第236話 第八階層とオリハルコン

    ▽第二百三十六話 第八階層とオリハルコン

 二日で第八階層までやって来ました。

 途中、羅刹○さん、私、大天使みゅうみゅさんの順番で交互に休憩も取りました。大天使みゅうみゅさんは最低限の休憩しか取りませんでしたが……


「それにしても」ペニーが隈を作った目でアトリを見やります。

「アトリ隊長っていつ寝てるんですかー?」

「神様が寝ることを望むまで」

「鬼畜なんですか、神様はー?」

「違う。神様は世界で一番やさしい」


 アトリは黙々とシヲを相手に組み手をしています。休憩時間中もまったく休む様子が見られませんでした。


 ギースは地面で鼾をかいています。

 ノワールは大天使みゅうみゅさんが【アイテムボックス】から取り出したソファで指を組んで、眠れる森の美女のように眠っています。


 ミャーは見張りをしていました。

 狩人たるミャーも寝ている様子がありません。けれど、彼女の場合は「狩りの途中での休み方」も一流のようで、いつの間にか寝ていたとのことです。


 アトリがソロだった場合、休憩はまったく必要としません。

 けれど、今回はパーティでのダンジョン・アタックです。多少の休憩は必要でしょう。アトリにしたって休憩をして問題が発生することはありませんしね。


 ペニーが欠伸を漏らしました。


「アトリ隊長、普段まったく動かないので私は疲労がピークですー。とりあえずグッスリ寝て疲労除去ポーションは飲みますけれど……頭痛も酷いですしね」

「解った。休むと良い。偵察はシヲがやる」

「はいー。あと悪魔についてですけれど、今は第六階層にいます」


 かなり早いですね。

 敵にペニーはいないはずなのですけれど……【アディシェスの一翼】の効果かもしれません。あれは他者の記憶を閲覧できるアーツだそうです。


 それをダンジョン内を徘徊している魔物や虫に使い、私たちのルートを再現しているのかもしれません。速攻で駆け抜けている分、どうしても魔物や何の害もない虫は取りこぼしています。

 遠くの魔物まで攻撃していては、ミャーたちのリソースが尽きてしまいますからね。

 今回、アトリだって【再生】によるMP回復まで禁じられていますし。


 まさかの事前に取得した【ビナーの一翼】が役立っています。

 MP消費軽減の面目活躍ですね。


 ペニーが車椅子に腰掛けたまま、突如としてこてんと首を傾げました。どうやら眠ったようです。なんだか病的な印象があります。

 今回、ペニーは「何を制限」されているのか。

 本人は秘密主義のために教えてくれませんけれど、おそらくは処理能力に関係する固有スキルでしょう。


 でなくば、【召喚術】や【鑑定】【危険感知】などが禁じられているはずです。


 ペニーは数百の魔物を自由に操れます。

 蝶などのような「戦闘能力皆無の代わりに数をたくさん呼べる」系の召喚を好んでいます。それすべてを完全に制御する手腕は固有スキルの領域。


 固有スキルを使っていてもおかしくはありません。


 今までダンジョン内限定とはいえ、固有スキルを封じられた状態で今まで通りのスペックを発揮してきた可能性があるのです。怪物と言えるでしょう。いつもは厳重に警護された屋敷の奧で暗躍するタイプだったようですし、慣れぬ現場でこの活躍は驚愕級ですね。


 眠ったペニーを見やってミャーが苦笑しました。


「こいつも大概っすねー。それでアトリ隊長、シヲさんのことなんですけど」

「なに? あとシヲに敬称をつける必要はない」

「あたし、プライド高いんでそれば無理っす。で、偵察と警戒はあたしがやらせてもらうんで、シヲさんには敵の足止めさせたらどうっすか?」

「敵?」

「悪魔っすよ。正直、脅威に追われながら狩りするのは楽しいんで邪魔したくはないんすけど。邪魔しないのも本気で狩りしてない感じじゃないっすか。最適と本能のぶつかり合いがガチの狩りですからね」


