第233話 意見統一の大切さ
▽第二百三十三話 意見統一の大切さ
すべての魔物を殲滅した後、ペニーが蝶を動かします。見えている限りの罠へ蝶を特攻させて排除しているようでした。
可憐な蝶が罠に突っ込んで爆散していきます。
「これでこの広間は安全ですねー。少し休憩しますかー?」
「食事にする」とアトリが言いました。
ドロップも回収したので良い感じです。
このダンジョンでは望んだことがなるべく影響します。私とアトリは経験値を欲したので、倒した敵のレベルから考えればかなりの経験値をもらえました。
大天使みゅうみゅさんはアクセサリーを願ったらしく、上等なデザインのアクセサリーに歓喜している様子でした。髪飾りを髪につけ、色々な角度で視聴者に見せています。
ひとしきり満足したら、今度はノワールに装備させて……収納しました。
【永続顕現】の数少ないメリットのひとつとして、防具やアクセサリーの装備が簡単というモノがあります。
基本、精霊が【顕現】した時は武器を【アイテムボックス】から取り出すくらいですしね。わざわざ指輪を付けたり、防具を装着したりの時間はないことのほうが多いです。
「では食事にしましょうかー。食材と調理器具は準備してきていますよ」
稀少な大容量のマジックバッグからは、見たこともないような食材が大量に出てきます。すべてが最高品質の高級品とのこと。
セックを連れてくれば良かったです。
ダンジョン内なので理想のアトリエも起動できません。
満足そうに頷いたペニーの車椅子を、ギースが強く蹴り付けました。
「何やり切った顔してんだよ。わざわざ危険に晒しておいて舐めてんじゃねえぞ、女ぁ!」
「はいはい。弱者はすぐに汚い言葉を囀りますね。強い固有スキルを使うのは当然ですけれど、依存して何もしてこなかったギースさん。すみません、弱者が私の四つもある耳に言葉を触れさせないでくれますかー?」
「殺す!」
「無理でしょう? ここにはアトリ隊長もミャーさんもいますしねー」
「他者頼りのど雑魚が!」
「うふふ、これも強さのひとつですー。私は有能なので殺されない」
ペニーは微笑みを絶やしません。
そこに垣間見えるのは圧倒的な自信でした。たしかにペニーを殺すのはアトリの部下だから、という前提を排除してももったいないです。
ペニーの情報収集能力、伝達能力は化け物レベル。
存在がインターネットみたいなものです。
ほしい情報をすぐに蒐集して、伝えたいことを即座に伝えてもらえる。この世界の文明レベルでペニーを手放すなんてあり得ない選択肢です。
舌打ちをしたギースですが、何処かへ行ったりはしません。
できない、と表現したほうが打倒でしょうか。固有スキルのないギースなんて両手両足をもがれて再生を禁じられ、魔法を使うことも禁じられたアトリも同然です。
あと召喚スキルも禁じねば。
それから【狂化】と【ヴァナルガンド】も禁じねば、四肢がなくとも体当たりで敵を殺せてしまうかもしれません。【天使の因子】も支援役に徹すれば厄介でしょう。
……ギースとアトリを比べるのは辞めましょう。
「まあまあ、ギースさん。落ち着くみゅん」
「っち」
「舌打ち怖いみゅん!」
そう叫んで大天使みゅうみゅさんは私の背後に隠れます。といっても、闇精霊たる私の肉体って闇のふわふわですけれど。
頭隠せず尻も隠せず状態です。
思えばこの中で男性ってギースを除けば私だけですね。
このゲームは育成ゲーの面が強めです。
男性でも女性でも関係なく遊べるゲームではあるでしょう。そして、どうせ契約するなら可愛い子が良い、というのはよくあるお話です。
この選択肢でしたら、私の後ろに隠れようとするのも仕方がありませんか。
自分で評価するのは恥ずかしいですけれど、私って頼りないので無意味な隠密です。アトリの後ろに隠れたほうが遙かに安全だと思われます。
その状態でも頭隠せず尻も隠せずでしょうけれど。
深呼吸をして落ち着いた大天使みゅうみゅさんは、大きく伸びをしてから提案します。
「攻略はどうするみゅん? 今回のは明らかに外れみゅんな」
「外れってどういうことっすか?」
ミャーは弓の手入れをしながら問います。
