第283話 最上中位相当
▽第二百八十三話 最上中位相当
ラッセル殺害後、どうやらアトリはレベルが1つ上昇したようですね。久しぶりのレベルアップとなりました。
後半のレベルアップの遅さはオンラインゲームあるあるですね。
しかもアトリよりも格上の敵ってそこまで多くありません。
レベルアップ頻度が減るのは残念です。
まあ、サービスが長く続いてくれるほうが嬉しいので、私としてはゆっくり上等だったりもします。
「神様! どうだった。です。か……?」
「かなり強くなりましたね、アトリ。驚きました」
「神様が驚いた……です。か……っです! ボクは、強い、です……!」
ぎゅっ、とアトリが精霊体を抱き締めてきます。
潰されそうですけれど、潰されるほどではない、不思議な圧力でした。すでにアトリとの付き合いは長く、彼女もずいぶんと成長してきているのかもしれません。
今は珍しく褒めてモードのようです。
私は天邪鬼なので褒めて褒めてという雰囲気を出されると褒めたくなくなります……けれど、相当に頑張ったようですし、ちょっとくらいは褒めておかねば大人としての沽券に関わりますね。
「頑張りましたね」
「もっと。もっと。もっと頑張る。です……神様に相応しいのはボク」
「……しばらくはスキルレベル上げですかね」
掲示板にてジークハルトや一部の最上の領域のステータスは暴露されています。強くて有名なことの数少ないデメリットのひとつですね。
その中にてジークハルトやクルシュー・ズ・ラ・シーも「成長形固有スキル」がありました。
今にして思えば、特殊な統合進化スキルこそが「成長型固有スキル」の正体なのでしょう。実質、スキル枠が固有スキル枠に移動した状態ですね。
ちょっとだけ気になるのがラッセルの言葉でした。
『も、もはや……これまで。ここまでとは。こ、ここまで、とは。最上の領域、その中でも中位、いや上位にすら届くか……!』
そうこの台詞です。
今のアトリと交戦し、それで「中位」という言葉が出たのです。もちろん、ジークハルトやユークリスは神器争奪戦の時、決して本領は発揮していませんでした。
それを行えば、付近にあった譲渡が破壊されてしまいますからね。
あの時、もし仮に【奉納・絶花の舞】が使えたとしても、アトリに使わせることはなかったことでしょう。それにしても……これで中位かもしれない、というのは戦慄ですね。
いえ、伸びしろがまだまだあると楽しみにすべきなのかもしれません。
▽
我々はヘレンたちを伴い、無事にリリーマインド領に帰還しました。
なお、ゴースもお仕事を終えたようですね。魔教の幹部格――副助祭を討ったようです。魔教の独特なシステムとして知られているのが、役職に就いているのは一人ずつだけということが挙げられます。
つまり、司教や司祭などが一人しかいないわけですね。
かなり戦力を潰せてきています。
オウジンは自分で動くタイプではありません。彼自体を殺せずとも、手駒を減らすことによってグッと勢いを壊すことが可能でしょう。
「お世話になりました、アトリ先生」
「また先生から学ぶ機会がいただけて光栄です」
桃髪縦ロールとヘレンが深く頭を下げました。貴族教育により彼女たちは易々と下げる頭を持ちません。
貴族の面倒なところですよね。
下の者に頭を下げれば、偉い人に頭を下げた時、価値のないものをお出しした扱いになります。
それでも頭を下げたのは、アトリが格上だからでしょう。
単純に好感度による礼節もあるかと思いますけれど。
すっかりリリーマインド領は平穏を取り戻しております。壊された家屋は修繕され、屋敷もシヲが張り切って改善しました。
世界樹素材こそありませんが立派なものです。
建築スキル持ちが後でこっそり手直しすればより良いでしょう。
壊したのは我々ですが、修繕費用はもらえました。
ちなみにおかっぱ頭は一足早く、戦闘学院に帰還しています。彼はヘレンたちほど賢くありませんから、勉強に置いて行かれないために頑張っているのでしょう。
わりと騎士姿も似合ってきたかもしれませんね。
ですが、私の知る限りこの世界、騎士ってジークハルト以外裏切り者しかいないような……
会話の間隙。
すかさずサクラが提案してきました。