 こくり、とアトリは頷きました。

 アトリはミャーの言いたいことを理解出来ていないでしょう。けれど、有能な部下の提案を解らないで蹴るほどに狭い器は持っていません。


 アトリは私とシヲ関係以外では、大きな器を擁しています。


 今ならば故郷の人たちも殺さずに許せるのかもしれません。攻撃されたり邪魔されたり、触れられたりしたら容赦しないと思いますけれど。

 多少の暴言くらいならば許すことでしょう。

 アトリを成長させるのが遅かったですね、タタリ村の人たちは。


「解った。ならシヲを派遣する」

「それでしたらついでにロゥロも連れて行かせましょう」

「はい、さすがは神様。です」


 ロゥロは目に付いた敵に対して、永遠に攻撃を加え続ける悪癖があります。されど、今のロゥロには本体制度があります。

 ぬいぐるみを変化させて戦わせる彼女ですけれど、射程範囲があるのです。


 つまり、強引に本体を移動させれば、攻撃を強引に中断させることが可能でした。


「では派遣しましょうか。あ、神器は持たせてはいけませんよ」


 ロゥロを抱えたシヲが発進しました。

 テイムモンスターによる先制攻撃です。向こうもまさか攻撃しようとして、逆に攻撃されるとは想像だにしないでしょう。


 ……まあ、ルルティアたちが我々を狙っているとは限りませんがね。


 普通にダンジョンアタックを楽しみに来ている可能性もあります。その場合は可愛そうですけれど、べつにこのゲームってPKを否定していませんから。

 実際、私は他者からのPKについて文句は言いません。

 ミリムに関しても「歓迎」はしませんがプレイ自体は認めています。


 ゲームがソレを許しているわけですしね。

 ただし、大人しくキルさせるわけもありませんし、やり口によっては普通に怒ったりもするでしょう。


 ミリムの【悪夢再発トラウマ・ビジョン】は本気で嫌いですけれど。


       ▽

 さて第八階層を本格的に進んでいきます。

 ここは通路型の迷宮。ペニーが言うには広間もないようです。ただ単調な通路が続くはずでしたが、我々は思わぬ感嘆の声を上げてしまいます。


「これはオリハルコンですねー」


 迷宮の通路はシンプル。

 ですが、壁や天井、足元には透き通った青空色の石がございました。鍾乳洞のような形態で生えているのはオリハルコンとのこと。


「おりはるこん?」


 アトリが問えば、こくりと事情通のペニーが頷きました。基本、アトリやミャーのような有能に使われることだけに興奮を見せる彼女に珍しく、ウキウキと口調が上擦っています。

 うっとりと頬に手を当てて教えてくれます。


「これは最高級の鉱石なんですよー」

「すごい?」

「すごいですよー。まず物質として硬い。そして魔力によく馴染むので強化しやすいのですよね。魔力と高い生産スキルがあれば、かなり自由に効果を弄れますし、その効果量だって跳ね上がりますよー」

「へー」


 棒読みでオリハルコンを見上げるアトリ。

 オリハルコン……ちょっと興味があります。というよりも、ファンタジー系のネット小説やゲームを遊んでいる人で、オリハルコンがほしくない人っていますか?


 じつのところ、私はオリハルコンを使用したゴーレム作りに興味があります。


 というのも魔教の幹部・オリバーがオリハルコンで巨大なゴーレムを作っていたことが、どうしても気になってしまうのです。私の作ったセックは超優秀ですし、ことルックスに関しては比類がないでしょう。


 けれど、単純なスペックでは……セックは負けていました。


 神器化してあり、スキル構成によって勝利することはできたでしょう。ですが、ステータスとして負けていたのは事実なのでした。


 私は負けず嫌いなところがあります。


 それを美点だとも汚点だとも思ってはいません。

 ただ抑える必要があるとはこの場合は思わない。ゴーレムのスペック勝負で負けたままは面白くないので、是非ともオリハルコン製のゴーレムを作りたいところ。


 造形だけ私がやって、セックに作らせますけどね。


「金になりそうだな」


 言ってギースが物欲しそうにしています。

 首を振ったペニーは、珍しくギースに同意するように言いました。


「なるでしょう。私もほしいですけれど、オリハルコンは【採掘】系のスキルが必須です。アトリ隊長でも壊すのが精々でしょう……オリハルコンとしての性質も壊れますが」

「これは見るだけ?」

「そうなりますねえ」

 

 ますますセックを連れてくるべきでしたね。

 今回は攻略がメインでした。ですから、このまま進むことになりますけれど、オリハルコンは惜しいところです。


 このダンジョンからはオリハルコンが採れることが解りました。

 間取りが週替わりで変更されるので、このオリハルコンたちも老い先短いでしょう。場合によっては攻略後、セックを引き連れて再度アタックしても良いかもしれません。


 マップはありますしね。


 ペニーもそれに気づいたのでしょう。やや悪い顔をして、きこきこと車椅子で私に接近してきました。


「ネロさまー? マップは私が提供したんですからね? あとモンスターハウスなどにぶつからない、安全・簡単ルートも用意しておきましょうかー?」


 私は上下に移動しました。

 どうやらペニーとは仲良くやれそうです。目指せ巨大オリハルコンロボ……私、あんまりロボって興味ないんですけれど、やっぱり大きいって強そうですしね。


 すると、私たちの会話を耳にしたミャーが手を上げます。


「はいはい! あたしもほしいっす! 鏃にオリハルコンを使いたい。お支払いは金銭でも素材でもお手伝いでもオッケーです」

「アトリ、オッケーしてください。今回の依頼に付き合ってもらうわけですしね」

「はい! 神様……神は言っている。オッケーする」


 依頼主はペニーですけれど、あくまでも建前は「アトリが神器会議」に参加するため、ですからね。護衛として呼んだのに報酬のひとつやふたつを用意せぬほうが気持ち悪いでしょう。

 ギースにも分けましょう。

 そうなると……大天使みゅうみゅさんは目をそらしています。


 ほしいけれども、とくに差し出せるモノがないからでしょう。隣のノワールは「どうやら回収手段があるようですね。皆様、おめでとうございます!」と私たちを祝福してくれています。

 生粋の善属性……ノワール。

 自分が手に入れられないことを知りながら、普通に他者のメリットを喜べるようでした。


 まあまあ。

 どうせたくさん採掘する予定なので、あとで大天使みゅうみゅさんに分けても良いでしょう。敵ならばともかく、大天使みゅうみゅさんは敵ではありません。


 優良プレイヤーが強くなれば、不良プレイヤーが減じることに繋がることでしょう。


 私たちが人類種に敵対するプレイをした時が問題ですけれど……その規模になれば装備のひとつやふたつは焼け石に水でしょう。


「とりあえずオリハルコンゲットですねー」


 と。私は捕らぬ狸の皮算用に勤しみました。

 良いダンジョンですね、ここ。

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