第231話 モンスターハウス
▽第二百三十一話 モンスターハウス
先頭を歩かされていたシヲが、ふとその歩みを停止させました。
ここは迷路型ダンジョン《試練迷宮アモルヘイア》の第一階層です。基本的には人が五名ほど手を繋いで並んで歩ける幅の道が続いております。
岩製の壁に見えますけれど、この壁はアトリの攻撃でもびくともしません。
本来ならば真っ暗闇のはずですが、謎の原理にて松明もないのに明るいです。
そのようなダンジョン内。
突如として広場に出ました。体育館ホールほどもある空間は、明らかに今までとは雰囲気が異なりました。
『――』
「かみさま……シヲが危険って言ってる。です」
「なるほど。ペニーに確認を取ってくれますか?」
こくり、と頷いたアトリが車椅子の美女に視線を送りました。
「ペニー。神様が確認を取れと言っている」
「ちょっと危険ですよー。ですが、ここが最短距離なのでー」
「そう」
ペニーの悪癖が出ていますね。
ペニーは情報通信兵としての評価はSランク以上とされています。けれど、その厄介な性格によってAランク冒険者に留められているという実績があります。
性格が悪いというよりも、厳しい。
弱者に使われることを良しとせず、強者には強者の生き方を求める。すなわち、ここで困難を避けるような人物とは、ペニーは組まないということでした。
しかもペニーサイドに悪意はありません。
この世界の強者は、どこかが異質です。ペニーの性格も「治れ」と言っても治らないでしょう。
手伝っている立場なのに……という指摘も無駄でしょう。
ペニーは意味を理解してくれないでしょうからね。そういう人でした。彼女にとってはドラゴンが小石を避けるために遠回りしない、という感覚の話でしょうから。
「相変わらずっすねえ、ペニー」
「?」
同僚たるミャーの指摘に、ペニーはひたすら首を傾げるのみでした。溜息を返したミャーは一歩前に出て提案します。
「あたしが偵察に出ましょうか? そういうスキルもありますよ」
「いい。シヲがいる」
『――』
肩を竦めたシヲが率先して前に出てくれました。
シヲはこのパーティーの中でギースを除いて最硬の性能を有しています。念の為にアトリが【リジェネ】をかけ、大天使みゅうみゅも何かのアーツを放ちました。
エルフ形態のシヲが二本足で進み、ちょうど部屋の中心に到達した時です。
ういんういんういんういんういんういん。
という単調なサイレンが鳴り響きました。
まだ広場内に入っていなかった私たちは目撃します。半透明な壁が出現し、広場と通路との間だに屹立しました。
「アトリ」
「はい! 神様!」
アトリが大鎌を一閃。
その大鎌は最上の領域に相応しい威力を内包しております。ですが、半透明な壁には罅はおろか傷さえも入っておりませんでした。
完全に閉じ込められています。
壁から大量の魔物たちが這い出してきます。このダンジョンの平均敵レベルは70。アトリたちにとって強敵ではありませんけれど、この狭さでこの数は大変かもしれませんね。
シヲが動き出します。
二本の腕がうねうねした触手に変化、何度も地面を叩いていきます。すると、その衝撃に合わせて室内の罠が起動します。
……モンスターハウスです。
室内への侵入を切っ掛けとして、大量の魔物、そして罠が出現するようでした。
魔物がシヲに攻撃しますが、シヲは防御さえもしません。HPで攻撃を受けながら、無数の罠を触手で発動させて解除していきます。
「帰ってこい」アトリが呟けばシヲが姿を消し、私たちの真横に出現しました。
シヲはかなりの大ダメージを受けているようでした。
傷だらけです。傷口を見れば改めてシヲがエルフではなく、魔物だということが知れますね。
基本、再召喚する時はHPが尽きたときか、場所を移動させることがメインでした。大ダメージを受けている中、再召喚したことは初です。
スキルが上がったため、前よりもスムーズに召喚ができます。
「……壁が消えた」
『――』
「…………べつに無駄じゃない」
『――』
「うるさい。消えろ」
消えろ、と言いながらアトリはシヲを消しませんでした。驚いた顔をしているシヲを放置して、アトリは首を傾げました。
「罠はどうなったの?」
「見た感じではー」ペニーが頬に手を当てながら言います。「破壊できていないモノは残っていますねー。ですが、モンスターハウスギミックは残っていますよー」
「入ったらまた発動する?」
「しますねー」
「解った。……神様。どうする。です?」
モンスターハウスを通過するメリットはありません。
けれど、逃げるほどのモノではないでしょう。罠には気をつけねばなりませんけれど、それはシヲやギース、ペニーの召喚魔物がどうにかすることでしょう。
大天使みゅうみゅさんは【永続顕現】を維持せねばなのでダメージを受けられません。
あの固有スキルは取得し易いですが弱いのです。それこそ配信者くらいしか役立てられないスキルかもしれません。
「皆殺しです、アトリ」
「! 神は言っている」
パーティーメンバーを振り向き扇ぎ、死神幼女と恐れられる幼女が言い放ちます。ゾッとするような空気に、ペニーが嬉しそうに身をくねらせました。
「――敵は真っ向から皆殺し、です」
「ああ! さすがはアトリ隊長ですー。やっぱり使われ甲斐がありますね!」
「うるさい」
全員で同時に突入しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます