第227話 続いての強化要素について

    ▽第二百五話 続いての強化要素について

 アトリの強化要素は続きます。

 一気にレベリングできたのは幸いですけれど、項目が多いと管理が大変になってきますね。


 新しい魔法アーツや【鎌】系アーツも取得しました。

 ですが、やはり一番に目を引くのは【天使の因子】スキルでしょう。また新しい羽がアトリの背からは生えています。


 今回ので七枚目です。

 取得したのは【ビナーの一翼】でした。


 翼の効果は「消費MPの減少」でした。あらゆる消費MPが減るので便利です。【再生】に必要なMPも減るので、彼女の不死性がより向上したと言えるでしょう。

 今までも足りていた、というご指摘はその通りです。

 逆に言えば【ビナーの一翼】が役立った、という場面が来れば、その時はかなりピンチの時でしょう。焼け石に水です。


 残念ながら【ビナーの一翼】は、私の【ダーク・オーラ】は対象外だったりします。


 このような事情から、今までは取得を後回しにしてきたわけでした。

 使用効果も使いづらいモノとなっております。


「試しにロゥロに使ってみましょう」

「使う。です。【ビナーの一翼】使用」


 召喚していたロゥロに、アトリは新アーツを試し打ちしました。アーツが命中すると同時、ゴスロリ少女の形態が解除されました。

 ただの巨大な骨になったロゥロが暴れ出します。

 召喚を解除して暴挙を止めました。


「どれくらいMPが減りましたか?」

「……半分よりも上、です」

「やはり使い辛いですね」


 使用効果は「大量のMPを払い、対象のアーツやスキルを強制的にオフにする」ことです。今回はロゥロの固有スキル【死者の爪ナグルファル】をオフにしました。

 これだけ見れば強そうなものです。

 けれど、このアーツはあくまでも「オフにするだけ」でした。


 つまり「オフにされた直後に、またオンにすれば良い」という対処をされてしまいます。


 私の【神威顕現】に使われたら詰むアーツではあります。

 ただ格好付けて出てきて、レベル10下がって叩き返されるわけですね。


「ある意味、【ビナーの一翼】は私特攻でしたか。恐ろしいことです」

「この羽は引き千切る……」

「そこまでせずとも」


 自分の羽に手をかけたアトリを制止していますと、いつの間にか山猫族に囲まれていました。殺意や敵意、害意が皆無だったのでアトリも気づかなかったようですね。

 構わずに羽を引き抜こうとするアトリに、山猫を代表してキッドソーが語りかけます。


「助けられた、アトリさん。山猫族はあんたに感謝している」

「解った」

「その……余所から済まないが羽は引き抜かないほうが良いのでは?」

「神様を嫌な気持ちにさせた悪い羽。存在してはならないのだ……」


 嫌な気にはなっていませんけれど。

 ただ恐ろしいな、と思っただけです。仕方がないのでアトリの肩に乗り――精霊体は小さいので幼女の肩に乗ることだって可能です――話を変えます。


「それにしてもアトリは羽がよく似合いますね。十枚揃うのが楽しみです」

「! すぐに揃える! です!」


 もっと可愛くなってしまう……とアトリは自己に戦いています。

 相変わらず属性過多幼女でした。

 そのような幼女にドン引きしながらも、山猫族たちの敬意は薄れぬようです。集まった住民の中には、涙ながらに感謝する方もいました。


 妊娠している女性などですね。


「生まれる子にはアトリと名付けさせてください!」と言っていました。子どもが女の子であることを祈りましょう。


 すっかり英雄扱いです。

 あらゆる言葉や態度でチヤホヤされています。私はこういう場は得意ではありませんけれどアトリは大物のようで気にした様子がありません。


 美辞麗句の称賛も見やらず、私の浮かんでいるほうをジッと見ていますね。


「英雄に乾杯!」とどこかで声が上がりました。

 

