第235話 第二階層
▽第二百三十五話 第二階層
我々は第二階層に辿り着きました。
この試練迷宮アモルヘイアの特徴は「試練」となっております。されど、それ以外にも特徴はあるようです。
それは週替わりでダンジョンの間取りが変化することです。
ゆえに前回突破者のマップ情報はまったく役に立ちません。ゼロからマッピングして迷宮型のダンジョンを攻略せねばなりません。
本来でしたら、戦闘に罠解除にドロップアイテム回収に迷路に……と大変です。
けれど、今の私たちにはペニーがいます。
まったく迷うことなく最短距離で進んでいけます。
魔物も鎧袖一触。ペニーが索敵してミャーが先制攻撃で仕留め、生き残った敵はアトリかノワールが射貫きます。
きこきこと車椅子に乗っているペニーが報告してくれます。
「おや。ダンジョンに新しい人がやって来ましたねー」
「それがどうかしたんすか、ペニー」と狩人のミャーが首を傾げました。「ダンジョンに人が来るなんて当然じゃないすか?」
ペニーは柔らかに微笑みます。
「そうですね、人ならば。――悪魔ですよ。しかも精霊憑き……隠しているようですけれど羽が10枚あるようなので危険ですよー」
「羽……」
ミャーが恐ろしそうにアトリを見やりました。
アトリの羽は今だに7枚。それでも【天使の因子】は恐ろしいスキルです。まだ王道な性能をしている【天使の因子】ならばともかく、【悪魔の因子】はすべてが凶悪です。
一応、初見殺しの多い【悪魔の因子】は9個まで割れています。
いくつか知っていても対処できないようなアーツもありましたが、何も知らなければ何も許されずに殺されたことでしょう。
まだ判明していない、最後のアーツについては「魂痛についてのアーツ」だと噂されています。が、これが事実だとしたら大問題です。
魂痛はバグなのでしょうがない、という建前が瓦解します。
運営が自らの手でプレイヤーに攻撃をしてきた、という事実に繋がってしまいますから。
現に魂痛は問題となっており、政府に申請すれば魂痛が原因で傷を負った場合、お金をもらうことができるくらいでしたから。それでも不満が多いのが魂痛です。
これが仕様内だとしたら……相当荒れるでしょう。
荒れたところで《スゴ》運営や政府はだんまりですけれど。
「ルルティアは厄介ですよー。あそこまで真面目に悪魔をやっている悪魔は稀少です……本体ならばアトリ隊長と固有スキルありのギースさんがいても勝てませんしね」
「……ボクのほうが強い」
「いずれは、ですねー。カラミティーと一対一ではまだ勝てないですよねー」
「む」
というかルルティアの本体ってカラミティーなんですね……
あれがフィーエルや精霊王と同格、というのはなんだかなあ、です。もっと悪魔たちには頑張ってほしかったところ。
「急ぎましょうかー」
▽
第二階層もまた全力疾走で進んでいきます。
ペニーの車椅子はアトリが押し、足が遅めの大天使みゅうみゅとギースはシヲが担いでいます。
ちなみにギースはあれから魔法の特訓を繰り返したようです。
風魔法に適正のあった彼は、魔法で速度を上昇させることができるようになりました。が、それでもアトリたちクラスには置いて行かれます。
走りながらミャーが弓を引き絞ります。
口元は狂気的な笑みが湛えられていました。
「一射一殺! 狩りの時間だ」
しゅぱん、という音とともに前方から駆け寄ってきた魔物が血飛沫をあげます。その血飛沫が跳ね、隣にいた別の魔物の目に入り込んだようです。
目を瞑ったところに、ノワールの射撃が入りました。
足を吹き飛ばして動きを止め、転倒したところにアトリが片手で小鎌を投擲しました。鎌は首に突き立ち、敵の命を奪い取りました。
このようなペースで我々は止まることなく、ダンジョンを突破していきます。
モンスターハウスに突入しましたけれど、封鎖と同時にギースが先陣を切ります。シヲの触手から飛び出し、マジックバッグから取り出した魔剣を一閃。
「魔剣【ルインカリバー】!」
凄まじい風が吹き荒び、デタラメに魔物たちを切り刻んでいきます。ぐちゃぐちゃになった魔物の死骸で室内が溢れました。
ギースが血を吐き、魔剣には罅が入ります。
膝を突いたギースの隣をアトリが駆け抜けていきました。
「……!」
一瞬で生き残った敵陣に侵入。
と同時、大鎌が何度も振るわれて首がすぽんすぽんと吹き飛んでいきます。踊りのような動きで敵間を抜けていき、【体術】由来のスピードで一撃を与えていきました。
すべてを殺し尽くした後、死体の山の隅で死神幼女は首を傾げていました。
まだ慣れないようです。
今のアトリでコレですから、もっと低レベル・低ステータスの時に取得させていたら詰んでいたかもしれませんね。
半透明の壁が消え失せました。
第二階層にボスはいなかったようです。あっさりと三階に到着しました。
本当でしたら罠や迷路で手間取るはずですけれどね。
あまりにも簡単に行ってしまい、ちょっとダンジョン攻略の面白みが減じているような気もします。
宝箱もペニーが簡単に開けてしまいます。
ミミックが居れば放置。シヲがちょっと不機嫌そうにしていました。不甲斐ない同族を侮蔑しているのでしょう。
たぶん、シヲが宝箱に擬態していても見抜かれていたように思われますけれど。
逆にペニーやミャーなどは大満足のようです。
完璧な仕事を完璧にこなすのが好きなお二人です。ミャーも狩りなどは万全な準備で罠なども上等で、敵を完封することが好きなようですね。
もちろん、命懸けの狩りも好きなようですけれど。
大天使みゅうみゅについては「試練迷宮RTAみゅん!」と盛り上げていました。どのような状態からでも盛り上げ所を見つけてくるのは凄い手腕だと思われます。
第三階層は無数の広場がメインです。
乱立する広場とそれを繋ぐ廊下が規則正しく並んでいます。
イメージとしてはワッフル。ワッフルは蜂の巣が由来なので、魔物の巣たるダンジョンにはぴったりの構造かもしれませんね。
「ここは中ボスクラスの敵がたくさんいる場所のようですー。まあアトリ隊長たちならば問題ないでしょう。数が少ない分、早いでしょうね」
挑戦しましょう。
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