第242話 アンフェスバエナ戦
▽第二百四十二話 アンフェスバエナ戦
ギースが前に出ると同時、巨竜の前足が振りかぶられました。人類種が扱う大剣がペティナイフに見えるような攻撃に対し、ギースは真正面から長剣をぶつけました。
「死ねええええええ! 【カタストロフ】!」
『ぎゃああああああ!』
爪と剣とが激突。
武器が破壊される代わりに大ダメージを与えるアーツによって、ギースは見事にアンフェスバエナの前足を真っ二つにしました。
砕ける剣の破片。
きらきら光る鋼片の向こうでは、ギースが嬉しそうに微笑んでいます。
「やった」
「避けろ、ギース」
「――っ!」
ギースの頭上。
アンフェスバエナの首のひとつが大口を開けて突っ込んできています。腕はあくまでも囮。本命は首による致死攻撃だったようですね。
こういうのを見抜けなく、しかも反応できないのがギースの弱いところです。
ギースがアンフェスバエナに丸呑みにされました。
けれど、ギースは弱くとも「最強議論スレに名の上がる人物」でした。ただで殺されるほどに脆弱ではありません。
「回復しやがれ、ど天使ぃ! ――【自爆攻撃】!」
自身に大ダメージを与える代わり、敵には特大ダメージを与えるのが【自爆攻撃】の特性です。ギースのジョブ【デスペラート】はロゥロと同じジョブ……つまり攻撃力が高い職です。
その攻撃力で【自爆】を叩き込みます。
口内から爆破されたアンフェスバエナが、首を鞭のようにしならせて暴れ回ります。
「アトリたんでも遠慮してるのにみゅん! 【ヒール】【アフターヒール】【ヒール】! きつきついきついみゅん! みゅん!」
「わわわ、【イシュタル・ペース】が使えたら回復量アップを付与できますのに!」
ノワールがペニーを抱えて叫びます。
毒首蛇は独自に動き、ノワールたちをうねうねと追い続けています。それから逃げているようでした。
ミャーがアンフェスバエナの頭部に矢を炸裂させます。
しかし、硬い鱗に阻まれてしまい、有効打にはなり得ないようでした。狩人は獰猛に笑い、けれども舌打ちを零します。
「暗殺じゃないからダメージが足りないな。○さん、お願いするね」
「任せな……【アクア・ドリル】」
深い深海色の水が寄り集まり、激しく回転を始めます。その螺旋運動によって貫通力を上昇させて、強引にアンフェスバエナを突破するつもりのようでした。
同時、アトリも【コクマーの一翼】を解放します。
発動するのは【スナイプ・ライトニング】でした。
「行くよ、アトリ!」
「うん」
同時に発射。
アンフェスバエナは回避しようと巨体を動かそうとします。けれど、それよりも早くアトリがアーツを使用しました。
「【マルクトの一翼】使用」
城を出現させるアーツです。
ある程度、造形を弄ることのできるお城は、アンフェスバエナを門と門とで挟み込みました。敵の膂力があれば門を引き千切ることは容易でしょう。
けれど、僅かな停滞が命中を引き出します。
『ぎゃあああああああああああお!』
断末魔を上げてアンフェスバエナの首が吹き飛びます。
内部に居たギースは1秒だけ無敵になる指輪で耐久したようです。一度使用すれば一ヶ月は役に立たなくなる指輪だそうです。
しかも解除不能。
ですけれど、今の攻撃を耐えきれるならば良かったでしょう。
這い出してきたギースはズタボロでした。
「ギース。首蛇を止めろ」
「……うす」
アンフェスバエナ本体は厳しいでしょう。
ギースが走り出し、ペニーたちを追っていた首蛇に飛びかかりました。尻尾で殴られて吹き飛びましたが、大天使みゅうみゅさんは予見していたようで【アフター・ヒール】が入りました。
「ギースさん、足止めするみゅん! 倒さなくてオッケーみゅんみゅん!」
「みゅんみゅんうるせええ!」
「ギースさんは単純に声がうるさいみゅんな!」
「黙って仕事しやがれ!」
「叫んでていいから仕事を増やさないでほしいみゅん!」
ギースが剣を振るい、どうにか首蛇を止めに掛かります。
その様子を横目で窺っていたアトリは、アンフェスバエナと斬り合いをしていました。双頭の竜は次々、左右の首で交互にアトリに噛みつきます。
前足のひっかきも加わり、さらには魔法も放ってきますよ。
そのすべてをアトリは真正面から切り伏せます。
観戦に徹しているペニーが零しました。
「すっごいですねー。竜と真っ向から斬り合ってますー」
一人で神器を四つも装備しているアトリは、そのステータスだけでも化け物レベルでした。レイドクラスのモンスターとも真っ向から叩き合えました。
とはいえ、ダメージを喰らえばノックバックしてしまいます。
すべての攻撃を綺麗に捌いている証拠ですね。
「……慣れてきた。です」
この戦いを使い、アトリは【神楽】と【体術】の融合を使いこなしつつあります。今回の戦闘では「回復能力」が禁じられています。
ゆえに「下手な被弾」が許されません。
いつもとは違う立ち回りが要求される中、アトリは理解したようですね。
「無駄な被弾を減らす。です!」
いつもは「骨を断たせて命を絶つ」のがアトリスタイルです。けれど、それはあくまでも【神楽】スキルオンリーだった時の場合です。
今の身のこなしがあれば、アトリは攻撃を回避しながら致命打を与えるのが正解でしょう。
ダメージを喰らうとノックバックがありますし、攻撃態勢も崩れますからね。
今回の試練、むしろ良い機会だったかもしれません。
被弾しないことを覚えたアトリは、一気に見違えました。アンフェスバエナの猛攻をステップで華麗に回避し、空ぶる首に次々と斬撃をぶち込んでいきます。
『ぎゃっ!』
連続ダメージに怯んだ双頭竜が、二つの首を大きく後ろに下げました。
大きな隙に対し、狩人の少女が目を光らせています。口元に湛えられているのは野生動物のような笑み。
「アトリ隊長が首に何度も攻撃を入れて死なない……さてはお前、生きてねえな」
アトリには見せぬ乱暴な口調で、狩人の少女ミャーが弓を引き絞りました。ぎしぎしと唸る矢の先端は雷属性の鉱石で制作されています。
弓の強みのひとつとして、矢を変えることによって効果を変化させることが可能です。
お金と素材が必要なので、常用できるわけではありませんが。
バチバチと雷電を纏う矢が――放たれました。
「痺れな?」
ミャーの矢が炸裂したのは心臓付近。
一気に雷が迸り、アンフェスバエナが動きを微かに停止させました。その停止時間を扱い、アトリが詠唱を開始します。
「開け【死に至る闇】」
近未来的なデザインの大鎌に闇が纏わり付きます。
すっとアトリが駆け出します。大型バスサイズの竜に真正面から幼女が突撃しました。麻痺から回復したアンフェスバエナが慌てたようにブレスを口内に含めます。
「万死を讃えよ!」
氷属性と毒属性のドラゴン・ブレスが放たれようとします。けれど、アトリは平然と【ビナーの一翼】で氷属性のブレスのチャージをキャンセル、放たれた毒属性ブレスを【ティファレトの一翼】を使ってダメージ判定を失効させました。
切り札を無効化されたドラゴンは、何も許されずに死神幼女の射程に収まりました。
「【
死が一閃されました。
所詮は討伐後のフィールド・ボスの現し身相当のボス。
アトリの【
さて、戦いも終わりましたし、得たモノのリザルトを行いましょう。
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