「アトリ先生、この後はどうするのですか? よろしければ当家でおもてなしさせていただきますよ。たくさんのお食事があります」
「……ボクは修業に殉じる。神様の期待に応えねばいけないのだ」
「え、まだまだ上を期待されているんですか? もうあんなにも強いのに」
「神様に相応しくなる。お前たちも頑張ると良い。ボクの生徒だから」
「さ、最上レベルの頑張りって……非戦闘員なのに」
一番、生徒たちの中で活躍しておいてよく言いますよね。
もちろん、サクラのサポートはなくても勝てたでしょう。しかしながら、彼女のサポートがあったからこそ楽勝だったところもございます。
格下相手に苦戦しても得られるモノって悲しみしかありませんしね。
「何か良い狩り場はあるの?」
アトリが問います。
すると、サクラが顎に手を当てて唸りました。アトリクラスがレベル上げできる場所は限られていることでしょう。
ジークハルトたちがカンストしている以上、狩り場があることは確定でしょうけれど。
「アトリ先生クラス……正直、国や冒険者ギルドから大きな依頼を受け続けたほうが効率が良いと思います。経験値が報酬のクエストもありますからね」
「解った」
「お役に立てず申し訳ございません」
「構わない。国からの依頼があるって知れた」
頷いたアトリ。
それから、と言ってアトリは二つの武器を取り出しました。シヲが屋敷を修繕している間、素材を取りに行ってセックに作らせた武器でした。
「お前とあのおかっぱ頭にあげる」
桃髪縦ロールには毒を生成する仕込み刀。
おかっぱ頭には魔法の弾速が上昇する杖を渡すことにしました。
「え、いただけません! お金もこれから必要になりますからね。非戦闘員の私が武器を買う余裕はしばらくありませんし……」
「じゃあ貸しておく。お前が死ぬと仕事が減るから」
「ふふ……アトリ先生って思ったよりも気遣いしてくれますよね。ありがとうございます。受け取らねば生徒の恥ですわね」
大人しく仕込み刀を受け取る桃髪縦ロール。小さな声で「刀スキル……」と呟いております。
ヘレンも部下のための武器を受け取りました。
にっこりと微笑んで「また恩が増えましたね。お返しする日が待ち遠しいわ」と言いました。ちょっと怖いくらいの素直さです。
「それにしてもひとつ違和感です」
「? 何ですか、神様?」
「ヘレンたちは魔教から狙われています。かなり危険なわけですね。護衛はついていたとはいえ……どうしてヘレンがリリーマインド領に?」
「神が問うている。どうしてヘレンがリリーマインド領に?」
それは、と桃髪縦ロールが言い掛けてハッとした顔をしました。
「お父様がヘレンさんを帰省に誘ったら、と……おそらく、魔教から襲撃されることを察知して、ヘレンさんを使って勝とうとしましたね、これ。抜け目のないお父様……」
「貸しひとつね」
「昔、ヘレンさんを誘拐するために洗脳までされたのですけど」
「それ、悪いのは魔教よ」
「解りました、貸しひとつです。仲良くやっていきましょう、ルトゥール殿」
少女二人が握手を交わした時でした。
私の視界に通知が入ります。そこには「ザ・ワールド」の文字。文章を要約すれば、このようなことが書いてありました。
「第一回クランイベントのお知らせ」
―――――――――
ちなみに今までに登場した最上の領域は、
▽ジークハルトが最上位。
▽ユークリスが上位。
▽クルシュー・ズ・ラ・シーが下位(能力が異質なので最上位よりも役立つことがある)
▽ヨヨが中位(ライフストックが万全時で良い夜の日時。ヨヨの強さの本質は吸血鬼の軍勢を率いることなので実際の脅威度はまた別問題)
▽レジナルドが下位(ヒーラーなので戦闘力的には)
▽ダドリー(アルカブスの皇帝)が上位
▽シンズが中位(データを収集時)
▽アトリが中位(現在)
▽ゴースが最下位
▽神器使用状態のレメリアが上位
▽非使用時のレメリアが下位
▽ゴースが始末した魔教の最上が中位
▽人類種時のゲヘナが最上位
▽あとじつはアシュリーが中位
となっております。
とはいえ、実際に殺し合った場合、勝敗はわりと状況次第なところがあります。
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