朗らかに大天使みゅうみゅさんが応えました。すちゃ、と【アイテムボックス】から赤縁の眼鏡を取り出して装着してから、
「この試練迷宮《アモルヘイア》の特性は試練みゅん。入ったメンバーの実力や個性、特性、目的……あらゆることを総括してAIが……ザ・ワールドが試練を決定するみゅんな。今まで確認されたのは『パーティ単位でのアイテム使用禁止』『固有スキル禁止』『回復能力低下』『常時ダメージ』『与ダメージ半減』……などなど。色々みゅん」
「あー、その中ならあたしらのは致命的っすねー」
「そうみゅん」
アイテムを禁止されようとも、固有スキルを禁止されようとも、回復能力が落ちようとも、常時ダメージを受けようともダメージが減ろうが、強者は強者のままでやりようがあります。
ですけれど、今回のは厳しい。
自分の戦闘に於ける特徴を殺されるわけです。
戦闘スタイルを変更することは強者には難しい。
「だから一回、ダンジョン攻略を諦めて試練の変更を目指すのも手みゅん」
「だとしたらー」
ペニーが顎に指を添えます。
妖艶、とも言えそうな笑みでした。
「離脱するのは貴女ですよ? メンバーが同じだと同じ試練になりますからねー。試練の条件を変えるために出て行ってもらいますー」
「……そうみゅんね。だとしても無駄なリスクは負えないみゅんな。固有スキルなしのギースさんはアレだし」
ギースが舌打ちを連続で五回もしました。
ただし文句は言いません。だって事実ですからね。
ペニーがぽん、と手を叩きます。
「じつは私たちってとある目的のために第四フィールドを目指していますー。でも、ギースさんじゃなくて貴女が参加してくれますか?」
「え、何をするみゅんか……?」
「それは秘密です。機密ですからね。ただし、私がアトリ隊長やギースさん、ミャーさんが必要だと感じたレベルのクエストではありますけれど」
「……やめとくみゅん」
大天使みゅうみゅさんはわりと常識人ですからね。彼女単体ならばともかく、契約NPCのノワールのスペックが不足しています。
バッファーとしては優秀ですけれど、最優秀のレベルには及びません。
そっち方面の最上の領域はレジナルドでしょう。
「ま、良いんじゃないっすかねー」
弓の手入れを終えたミャーが立ち上がりました。彼女は興奮したように耳を揺らし、鋭い視線でダンジョンの奧を睨み付けます。
「ギースはともかくアトリ隊長がいるんですから。足手まといが一人でも二人でも変わんないっすよ」
「おい、俺様はたしかに固有スキル頼りだが、レベルは80を越えてる。このダンジョンの適正レベルは超えてるぞ」
「……スキルレベルいくつっすか。あたしは弱いのは責めてないっすよ?」
年下女子に論破されてしまうギース。
まあ、暴力こそ正義の世界。舐められたら終わりがマフィアの生き方でしょう。いわゆる職業病という奴ですね。
パーティーはこのまま探索を続行する形にまとまりそうです。
神器持ち会議にギースは居たほうが良いですし、ダンジョン攻略に大天使みゅうみゅさんは居たほうが良いです。私たち目線では続行が吉。
大天使みゅうみゅさん視点では帰還も手でしょう。
今回、悩むのは大天使みゅうみゅさんだけとなりました。
熟考の末、大天使が決断しました。
「じゃ、続けようかみゅん! ギースさんが為す術なく吹っ飛んでヘタレてたのは撮れ高だったみゅんだし! みゅん!」
続行が決定です。
では、そろそろ食事の準備に取りかかりましょう。【クリエイト・ダーク】が使えないので料理を手伝えませんけれど。
というか、この中で一番役立たずなのは【クリエイト・ダーク】を没収された私だったり。【再生】も機能していませんし……まだシヲとペニーくらいしか気づいていないだろう事実を、私は沈黙にて補助します。
色々ありましたが意見の統一はパーティプレイには重要ですね。
こういうやり取りが面倒なので【顕現】を取っていません。普段の戦闘で不便な分、こういう時だけは便利ですね、【顕現】縛り。
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