第289話 宝島
▽第二百八十九話 宝島
すでに島での旅が始まって二週間が経過しました。
食料の調達については、時折、大亀を止めて釣りや素潜りに挑戦しています。アトリとミャーが協力して、巨大なドラゴン(見た目はナマズ)を討伐してお肉がたくさん手に入りました。
魚肉ですけれど。
今のところ、進行速度については未知数です。モアイ像によるランキングはございますけれど、それはレースの進捗については無関係でした。
狩りの時、それから嵐の時にしか止まっていないのですけれど。
あれから大亀にも餌をやってレベルアップさせています。
今あげているのは【スピード】と【耐久】でした。
他の要素については捨てています。こういう時、ネットで他の参加者のことを調べられないのは大変ですね。
とくにネット中毒たるゼロテープさんは「帰りたいよおー!」と泣きそうになり、メメに背中をとんとんと叩かれてあやされていました。
私もしんどいです。
現代人からネットを奪い取るなんて……運営には人の心がありません。
不幸中の幸いながら、あらかじめ課金で手にしていた小説、漫画、動画などは持ち込めております。それで娯楽中枢を満たすしかありません。
ぎゃくにミャーなどは楽しそう。
空飛ぶ鳥魔物を矢で射止め、率先して海に飛び込んで獲物を獲ってきます。
あと私が気色悪い虫に襲われていた時(非魔物)、一瞬で助けてくれました。危うく惚れてしまうところでしたね。
人気PKKの名は伊達ではないようです。
ともかく二週間。
島旅を続けてきた私たちの前に、初めて別の景色が見えてきます。海一面だった視界の果て、巨大な……島が見えてきました。
アトリが呟きます。
「宝島……シヲがたくさんいる」
「いませんよ、たぶん」
「いたらボクが頑張る。です。神様をシヲから守るのはボクの使命……!」
他の面々も久しぶりに見た別の物体に興奮気味です。わりと船旅ってキツいですからね。私は船での旅も何度か経験しましたし、クルーザーにも音楽家として乗船したことがあります。
ああいった世界一周用のクルーザーが豪華なのって、如何に暇を潰せるかを追求してのことらしいですよ。
「乗り込むで!」
「お、おー!」とメメコンビが腕を振り上げていました。
▽
黄金に輝く島。
それが宝島のようでした。私よりも高レベルの【鑑定】を持つ田中さんによれば、とくに島名などはないとのこと。
「ちょっとしたダンジョンのようですね。セック、魔物を何名か派遣して様子を見てきてください」
「かしこまりました、マスター。完璧な偵察をこなしましょう。べつに宝を根こそぎ持ち帰っても構いませんね?」
「構います。罠とかで宝が消えたらどうするのですか」
「完璧なわたくしが失敗することはないのですが……?」
「だめです」
「けちですね、マスター」
しょぼん、と肩を落としながらもセックは大量のアンデッドを召喚しました。禍々しき軍勢たちが宝島に入り込みました。
一時間ほどの偵察が終わりました。
結果、島内にはたくさんの魔物が配置されているとのこと。あまり強い魔物はいないらしく、宝箱の数も思ったよりも多いようです。
罠もあるので気をつけていきましょう。
といっても、すでに完璧な斥候たちが多くを踏み抜く形で解除していますがね。
セックはふてくされたかのように、完璧に頬を膨らませておりました。
シヲを先頭に配置し、中央にメメを置きました。
シヲは肉体で罠を解除、前方からの攻撃を防ぎます。中衛のメメはどこからの攻撃も対応できるように、です。
前方からシヲ、ヒルダ、メメ、ミャー、アトリの順番で進んでいきます。
全員、水着姿。
ちょっと島を舐めているように思われますが、性能的にはすべてガチです。
なお、セックについては島に置いてきました。戦力外ということではなく、島に何かあったときに対応できるようにですね。
そしてロゥロは島でスコアを稼いでいます。
島内で風が巻き起こります。それはアトリが動いたことによるもの。無数の魔物が切り刻まれ、その屍をたくさん晒し上げます。
また、ミャーも素早く矢を放って、何体もの敵を仕留めます。
「大したことない」
アトリが狼の首を両断しながら呟きます。飛んだ返り血を回避せず、代わりに【閃光魔法】アーツのシールド・ライトニングで防ぎました。
このアーツは最近になって取得しました。
防御系のアーツですね。今までのアトリは被弾上等、回避イケイケでした。
が、今は【奉納・絶花の舞】という択が出現しましたから。
何もせずともダメージを受けていくので、掠りダメージさえもらいたくない場面ができました。こういう時、シールド系の魔法は便利でしょう。
もっとも、防御、支援、回復に特化した【神聖魔法】ではないので、そこまで防御性能が高いわけではありませんがね。
