第28章 クランイベント編
第285話 クランイベント
▽第二百八十五話 クランイベント
ヘレンたちとアトリが会話しているあいだ、私はやって来たお知らせに目を通していました。どうやら《スゴ》初のクランイベントが発生するようでした。
かなり遅かったですね。
せっかくクランシステムがあるというのに、このゲームはクランチャットができるくらいの機能しかありませんでした。
いえ、イベント時、優先的にクランメンバーがチームに分けられるのでしたっけ?
あの八壊衆が同時に存在したのも、それが要因だった気がします。とはいえ、すでにあの集団は数名がロストしており、もう顔も名前も解りませんけれど。
あんな戦い方です。
それはいつかロストする運命でしょう。
『ザ・ワールドからのお知らせだよお。
みんなみんな、聞いて聞いて? 最近は新人の精霊さんもやって来たことだし、始めたばっかりの人でも一気に成長できるイベントを用意したんだあ。
ザ・ワールドったら気が利いちゃうね。
偉いね? 偉い偉いしても良いよ?
今回のイベントはクラン単位での受付しちゃう!
あ、コミュニケーション嫌って子は個人で団を颯爽と率いちゃおう! しんどいけどね。あ、数人いないと作れないね……ソロ団解禁しちゃおう!
イベント参加券以上のメリットないけどね!
イベント内容は無人島でサバイバルレースだあ!
おっきな亀の上にクランごとに島が用意されてるよん。みんなはそれに乗ってサバイバルをしながら、亀さんに指示を出して大海原をレースをするの!
道中、お宝島があったり、他の島からの妨害もありありのアリ!
楽しいね?
またクランイベント中は完全に時間を止めちゃう! たくさんスキルレベルを上げちゃおう。上手くやれば一ヶ月単位でスキル上げできちゃうの!
スキルレベルが上げやすい環境だから、これを機に上位勢との差を埋め埋め
あ、ロストしてもイベント終了と同時になかったことになるからよろしくっ!
でも物を亡くしたら帰ってこないよ? あとあと島の上にあるものは全部、最後に持って帰っても良いからね……島が残っていたらの話だよん!』
とのこと。
要するにクランで参加するスキルレベル上げイベントのようでした。
中々に吉報かもしれませんね。
そろそろアトリもスキルレベル100が見えてきています。しかも、固有スキル【
リアル時間消費ゼロで、一気にスキルレベルが上げられるのならば歓迎しましょう。
「しかし、一ヶ月以上のサバイバルですか……ちょっと辛そうですね」
私は疲れ切った現代人らしく、スローライフへの仄かな憧れがあります。かといって、虫は嫌いですし、ネットないのは無理ですし、お風呂には毎日ゆっくり入りたい……スローライフは動画で見る勢です。
最近はアトリの野宿で癒やされているくらいです。
焚き火って楽しいですよね。ノルウェーで覇権なのがよく解ります。
すでに【独立同盟】のメンバー、田中さんから連絡が来ています。どのような準備が必要なのか、という相談ですね。
少なくとも全員が【アイテム・ボックス】スキルを持っています。
ですけれど、おそらくサバイバルイベントなので内容物は持ち込めないでしょう。また、私の【理想のアトリエ】も禁止されるはず。
されなければとんだヌルゲーです。
このゲームの理不尽難易度に鑑みて許されないでしょう。
あとザ・ワールドからのアナウンスの最後が不穏でした。
水中戦の備えもするべきでしょうか。
「やることが多そうですねー」
しかしながら、オンラインゲームに於いてコンテンツが多いことは悪いことではございません。頑張ってアトリを強くしましょうか。
▽
クランイベントの告知からリアル時間で一週間。
本日はいよいよ初のクランイベントとなっております。島での旅ということで、アトリにはサングラスを掛けさせております。
ステータスの関係上、あまり問題はありませんが赤目に紫外線は天敵ですしね。
大海原の日光はあまり赤目にはよろしくありません。重ねて言いますけれど、ステータスが高いのでそこまで関係ありませんがね。ついでに私の精霊体にもサングラスが掛けられています。
すみません。
少しだけ心がリゾート気分なのです。リアルで無人島なんて行きたくありませんが……ここはゲームの世界。気持ち悪い虫どもはすべてアトリが踏みつぶします。
私は女、子どもには積極的に頼る姿勢を崩しません。
『第一回クランイベント【どきっ 真夏の無人島サバイバルレース】へ参加しますか?』
私が【クリエイト・ダーク】で「はい」を押しました。すると、途端に意識が光に飲まれていき、反射的に瞼を閉じてしまいます。
目を開けた時、そこには――南国が広がっていました。
「おお」
ヤシの木、それに生った――スイカ。
スイカ?
