第292話 襲撃者鎮圧

     ▽第二百九十二話 襲撃者鎮圧


 どうやら襲撃してきたクランがあるようです。

 襲撃についての苦言はありません。このイベントで推奨された行為ですし、運営が認めている遊び方に文句を言うのは意味がありませんからね。


 撃退したことに文句を言われたら、それには文句を付けますけれど。


 おそらくセックが迎撃。

 死者を出しながらも離脱しようとしたところ、どうやら羅刹○さんたちの帰還と出くわしたようですね。


 壮絶なPK合戦(状況的に、こちら側からの一方的な惨殺)が行われた、という経緯でしょう。


 唯一、敵NPCで生き残ったのはエラというNPCでした。

 敏捷や隠密に優れたビルドをしており、中々に仕留めることができなかったようですね。結局、ミャーが足を撃ち抜いて動きを止めましたけれど。


 殺さずに生け捕ったのは、情報を得るためでした。


 田中さんが「拷問用の魔法がある」と提案してくれました。

 が、私が【邪眼】を使ったほうが安全でしたね。さっさと洗脳して情報を搾り取ろうとしたところ、プレイヤーが【顕現】して抗議してきました。


「知らなかった! 知らなかったんだよ、《独立同盟》があんたたちだって! 知ってたら手を出さなかった! 信じてくれっ!」


 どどんというプレイヤーのようです。

 有名な荒しや暴言プレイヤーですね。ただし、アトリには好意的な姿勢を見せるので、好きでも嫌いでもないプレイヤーでした。


「全部、全部情報を吐くから殺すのだけは辞めてくれ!」

「ちょ、ちょっとどどんくん? それは情報屋としては良くないんじゃないかな? 少なくとも取り返しがつくイベントでそれは良くないよ」

「でも、死ぬのは嫌だろ! なに考えてんだよ!」

「いやいや。ここは命よりも信頼を取るべき場面だって……いやまあぼくも拷問されるのは嫌だけどさ。そのための自害薬もあるしね……もう盗られたけど」


 田中さんも自害については想定していたようです。

 さっさと自害薬の存在を【鑑定】で見つけて、その薬を奪い取った後のようでした。はあ、と大きな溜息を吐く田中さん。


「(笑)の部下を殺すのは嫌だけど、こっちも真剣に遊んでるから。情報を吐かないならロストさせるだけ。吐きますか、どどんさん」

「う、う……こ、ここまでしなくても良くないか? だって、あくまでも緩いイベントだろ!? こんなことまでしてやるゲームかよ!?」

「はあ」


 田中さんがエラの頭部を魔法で撃ち抜きました。

 どどんさんは抗議の声をあげながら消えていきました。残ったエラの死体にセックが【リアニメイト】を行使します。


 アンデッドと化したエラがお辞儀をしました。


「あ、う、ああ」

「完璧なわたくしの命令です。貴女たちの島はどちらにありますか?」

「あ、あっち……いいいい」


 エラが自分の島へ向けて歩き出しました。


       ▽

 どうやらエラたちの島は【施設】に特化した島だったようですね。

 エラから情報を聞き出した田中さんは上機嫌でした。何度も頷いてから、食料施設から大量の食料をくすねます。


「味はすこぶる悪いけれど、亀の餌にはちょうど良いわね。一日の生産量は【施設】レベルに依存するといったところかしら?」

「レーダー室を見てきました。周囲の情報がすべて解りましたよ。デジカメで撮影もしてきました」

「ありがとうヒルダ」


 和やかに田中さんはカメラを受け取り、周辺のデータの確認を始めました。それから、思い出したように言います。


「今、ひとつ魔法を上級にできるのだけど【リアニメイト】良いわね。情報の収集が楽そう……でも【常闇魔法】はねえ」


 セックは召喚系に特化した【常闇魔法】使いです。

 田中さんたちの戦い方的に召喚系は不要でしょう。セックのように生産系スキルをたくさん持っていなければ、召喚系の魔法は雑魚ですからね。


 精々、【下位アンデッド召喚】で盾が作れるくらいでしょうか。


 普通に攻撃魔法もあります。

 が、それなら別の魔法アーツのほうが強力でしょう。


 そもそもパーティープレイを前提にした田中さんたちは、自前で前衛を用意するアーツに意味がありませんから。


「いずれすべて上位にするつもりだけれど、本当に悩むわ。まあゲームなんて悩んでビルドを考えているうちが一番楽しいものだけれど」


