第239話 悪魔の生き方

    ▽第二百三十九話 悪魔の生き方

 突撃したアトリは、しかしすぐさまに吹き飛ばされました。


 不可視の攻撃。


 悪魔の力のひとつ――【シェリーダーの一翼】の開放状態です。

 圧倒的な攻撃力を持つ透明な腕に、アトリの腹が引っ掻かれるようにして破られました。血を撒き散らしながら、怜悧な目でアトリは戦況を把握しました。


「前よりすごい」

「だってぇ、この体は100レベルだもん♡ 格が違うの♡」

「【イェソドの一翼】使用」


 アトリは未来視を発動しました。

 あの腕の危険なところは「気配」さえも存在しないこと。

 ノーモーションで放たれるところ。


 アトリが咄嗟に反応せねば一撃で殺されていた場面です。

 相変わらず【悪魔の因子】は実力を覆すチート性能をしていますね。ただし、今回の肉体は因子頼りの雑魚ではありません。


 ルルティアがざくり、と地面を槍で突き刺します。


「この前にルルティアちゃんたち約束したでしょ?」

「?」

「ほらぁ♡ 今度会うときはお互いに羽が10枚揃ってからね、って……ルルティアちゃんから約束破ったの♡ つらい♡ でもねぇー、相手が天使たんだって知らなかったの♡ 無知無知でかわゆいルルティアちゃんを許してくれるよね♡ だからね?」


 私たちが忘れていた、一方的な約束を持ち出してルルティアが提案します。


「見逃したげる♡ 前は先に天使たんが約束破ったし、一回は一回だよね。だからこれでチャラチャラチャラーんなのだ♡」

「どうでも良い」

「良くないないない♡ でもでもぉ、ノワールたんを攻撃するのはNTR無様女との約束だから、それはさせてね? ね♡ 良いよね♡ 良いって言え。ゆってゆって♡」


 ルルティアの言葉を聞くだけ無駄です。

 ――無視一択。


 すでに腹部の傷を【再生】させたアトリが駆け出します。

 それに対してルルティアは飛び掛かってきての槍を一閃、大鎌を力尽くで抑えます。と同時、透明の腕で後ろからアトリを攻撃してきました。


 無論、視えているアトリには効きません。


 というよりも、私が先に妨害させていただきます。発動するのは【敵耐性減少】スキルと【プレゼント・パラライズ】でした。

 発動と同時、ルルティアが槍を取り落としました。

 硬直した表情には僅かな――笑み。


 アトリがぐるぐると目を狂信に回し、全力で片足を振り被りました。


「【奉納・戦打の舞】」


 蹴りのアーツが槍使いを蹴り付けます。それは身長差などによって、偶然ながら……男性的には見ていられない箇所を潰しました。


【奉納・停克の舞】


 後隙を瞬時にキャンセル。

 目を剥くルルティアに、アトリはトドメとばかりにアーツを重ねます。【奉納・災透の舞】によって空気抵抗を透過する大鎌は、独特な音を上げて……炸裂する。


「【月天喰らい】」


 大鎌のアーツが槍使いの首を斬り飛ばしました。

 後方に吹き飛んでいく肉体。首を失った肉体は……首を失ったままに股間を押さえています。地面に墜落した首が喋ります。


「いったぁーい♡ タマタマがペーストになった♡ どろどろぉ、えっぐ♡」

「……なんで死なない?」

「この体ね、麻痺対策してない癖に【致命回避】スキルあるの♡」


 致命回避があっても首を落とされれば死にます。

 というか、【致命回避】があれば首が落ちるようなダメージを受けても、首は大ダメージを負うていどで落ちません。


 憑依しているだけで、あの身体で生きているわけではない、ということでしょうね。


「じゃ、ばいばーい♡」


 ルルティアが手を振り、自分の頭を自分の足で踏みつぶしました。

 ぐちゃり、と脳髄が飛び散りました。


 一見、意味不明な行動に見えましたけれど、どうやらルルティアは目的を完遂していったようです。

 最期、ルルティアは――【アィーアツブスの一翼】を起動したのです。


 その使用効果は「自身のダメージを他者に移動する」力。それによって自身の致命傷をノワールに移し替えたのです。

 こればかりは見えていてもどうしようもありませんでした。


 アトリが与えたダメージに、ノワールが悲鳴をあげました。

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