ともかく、いかにも南国でござい、という風情の素晴らしい島景色が広がっています。海は穏やかながらに綺麗で、青く、ほんのりと磯の香りがしてきます。
「海! ですっ!」
「水がしょっぱいのですよ」
「料理できる。です」
「料理はできない。です。ね」
アトリが抱えていた荷物を下ろしました。
これはクランメンバーの田中さんの発案です。このゲームは「理論が通っていたらおおらか」です。【アイテム・ボックス】の中身は持ち込めずとも、手荷物は許されるかもしれない、との考えでした。
それが許されねば武器は、装備はどうなるのだ、ということですからね。
そして試した結果、無事に許されました。
なんとセックも荷物扱いで持ってこれました。あくまでも道具ですからね、ゴーレムって。なお、持ち込めたことに対してセックは誇らしげです。
「わたくしが完璧で便利な道具であると証明できました」
とのこと。
ご満悦。今はシヲから【木工】スキルを借り、早速のように住居の建設し始めております。
なお、荷物は思ったより持ってこられませんでした。
セックを持ってくる都合上、バランスが悪かったですからね。
「シヲとセックに建設は任せましょう。周囲に木はたくさんありますしね」
「です! 神様とお散歩。楽しい。です」
「まだ散歩は始まっていませんよ。首輪でもしますか、アトリ?」
「! する! ですっ!」
「……冗談ですよ」
「…………解った。です」
幼女に首輪をして散歩させるほど、私の大人人生は終わっておりません。これから他のメンバーもやって来ることを加味すれば絶対に避けねばならぬ事態でした。
うっかり悪戯心を発動している場合ではありませんね。
アトリと島をぐるりと散策します。広々とした印象がありましたが、歩いてみれば思ったよりも広くありません。精々、直径が百メートル少々でしょうか。
木々の間を駆け回るのは、ウサギや猪といった野生生物。
わりと自然も豊かそうでなにより。
スキル【鑑定】をしていけば、動物たちが無害であることが判明します。毒などもありません。要するに食料候補です。
なんてことをしていると、他のメンバーも続々とやって来ました。
大量の荷物を持ち込んだメメ。
隣では小型ドラゴンのゼロテープさんが、ぷるぷると震えながら少量の荷物を抱えています。
旅行鞄ひとつのヒルダ。
それから【顕現】していない田中さん。
最後に現れたのが何も持たぬミャーでした。
羅刹○さんも【顕現】していませんね。
メメが唇を尖らせました。
「なんなん、みんな思うたよりも荷物少ないやん。なんや恥ずかしいわ、いっぱい持ち込んだの」
「ふふ、すまないね。純魔法使いたる私では持ち込める量に限りがある。そして、もしも抱えての持ち込みができなかった場合に備え、常識的な荷物量に抑えたのさ」
「あたしは狩人っすからね。サバイバルに弓と矢、ナイフ以外持ち込むなんてあり得ないですよ。相方の○さんにも無理言って同じにしてもらったっす」
ヒルダが笑って旅行鞄を見せて、ミャーはさっさと島を確かめにいきました。
このメンバーにて無人島サバイバルレースは開始されます。
遠くで鯨が潮を噴き、それに伴い心地よい潮風がやって来ます。もしかしたら、このイベントめっちゃ楽しいのでは?
そう予感されました。
私たちはまだ知らなかったのです。
この無人島サバイバルレースにて待ち受ける――カラミティ・ボスのことについて。
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