 うんうん、と田中さんはヒルダとともに頷き合いました。

 このペアも仲が良さそうですね。まあ、このゲームはNPCと不仲でやっていけるほど簡単ではありませんけれど。


 と。

 そこで羅刹○さんが【顕現】しました。

 あまりもの巨体なため、声を小さく澄ませようと寝仏の姿勢です。水着姿のために妙にえっちなグラビアみたいですね。


「田中さんよ、あたしたちの正体がよりにもよって検証班に露呈したわけだが。良いのかい?」

「想定内よ。どうせいずれバレるもの。隠れることを前提にした所為で動きにくくなったら意味がないでしょう?」


 我々はゲヘナ討伐時、色々と細工を要しましたからね。

 正体ばれはわりと問題になることが懸念されます。ソロが主題の私やゼロテープさん、孤独なPKKの羅刹○さんは構いません。


 ですけれど、田中さんはよりにもよって野良パーティ専門のプレイヤー。


 しかも、あの時ゲヘナ討伐のために疑似レイドを募ったのも彼女です。包囲に意図的に穴を作り、そこに自分たちを配置したわけですね。

 ふふ、と田中さんが気にした風もなく微笑しました。


「あれは私の『誘導』という武器を使って手繰り寄せた結果。それを理解しない人とは組む価値はないし、理解する人とは仲良くプレイできるわ。恨まれて攻撃されたとしても、そんなの野良パーティならあって当然の可能性だしね」

「まあ、まとめ役は大変だ。メリット、見返りを求めるのなんて当たり前ってことかい。あたしは恩恵にあずかった立場だし文句はないけどね」

「恩恵がなかったとしても、貴女なら文句なんて言わないでしょう?」

「体験しないことにはなんとも言えないね」


 ともあれ、もう田中さんが名前を出して「掲示板で人を集う」ことはできないでしょう。利用されると解っていて乗り込んで来る人は存外に少ないものです。

 しかし、切り札の使いどころとして、ゲヘナ戦は悪い判断ではなかったでしょう。

 リアルマネーで一千万。それから固有スキルなどの報酬も得られたでしょうから。


 羅刹○さんは満足したらしく【顕現】を解きました。


       ▽

 エラの島から得られたモノは多かったです。

 まず、動植物が生存していましたから、それをこちらへ移しました。植物についてもアトリの【造園】があるので定着は早いです。


 大亀への餌として、大量の食料もゲットです。

 施設【食料生産場】は味は悪いものの量だけはありますからね。


 最後に田中さんが仕掛けたのは監視カメラでした。

 曰く、「この島と私たちの島には速度差があるわ。連れて行くことはできない。けれど、セックの【リアニメイト】は行使できる。レーダーを使わせてもらいましょう」とのこと。


 所属クランが壊滅しても大亀は沈まないようですからね。

 略奪した島自体の扱いも考えねばなりません。田中さんが取り出したのは監視カメラとソーラー発電機でした。


 あの旅行鞄、まったくサバイバルっぽいグッズが入っていなかったようですね。


「これで監視しながらなら、セックも常にエラに指示を出せるでしょ? レーダー室に置いておくからよろしく」

「完璧な運用をしましょう」


 あとはエラのアンデッドに命じ、島を運用してもらいます。

 なるべく我々のあとをついてきて、そのレーダー機能を活かしてもらいましょう。食料生産場からの食料を島に与え続け、ゆくゆくは速度差をなくすことが当面の目標でした。


「思ったよりも競争性の高いイベントですね」


 他の島を襲うメリットが思ったよりも高そうでした。今回は相手が【施設】特化だったというのも大きそうですけれど。


 略奪品を改めて大亀に投与していきます。がぶりがぶりと餌を貪り、その味の善し悪しなど感じさせずにあっさり完食。


 レベルが上がります。

 私たちは【耐久】にポイントを振ることにしました。アトリに関してもそうですけれど、私は防御系が好きのようですね。


 どんどん【耐久】に分配していきます。

 なお、宝島や略奪品の分配についてはイベント後に持ち越しました。今選ぶよりも、最後に選んだほうが公平にほしいものが手に入りますからね。


 もめないためには報酬の分配で妥協と遠慮をしてはいけません。


 私たちは出航しました。


 

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