第269話 武器の進化
▽第二百六十九話 武器の進化
今回、そもそも私たちは神器会談に参加するつもりはありませんでした。元部下たるペニーの要請があったので、仕方がなく出席したわけですね。
では、元々はなにがしたかったのか。
それは第二フィールドへ赴き、ゴーシュに神器を強化してもらうことです。
幸い神器会談にゴーシュが出席していました。
私たちは料金を支払い、それから素材を渡して神器を強化してもらいました。
いえ、正確には神器の元となった武器――大鎌【死を満たす影】を強化してもらったわけです。
アトリが選択したのは、武器の耐久度上昇でした。
再生できるとはいえ、戦闘中に武器を砕かれては困ります。実際、魔王との戦闘であっさりと破壊された前科があります。
純粋に武器のレベルを上げることも可能になったようですね。
スキル【鑑定】のレベルを上げれば、神器の元となった武器も見ることが可能です。
大鎌【死を満たす影】 レア度【ユニーク】
レベル【20】 ライフストック【16】
魔法攻撃【150】 耐久【5000】
スキル【復元】【魂喰らい】
これがベースとなりました。
耐久度が爆上がりです。もはや盾として使っても問題ないレベル。
まあカット効果がないので盾には劣りますけどね。
このベース性能は神器化しても適応されているようです。基本、神器はすべてのステータスがレベル+5されます。
それに加えて武器本来の性能が影響するようです。
またレベル上限を解放したので、ストック可能な魂の数も増えました。とはいえ、まだヨヨの固有スキルレベルには遙かに及びませんけれど。
「もっと。もっと強くなる。です」
「やる気ですね」
「ボクは負けない。……です」
今回の神器争奪戦。
アトリは何度も敗北を積み重ねました。最上の領域に至って以来、かなり順調に進んできましたけれど。
まだまだ高みははあるようです。
最強への道は未だに遠く。
けれど、同時にまだ強化の道も多く残されています。とりあえずの目標としましては――武器の上限解放と【
「まあ時間はあります。楽しんでいきましょう」
「うん。はいです! 神様と一緒。楽しい。です」
アトリは頬に朱色を差して、上目遣いに囁きました。その言葉に大きく頷いた私は告げます。
「では、そろそろ私はログアウトしますね」
「っ!?」
アトリはシステム的に強化されています。
けれど、私はとくにそういうのないので、寝る時は寝なくてはなりません。私はゲーム中毒ですし、アトリも気に入っていますけれど、同じくらいにお布団中毒でもあります。
アトリと過ごす時間よりも、マットレスと過ごす時間のほうが多いですからね。ということで私はマットレスの元ヘ向かいました。
▽
音もなく巨大なドラゴンが倒れ伏しました。
六つの足のある、巨大な龍種。天まで届くような翼は、ぐったりとカーペットのように垂れ下がっています。
特徴的だった恐ろしい顔は、すでに地面を転がっていました。
「おわり」
大鎌を一振り。
血を払ったアトリは静かに大鎌を肩に背負いました。
固有スキルを新取得して以来、初の実戦でしたけれど凄まじいですね。
アーツ【奉納・閃耀の舞】を使い、一瞬でドラゴンの頭上を取り、ノータイムで斬撃。首をアッサリと落としてしまいました。
クールタイムがあるので連発はできませんけれど、即殺能力を持つアトリとの相性は抜群です。
今、私たちは第一フィールドに滞在しています。
目的はひとつ。
魔教の数を減らそう……というキャンペーンに参加しているからです。悲しいことに魔教教祖オウジン・アストラナハトは手が付けられません。
未来予知者を敵に回せば勝ちようがありませんからね。
近いところでは吉良さんの上位互換を敵に回したようなものです。逆に言えば予知能力者でもない吉良さんの性能がおかしい面は否定しませんが。あの人の情報処理能力は異能力の領域でしょう。
私が知り合いに恐怖を覚えていますれば、前方から喝采の拍手が送られました。
「いやあビビるぜ、アトリ。その小っこさで素晴らしい動きだ」
「当然。ボクは神様の唯一の使徒」
「宗教家はべつに武力が強いわけじゃないと思うけどな」
私たちと同行しているのは、最上の領域が一画――【筆頭魔道士】のゴース・ロシューです。黒髪黒目のスーツ姿の青年。
根明の雰囲気で微笑みます。
「さて課題は見えたな、アトリ! お前に不足しているのは超越性だ」
「超越性?」
「つまりスキルやアーツ以外の手札が少ないってことだ」
「外技は習得している」
「世の中にはまだまだ秘密があるんだぜ?」
そう言ってゴースが挙げた例は、シンズの【炎魔】とヨヨの【
そして【
「これらの特徴として、そのような名前のスキルもアーツも存在しないことがあげられる。つまり既存のスキルやアーツを応用使用し、自分好みに使っているってわけだな」
「自分で技を作る?」
「その通りだ。厳密には自分用にアーツやスキルをカスタムすること。それが重要だ。俺は純粋な【風魔法】使いだが風を使って色々やる。かつてとある哲学者はアルケーを空気と定義した。また別の哲学者はゆらぎと定義したとされた……まあそれらは正解じゃない。が、理論には至っている。それらを俺は取り込んで利用して、風で万物を支配させてもらっているわけだな」
「?」
完全にアトリが置いて行かれています。
苦笑したゴースが、自身の頭上に巨大な炎球を生み出しました。
「俺はこれを風で作ってる」
続いて雨が降り出します。
氷の壁が生み出され、頭上を飛んでいる魔物がバタバタと「毒」で墜落してきます。
「俺ほどじゃなくてもアーツやスキルのカスタムは可能ってことだな」
「む」
「ま、お前は創造力は低そうだ。ゆっくりと学んでいけ? 考えるべきことはひとつ。神の想定をひとつでも超越すること。まずは崩技でも覚えるんだな」
「どうやって覚えるの?」
「それを教えるのが俺のお仕事であり、覚えるのがアトリのお仕事だな」
これこそがゴースと同行している理由でした。
魔教の教祖たるオウジン。その予知はゴースとヘレンには通じないようなのです。また、彼らに関わったことにより変化した人物も、その変化箇所が予知からズレることが判明しました。
すなわち、ゴースから教えを得られれば、しばらくオウジンの予知を無効化できるわけです。
まだまだ伸びしろのあるアトリが抜擢されました。
オウジン対策は必須。
強くなれる上に敵への対策にもなります。いくら私がゴースを苦手と思っていても、受けるメリットが高すぎました。
風を纏ってゴースが優雅に笑います。
「まず戦闘についてだ。俺と同行している間、通常のアーツの使用は禁止だ。使うなら応用しろ。ああ、一人で練習しているときは別だぞ? 【
「解った」
「不自由から自由は見出される。精々、苦労するんだな!」
こうして縛りプレイをしながら、アトリはゴースと共に魔教退治を始めました。
私はログアウトです。だってゴースのことが苦手ですからね、私。
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