第251話 シンズ戦
▽第二百五十一話 シンズ戦
シンズのメイスが、アトリの小さな頭をぶん殴りました。
さながら石榴のように、脳の詰まった頭部が弾け飛びます。本来でしたらロスト確定の場面ですけれど、アトリは瞬間前に【ケセドの一翼】を解放していました。
翼が一枚消える代わり、アトリは「クリティカルダメージが通常ダメージ」に変換されています。
頭部を失いながら、アトリは平然と大鎌を振りました。
シンズの腹を深く切り裂き、足元の炎魔は【奉納・戦打の舞】で蹴り付けました。炎魔が地上数十階から落ちていく中、アトリは【再生】で頭部を復活させました。
「【コクマーの一翼】解放」
放つは【シャイニング・スラッシュ】でした。
空を飛ぶシンズでしたが、斬られた反動で動きが鈍っています。そこに大規模の範囲攻撃を放ちました。
「――っ!」
「爆破」
それでもシンズならば回避できたのでしょう。
翼が大きく揺れた瞬間、アトリは刃に付与していた【光爆刃】を発動しました。斬り裂かれた箇所が小さく爆破され、さすがのシンズも体勢を崩します。
「死ね」
「あら野蛮」
首を両断する軌道で、シンズに【シャイニング・スラッシュ】が迫ります。私の【クリエイト・ダーク】が追い打ちをかけるように、シンズの肉体を絡め取りました。
シンズのメイスが赤く輝きました。
「【ハード・プロミネンス】」
メイスが爆発しました。
炎を凝縮する能力でもあったのでしょう。その破壊力は【コクマーの一翼】と【殺生刃】を限界まで併用したアトリの【シャイニング・スラッシュ】を凌駕しました。
炎熱の余波でアトリの真白の髪がばさばさとはためきます。
戦況反転。
追い詰めていたはずのアトリへ向けて、【シャイニング・スラッシュ】を相殺してなお勢いの止まらぬ炎熱が迫りました。
回避も許されず、防御なんて不可能な範囲殲滅攻撃です。
アトリの翼がひとつ消失し、新たにアーツが起動されました。
「【ティファレトの一翼】解放」
炎のダメージ判定を消します。
むしろ炎に飛び込んで、アトリは【死導刃】と【吸命刃】を付与した刃で追いすがります。炎の暗幕を抜けた先、そこにはシンズではなく、炎魔の拳が迫っていました。
しかし、アトリの口元には笑み。
スキル【狂化】を発動し、強引に炎魔を一太刀の元に切り伏せました。炎魔の背後、己が使い魔ごと切断するようにメイスが振り抜かれています。
アトリは冷静に【狂化】をオフにし、アーツを使用しました。
魔指輪【テテの贄指】からの【ティファレトの一翼】連打。
アトリの肉体を透過していく渾身の一撃。隙だらけになったシンズの首に、アトリの【死に至る闇】が叩き込まれます。
「想定を越えてるわね」
「おまえも強い。でも――」
アトリの大鎌はギリギリのところで防がれました。
大鎌に首を切断される寸前、シンズは己が左手を首と大鎌との間だに差し込んだのです。アトリの【首狩り】は首に当たらねば発動しません。
何らかのスキルやアーツ、あるいは素のステータスによるものか。
アトリの大鎌はシンズの左手首を切り落とすに留まりました。ギリギリ首には刃が届かなかったようですね。
私が作ったステップにて、アトリは空中に佇んでいます。手に持っていたシンズの左手首を光で焼き払います。
「――勝つのはボク」
深紅の瞳が深い闇とともに光をまとい、ぐるぐると敵を見据えました。
「あら、お姉さんこわい」とシンズが微笑みました。
今までの攻防は一分に満たない間に行われました。
他のNPCたちとの戦闘とは隔絶した――遙か高みの戦闘。思わず私は唸ります。
「一手遅いほうが即死する世界ですね」
「……殺すのは邪神の使徒たるボクの特技。です」
アトリもシンズも、同格同士の潰し合いに疲労しているようでした。だらだらと汗を流すアトリは珍しい。
「さっさと決めましょうか」
シンズが糸目を見開いて言います。
「これ以上は街の被害が洒落にならないもの」
見渡せば、発展していた都市は戦争でも起こったかのように荒廃しています。高いビルは砕けていたり、上半分が両断されていたりしますね。
アトリの【シャイニング・スラッシュ】によるものでしょう。
地上では獣人たちが避難もせずに喝采をあげています。
瞳に恐怖の色はなく、憧憬と興奮の熱気があるのみ。
……ヤバい種族です。が、こういう時に非難してこず、むしろ盛り上げてくる人はむしろ気が良すぎるような気もしますね。
ちょっと獣人が好きになりつつあります。
観戦者の中にはジークハルトもいます。
乱入してくることはないでしょう。彼は最上の領域の中でも最強のようですけれど、乱入してくればアトリとシンズが手を組むことでしょう。
ジークハルト、クルシュー・ズ・ラ・シー、レジナルド、コーバス。
VS
アトリ、メメ、シンズ、エルフ陣営となってしまえば……さすがのジークハルトもただでは済みませんし、済ませません。
今のジークハルトは戦況を見つめ、アトリが敗北すれば入ってくるくらいしかできないでしょう。
要は勝てば良いだけのこと。
いつものことです。
アトリが光りの炎を纏います。ぴょこん、と狼耳が生えました。放たれるプレッシャーはもはや最上の領域でも上位の威圧。
思わず、と言ったようにシンズが空中で一歩を下がりました。
なお、獣耳を認めた地上の獣人たちは……破裂するくらいに叫びました。楽しそう。
―――――――
作者からのお知らせです。
明日から新連載『最強魔術師が8人で殺し合うお話-精神魔法と隻眼の魔王-』を始めようと思います。
初日は五話更新、翌日は四話、三話、二話となって、それからはストックが尽きるまで毎日更新となります。
よろしければ、よろしくお願いします。
タイトルだけで内容がわかりづらいかもしれませんが、内容としては魔術師が8人、殺し合うお話しとなっております。
タイトルは考え中です。更新していく中で変更するかもしれません。
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