第237話 第九階層での戦い

    ▽第二百三十七話 第九階層での戦い

 泣く泣く第八階層を越えましたら、ようやく第九階層に辿り着きました。ここまでやって来るのにゲーム時間で二日と半日が必要でした。


 これは化け物的なペースとなっております。


 すべてペニーと鎧袖一触能力の高いミャーの存在のお陰ですね。今回に限ってはアトリの活躍は大したことがありません。

 かなり楽をさせてもらっています。

 まあ、苦労なんて出来るだけ売ってしまいたいお年頃。嬉しいと喜ぶことはあっても、目立ちてえと苦悩することはありませんとも。


 ギースはちょっと不満げですけれど。


 頑張ってもらいたいですけれど、ギースって固有スキルがないと激弱です。たまにデメリットあり武器やアイテムを使っては、デメリットで苦しんでいるのが現状でした。

 さて、私が哀れなギースくんのことを考えていると、アトリが地面に視線を落としました。


「シヲたちがやられた。です」

「ほう。それは残念でしたね。翼をひとつでも消費させていたら良いのですけれど。どうせペニーが覗いていたのでしょう。問うてみてください」

「はい! です! ペニー」


 アトリが視線を向ければ、車椅子の美女は「待ってました」とばかりに頷きました。


「シヲさんとロゥロさんがルルティアたちと交戦。結果、ルルティアは【キムラヌートの一翼】を切りました」

「【キムラヌートの一翼】ってなんだ?」

「事前に調べておきましょうね、ギースさん。【キムラヌートの一翼】の使用効果は『スキルの影響を破壊する』です。もっとも厄介なアーツがなくなりました」

「へえ」


 要するに強制的に全スキルレベルを0にされるアーツでした。

 把握していてもどうしようもない、凶悪無慈悲なアーツと言えるでしょう。知っていても準備しておいてもどうしようもない技ですね。


 今までの努力を一瞬で無に帰してくる、ある意味でもっとも悪魔らしい攻撃です。


 使用者本人も影響を受けるのは唯一の良心。けれど、スキルが使えなくなることがどのようなことなのかが定かではありません。

 慣れておらず混乱しているうちに、慣れている悪魔だけが一方的に動けるのでしょう。

 それをシヲたちに使った。


「急いでいたのでしょうねー。シヲさんは時間を稼ぐことに特化してます。ロゥロさんも放置していれば被害が大きいですしね。一瞬で倒すために【キムラヌートの一翼】を切ったのでしょう」

「なるほどみゅん。敵の悪魔は遊んでいるみゅんな。今回で決めるつもりはないっぽいみゅん」

「ですねー。おそらく契約者の約束を果たせばすぐに消えるでしょう。悪魔のちょっかいは油断したら絶命ですけどねー」


 その他、判明したこともあります。


「ルルティアの今回の依り代は槍使いの土属性使いです。ルルティアとはかけ離れたスキル構成なので脅威度はかなり落ちますねー」

「本当のスキルはなに?」

「二刀流の短剣使いですー。片手にソードブレイカー、もう片手にはスティレットという奇妙な組み合わせの使い手です」


 ソードブレイカーは防御特化の短剣です。

 厳密には敵の刃を破壊することが目的の武器なのですが、その構造上、敵の武器を破壊しようとしたら自分が壊れてしまうという哀しき武器でもあります。


 しかし、それはあくまでも現実でのお話。


 ここはファンタジーゲームの中の世界。本当に武器を破壊することが可能な凶悪武器の確率もございます。ファンタジーに現実を求めるのはナンセンスでしょう。もっとも危険な未来を想定しておくべきですね。


 また、スティレットはトドメ専用の刺突短剣です。

 これもファンタジーならばトドメ専用と言わず、通常戦闘でも強いと見るべきでしょう。


 とかく、ルルティアが苦手な槍を使ってくれるのは幸いです。


「で精霊憑きが二十名ー」

「……こわ」


 私は言いました。

 その情報は普通であれば絶望的な知らせです。精霊は、プレイヤーはNPCとは桁違いの厄介さを有しています。


 ダメージ無効。

 ステータスは【決戦顕現】をすればボス並みに高く、一般NPCとは一線を画す情報量によって強スキル・アーツを集め、さらには育成済みのNPCと連携を取っていくのです。


 こちらの精霊は三体。

 こちらには最上の領域たるアトリがいますけれど、精霊の悪質さは最上よりも上でしょう。だってダメージ喰らいませんから。


 それが20にルルティアです。


「……どうしますー、隊長?」


 ペニーがにまにましながら問うて来ます。

 おそらく彼女のことです。英雄の選択というモノを見たいのでしょう。絶対不利な状況下。逃げても向かっても……どちらでも楽しめる、とでも言うように。


 アトリが私を見やってきます。


「皆殺しです、アトリ」


 まだ今週の第十階層に辿り着いた人はいません。ダンジョンの構成次第では乱入される恐れがあります。魔物や罠と一緒にプレイヤーまで相手していられませんからね。

 やるべきでしょう。

 幸い第九階層の間取りはシンプルでした。待ち伏せには程よく。


 アトリが言いました。


「神は言っている。ここで皆殺し……です!」

「ひゅー、ネロさん過激みゅーん!」

「うるさい」

「ひい、みゅん!」


 怖がった大天使みゅうみゅさんを尻目に、私たちは対プレイヤーとの決戦に備えて作戦を練り上げました。

 あとは敵を待つばかり、だと私たちは待ち構えました。


 やがて。

 たくさんの足音が階段を登ってきます。二十のNPCと二十の精霊の姿は、敵としてみた場合、中々に圧巻でした。


 先頭を歩くのは髭塗れの槍使い。 

 アトリと視線があった槍使いは、口元を裂くように微笑みました。


「あーん、天使たんじゃーん♡ 奇遇♡ やだやだ♡ ルルティアちゃんに会うために待っててくれたの? キッショ♡ ストーカーじゃーん」

「死ね」

「やだやだ♡ 生きるのー♡」


 悪魔ルルティアとの二度目の邂逅でした。

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