このアーツは発動が一瞬。
それから効果時間も一瞬。ただし、消費MPが少なく、効果もわりと高めです。
死体の山を築いた後、その死体を田中さんが確認しました。
「これは駄目ね。ぜんぶ重度の毒だわ。とても食べられない」
「ボクは【キュア】を使える」
「なんでそんなヒーラーみたいなアーツが……そうね、貴女【聖女】だったわね、死神じゃなく」
「ボクは神様の唯一の使徒」
私は【アイテム・ボックス】に余裕があるので、少しだけ死体を持ち帰りましょう。【錬金術】の素材になることでしょうから。
その後も探索が続きますけれど、即座に敵を見つけて倒します。
やがて宝箱を発見しました。
私たちが周囲を警戒し、ミャーが宝箱に接近します。彼女はやや緊張の面持ちです。
「あたし、べつに【解錠】スキルは持ってないんすよね。ほとんど外技っすよ。失敗してもお許しってことで」
がちゃり、と針金で宝箱を開けました。
中身は……小ぶりな剣でした。
「お!」とメメが隊列を崩して駆け寄ります。
「これ、うちがもろてええ!?」
全員が頷きます。
この中の誰も【剣術】スキルを持っていませんからね。ぶんぶん、とメメは試すように剣を振るいました。
「うーん、思ったよりもずっしりしてる。良い。性能的にはシヲに作ってもらった剣のほうが高いけど、結局、金属のほうが切れ味がええからね。あとこの剣は――」
剣が紅く輝き出します。
それから斬撃を放った瞬間、紅い筋が空間に残ります。
「HP吸収効果があるらしいわ。まあそんなに被ダメージがある盾職ってなんやのやけど」
相性は悪いようですけれど、武器の選択肢が増える分には良いでしょう。
そもそもタンク職には最適の剣のはずでした。メメの技量が並外れているから要らないだけで、本来の盾職ならば喉どころか全身から手が伸びるほどに欲しいでしょう。
さらに進んでいきます。
もはや魔物は障害にさえならず。宝箱を次々と開けていきます。宝島の名に相応しく、宝箱だらけとなっております。
「あ」
五個目の宝箱にあたり、ミャーがさっと後ろに飛びました。
「ミミックっす!」
「【コクマーの一翼】解放。【シャイニング・スラッシュ】!」
アトリがノータイムで全力魔法を放ちました。
島ごと破壊する勢いの魔法斬撃。大地と木々をなぎ払い、ついでに無数の魔物たちを殺していきます。
それでも。
それでもミミックは生き延びていました。かなりダメージを負ったようですけどね。
ミャーが矢を放ちます。
それからヒルダが【火】と【風】の合成魔法を撃ち込みます。その火力は中々に圧巻でしたが、一番に特筆すべきは拘束能力でした。
ミミックが大ダメージを受けながら、動きを炎の竜巻に捕らわれます。
「【へヴン・ライトニング】」
それがトドメでした。
▽
かなり良い島ですね。
すでに宝箱よりたくさんのアイテムを手にしています。どれもイベント産アイテムとして、一級品ではありませんけれど、面白い性質を持ったモノが多いです。
これは戻ったあとの分配が楽しみですよ。
そうして私たちが二十個目! の宝箱を前にした時でした。
感覚の鋭いミャーが首を傾げました。アトリが警戒したように大鎌を構えます。
「またミミック?」
「違うっす。これ……地面がおかしくないっすか?」
「……? ――! 沈んでる」
「ですよね! ですよね!?」
よく解りませんが「何か」が発生しているようでした。アトリが困ったように何かを言いたげにします。が、それを引き取ってミャーが簡潔に説明します。
「この島、沈没するみたいですね」
「あと何分くらい持ちそうなの?」と【顕現】した田中さん。
「解んないっす。加速することも考えられるっすからね。ペースが変わらないなら一時間くらいの猶予はあるかな」
「では三十分ほど探索を続けましょう。タイムリミットがあるイベントは報酬も美味しいでしょうし、沈んだとしてもネロさんの【クリエイト・ダーク】で泳がずに戻れるわ。できるわよね、ネロさん」
視線で問いを受けます。
私が頷くよりも先にアトリが頷きました。
「神に不可能はない」
本当に不可能がなかったのならば島の沈没を止めるんですよね。しかしながら、全員用の足場を作ることは不可能どころか容易いです。
今の私は【霊気顕現】を得るついでに、闇の制御性能も高まっておりますからね。
ミャーが頷きました。
猫耳がぴこぴこと警戒したように動きます。
「じゃあ宝箱を開けましょう」
中身はアクセサリーでした。
メメが手を合わせて喜びましたけれど、メメ向けの装備ではありませんでしたね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます