戦にもなりませんね。


       ▽

 レーダーにはたくさんの島が映っています。

 かなりの島が合流してきたようですね。まるでバトロワ系のFPSの最終円付近のような、そのような様相が呈されつつあります。


 まあ、全員がひとつのゴールに向かっているわけで。


 こうなることは必然のようでした。

 ただし、ひとつだけ違和感がございます。かなり近づいているはずの島々がまったく交戦に発展しないのです。これではまるで……


 私の思考を一歩先取りして、田中さんが発言を引き継いでくれました。


「これ。チーミングね。べつに悪いことではないし、こんなイベントで勝つためには最善でしょうけれど」


 野良クランが上手いこと結託し、私たちやジークハルトの島を破壊するつもりのようです。私たち自身が強かろうとも、大亀を破壊すれば勝ててしまうのが今回のイベントですからね。チーミングは勝利には最適の手段でしょう。


 メメががっくりと肩を落としました。


「うへー、これ、うちらレイドボスみたいな扱い受けてへん? この島、砲台もない言うのに」

「今は静かなようだけれど、数が揃えば襲いかかってくるでしょうね。どうする、みんな? 先に攻めるか、それとも回答をさき伸ばすか」


 田中さんの言い方では一択のように聞こえます。

 が、しかし、実際に私たちが勝利を目指すならば取れる選択肢はひとつだけなのでしょう。頷く私を見て、アトリが大きく頷きました。


「神は言っている」


 アトリが島の大群に向けて大鎌を向けました。


「ぜんぶ潰す。です」


 こうして私たちはレイドボスとして、数多の島に単独で戦いを挑むことに決めました。


       ▽

 敵は十五の島の大連合。

 対するは私たち独立同盟島。


「じゃ、狩ってくるっす」


 施設特化島に乗ったミャーが敵に奇襲をかけていきます。

 基本、セックが運用するアンデッドに操縦は任せており、ミャーと羅刹○さんは戦闘員としての参加です。


 島はリゾートのように木々が生い茂っています。

 そこはつまりミャーの独壇場。的確に敵の数を暗殺で減らしていき、囲まれれば羅刹○さんが暴れるようでした。


 あとは隠密して自島に帰還。

 敵がミャーを探し回っているうちに、別の島へ襲撃をかけているようでした。


 アトリは単独で乗り込んでいきます。

 私が【クリエイト・ダーク】で道を作り、そこを一気に駆け抜けていくシステムです。敵次第で撃墜されかねませんが、その時はその時で対処することにしました。


 島を暴れ回り、あっという間に島を占拠していきます。

 奪った島についてはセックがアンデッドを派遣。それを操作して他の島攻めに使います。大砲があるならば砲撃させて、なければぶつけたり、本島を守備させる盾に使います。


 別島から声が上がります。

 どうやら声を大きくする固有スキル持ちのようでした。


「本島だけ狙え! このままだと落とされるだけだっ!」


 一斉に本島への攻撃が始まりました。

 大群たちは砲台を本島に向け、轟音とともに斉射してきます。


「神器発動や!」

「……これ、ずっとは保たないよ!」

 

 メメが神器を使って防ぎ、それから田中さんやヒルダが防壁を築きます。すべてはたたき落とせず、大亀にいくつか被弾してしまっております。

 ここに来て【耐久】振りが活きてきました。

 被弾もなんのその。


 大亀はスピードを落とすことなく、ぐんぐんと進行を続けます。


 アトリが新しく乗り込んだ島にて、悲鳴に似た怒声があがっております。


「あの島耐久振りだっ!」

「くそくそくそ! あんな島放置して先へ行けば良かったんだっ!」


 実際、私たちのグループは最前列というわけではありません。

 速度全振りの船には追いつけませんからね。とはいえ、速度全振りの船には船で問題があり、そのほとんどは途上で力尽きたようですけれど。


 必死に攻撃を続けるレイド参加者たち。


 ですが、占拠した島が牙を剥きます。

 すでに戦力は逆転しており、十五あった敵島のうち七つが私たちの手の中にあります。砲弾をぶち込み、島自体で体当たりを繰り返します。


 大味な海戦。

 砲弾で空気が振動し、大亀の絶叫が幾重にも響き渡ります。空では暢気にカモメ型魔物が鳴き、一方で波は大荒れ。嵐の如く。


羅刹○‥敵島が次々に逃げてくけど。追うかい?

田中‥向こうも解ってるわ。後ろ向きに逃げられてるから追うとロスになる

羅刹○‥じゃあ、この島の指揮者を暗殺したら戻るよ


 どうやら敵レイドチームは諦めたようです。

 逃げて行く背中に砲弾をぶち込み、ゼロテープさんが【顕現】してブレス攻撃を仕掛けていきます。追撃で二つほど島を落とし、今回の疑似レイドバトル(私たちがボス)は終着しました。


 個人レベルでの戦力差がありましたね。

 とはいえ、じつのところギリギリの戦いではありました。島が落とされれば簡単に負けてしまうので、個人が強くても難しいイベントだったのかもしれませんね。


 個人で島を落とせるレベルが二人居て、防御特化のメメが居たからこその勝利でした。

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