 お祭り騒ぎの宴が始まっていますよ。

 中にはすでにお酒でできあがっている人も見受けられます。途中でオークたちにキルされたものの、劣化蘇生薬で助けた獣人ですね。

 男は杯を振り上げます。なみなみ注がれた酒が零れました。


「くそ豚ども! アトリさんの力を目にしたか! 豚はぶひぶひ死んでやがれ!」

「……くだらねえことを言うな、ユーダイ」

「は? なんだよ、キッドソー。寒いこと言うなよな。勝ち宴だぜ!?」

「豚は豚で価値ある生き物だが、オークはオークだろうが。他人の種族をわざと間違えるのは、狩人の誇りを穢してるぞ。だから弱いんだ、てめえは」

「あ…………あ、いや。ほら、酒が入ってるから……」

「酒の所為にするな。てめえが醜い、それだけだろうが」


 はしゃいでいた獣人が黙り込んで、杯を床に捨てて行ってしまいました。……まだ劣化蘇生薬の影響があるので、転んだら復活不能でロストするんですけれど。

 大丈夫でしょうか。


「ったく、勝ち宴は敵の死も弔うもんだろうがよ。……あいつは狩人として再教育だな。戦いと糧と敵に感謝しねえ奴はくだらない強さしか持てないのに」


 キッドソーはわりと苦労人ポジションの人のようでした。

 それでも本能には勝てない辺り、獣人とヒトやエルフとの隔たりを強調させますね。殺し合った敵もリスペクトせねばならない、山猫族の狩人は大変そうです。


 まあ、敵を過度に悪し様に言うのはミリムと同じなのであまりしないようにしたいですね。


「そうだ、アトリさん。これはお礼だ。村を救ってくれてありがとう」

「神様が望んだなら必然」

「ま、まあまあ」


 キッドソーが何かを差し出してきます。それは小さな青い石でした。


「神器使いの知り合いは二人しかいねえが、これが要るんだろ? 俺の武器はユニークじゃないから困らない。良かったらもらってくれ」

「? なに、その石は」

「知らないのか? 神器はベースにユニーク武器が使われている。イメージとしてはユニーク武器に、神器を被せていると思ってくれて良いと思う。【世界女神の救恤ザ・ワールド・オブ・チャリティー】の効果で神器化した奴は例外だそうだけど」

「ボクに神器は関係ない」

「?」


 訝しげにするキッドソー。

 アトリだけは神器のことを「邪神器【黒の聖典ネロ・ビッビア】であると信じ切っていますから。


 ゲームの名称も正式に変更されていますし、むしろアトリだけが正しいまであります。


 キッドソーは困惑しながらも説明を続けてくれました。

 精悍な顔つきに似合わぬ山猫の耳も、困ったように頭上でぺたんと項垂れています。


「でも、基本の神器はベースの武器を強化する余地がある。五段階目からコレが必要になるんだよ」

「? もらっておく」

「そうか。少しでも感謝を示せればそれで良い。村を救ってくれたんだからな。今後も山猫族は全面的にあんたを支持しよう」

「それは好きにすれば良い。敵対するなら死を与えるだけ」


 アトリは大人しく青い石を受け取りました。

 これを使って武器を強化するようですね。そういえば忘却の彼方に置いてありましたが、かつて神器化する前の【死を満たす影】も強化したことがありました。


 かなりの技術が必要で、セックでも鍛えることはできていません。


 また、元エルフ王子の鍛冶職人さんのところへ行かねばです。


 ……ひとつ懸念なのは邪神器【黒の聖典ネロ・ビッビア】はユニーク武器がベースではなく、アトリに流れる血液そのものが正体という点です。

 強化できるのでしょうか。


 大鎌だけでも強化できるのでしたら御の字でしょうかね。


 オークイベントによって強化されたアトリですが、まだ世の中にはたくさんの強化要素が潜んでいるようです。


 すべてを満遍なく拾うことができれば、魔王にも対抗できるのでしょうかね。


「まだまだやることはたくさんですね、アトリ」

「です!」

「では、ひとまずは……食事にしましょう」


 オークたちから略奪した食料が無駄に【アイテムボックス】を圧迫しています。これを提供して、今日は山猫族たちと宴でもしましょう。

 たまにはこういうのも悪くありませんね。

 こうして私たちのオークイベントは終了したのでした。

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